【葉一×グローバルティーチャー】ICT教育の脆弱性

教育系YouTuberのパイオニア的存在の葉一氏と、教育界のノーベル賞といわれる「グローバル・ティーチャー賞」のファイナリストである髙橋一也氏(工学院大学附属中学校・高等学校ラーニング・マネージャー)、堀尾美央氏(滋賀県立米原高等学校総務課主任)、正頭英和氏(立命館小学校教諭)が、オンライン教育の在り方や今後の学校教育について考えた座談会が、7月18日にオンラインで行われた。学校現場は今後の学びの選択肢の一つとして、オンライン教育にどう向き合い、取り組んでいくべきなのか――。第1回は見えてきた問題点や、オンライン教育の特性について語り合った。全3回。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)

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浮き彫りになったICT教育の脆弱(ぜいじゃく)性
――今回、コロナ禍で日本のICT教育の脆弱性が指摘されましたが、実際に学校現場ではどのような問題点が表出していたのでしょうか。

髙橋 本校は都内の私立校で、早くからICTを進めてきていたこともあり、インフラ面ではあまり問題は感じませんでした。

しかし、急な休校によってリアルな教育からオンライン教育への転換を強制的に準備せざるを得なくなってしまったため、「オンラインの教え方が分からない」という問題はありました。

これまで日本の教育自体が教授法をあまり重要視してこなかったことが、今回のコロナ禍で浮き彫りになっているのではないかと感じています。

葉一 3月末あたりから、私のところにも学校の先生方からの連絡が急に増えたんです。例えば、「いきなり動画をつくれと言われても、そんなノウハウは持っていないからどうすればいいのか」とか、「葉一さんの動画を使ってもよいか」といった問い合わせです。

葉一氏のもとには多くの教員から問い合わせがあったという

先生たちが「何かしなければいけないのは分かるが、何をしたらいいのか分からない」と困っている。それは外から見ていても、ひしひしと感じましたね。

堀尾 私は地方の公立高校に勤務しているので、一番の問題はインフラ面でした。他の公立校の先生たちも、まずはその問題にぶつかったと思います。そして、葉一さんがおっしゃったように、教員にはオンラインスキルがなかったので、「何からやればいいのかも分からない」という状況に陥っていました。

今回のコロナ禍で感じたのは、ICTに詳しい先生が学校に一人いるかいないかで、対応の仕方やスピード感が全く違ってくるということです。本校の整備を進めている中で、私の元にも本当に多くの学校の先生から問い合わせがありました。

正頭 本校は京都の私立小学校で、私は校内のICT教育部長も担当しています。確かに、堀尾先生がおっしゃるように、ICTが分かる教員がいるかいないかでは、大きく違ったと思います。

本校では4月からオンラインの朝の会や、オンライン授業に取り組んでいました。プロセスの中でたくさんトラブルはありましたが、全教員に共通認識として「何かしないとまずい」という思いがあったことが、前に進むためには大きかったと思います。

コロナによる休校で「多少のリスクを背負ってでも、とにかくやってみよう」という状況に必然的に追い込まれたことが、結果的にICTを推進する力になったのではないでしょうか。そういう学校や自治体もあったと思います。

教室の授業は再現しない
――コロナ危機をきっかけに、オンライン教育に興味を持った教師は多いと思います。実際にオンライン教育を取り入れることで、従来の授業よりも子供たちの理解度が上がるなどの効果は実感されましたか。

髙橋 エビデンス的なことは、まだ分からないと思います。ただ、これまでの日本の学校教育は、「対面授業こそ素晴らしい」というところが大いにありましたよね。今後、その意識改革は必要でしょう。

「オンラインの教え方が分からないという問題があった」と髙橋氏

対面授業とオンライン授業では、できること・できないことが違います。何を目標にして対面授業にするのか、オンライン授業にするのかを、学校や教師が明確にし、理解した上で授業をする必要があると思います。

私はコロナ禍を経て、オンラインも対面も両方重要だと思っています。それぞれの役割と効果のいいとこ取りをしていけば、もっと授業の生産性が上がるという可能性を感じています。

正頭 本校でオンライン授業を最初にやろうとしたときにテーマとしたのが、「教室の授業を再現しない」ということです。

教室の授業で出来ることをオンライン授業で模倣すると、おそらく子供たちは「やっぱり学校に行きたい」というフラストレーションだけがたまってしまうのではないかと思ったので、「こんなこともオンラインでできる!」ということを目指しました。

あとは、オンライン授業を作成するに当たって、「15分以内で授業すること」「必ず顔出しすること」という2つのルールだけを決めました。その他については、先生たちがアイデアを出しやすいように何も制限しませんでした。

葉一 その15分間は、それぞれの先生たちにお任せしたのですか?

正頭 動画の取り方やアップロードの仕方のような基本的なことだけ研修で伝えましたが、その他はお任せしました。

動画の授業だけなら既存の優れたものがたくさんあります。しかし、小学生にとって重要なのは、「授業で誰が喋っているか」です。つまり、オンライン授業においても、自分の担任など知っている先生が授業をやっていることが重要だと思っていたので、2つのルール以外は緩やかにしたのです。

オンライン授業のメリットを見極める

葉一 正頭先生はオンライン授業をしてみて、子供たちのリアクションなど、どう感じましたか?

正頭 いろいろな面で「難しいな」とは感じました。本校では高学年は「Microsoft Stream」というアプリを使っています。「いいね」ボタンがあり、視聴回数や再生時間、誰が何時にアクセスしたかも全て分かるようになっています。

そうしたデータから興味深かったことがありました。教師が一生懸命に説明しているような授業動画ほど、視聴回数が高かったんです。つまり、子供たちはオンライン授業においては体験的なことよりも、説明を求めていたということです。

With / Afterコロナ時代の教育のために活発な議論が交わされた

普段の授業では、説明ばかりだと子供たちは退屈そうにします。このことからも、髙橋先生がおっしゃるように、教室の授業で子供たちが求めていることと、オンライン授業で子供たちが求めていることは、全然違うのだなと実感しましたね。

堀尾 私も4月末に本校に「Microsoft Teams」を入れた時に使い方の研修を行ったのですが、「普段の授業の再現はできないと思った方がいい」という話をしました。

私が常に思っているのは、ICTやオンライン教育は、自分たちが普段できないことをさせてくれるツールであり、対面授業の何かを増幅させてくれるものだということです。

例えば、葉一さんのYouTubeもかなり生徒に勧めているのですが、何度も好きな時に見られますよね。それが対面の授業ではできない。そういうメリットをどう見極めていくのかが大事ですし、同時に対面の授業で「何をしたいのか」を、しっかり明確にすることも大事だと思います。

(構成 松井聡美)

【プロフィール】

葉一(はいち) 東京学芸大学を卒業後、営業職、塾講師を経て独立。2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学校3年生から高校3年生対象の授業動画や、学生の悩み相談に答える動画を投稿している。チャンネル登録者104万人(8月現在)、再生回数は3億回を超える。著書に『合格に導く最強の戦略を身につける! 一生の武器になる勉強法』(KADOKAWA)などがある。

髙橋 一也(たかはし・かずや) 工学院大学附属中学校・高等学校ラーニング・マネージャー。慶應義塾大学・同大学院で学んだ後に渡米。米・ジョージア大ではPBLやアクティブ・ラーニングなど、効果的な教育方法を設計・開発するための研究に従事し、全米優等生協会に選出される。帰国後の2008年4月から英語教諭として教壇に立ち、2015年からは工学院大学附属中学校・高等学校に勤務。2019年度まで教頭を務める。2016年、レゴを活用した学習活動が生徒の創造性と主体性を引き出す活動として、日本人として初めて「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 10に入賞。2018-2019年はオランダ・ユトレヒト大学大学院にて認知心理学の研究に従事する。著書に『世界で大活躍できる13歳からの学び』(主婦と生活社)。

堀尾 美央(ほりお・みお) 滋賀県立米原高等学校 総務課主任。2018年の「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 50に入賞。ICTを活用して、地方の公立校でもできる世界との交流の在り方を考え、Skypeなどを活用して生徒へ英語によるコミュニケーションの機会を継続的に提供。同賞入賞時点で25の国々とコミュニケーションを実施し、国を当てるゲームや複雑な議論など幅広い活動を行っている。活動の中ではコミュニケーションする国の課題をお互いに挙げ、それを解決する製品開発のアイデアについてプレゼンテーションし合うような継続的な活動も行っている。

正頭 英和(しょうとう・ひでかず) 立命館小学校教諭、ICT 教育部長。2019年の「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 10に入賞。Minecraft: Education Editionを通してプログラミング的思考を養うとともに、教科をまたいで総合的な人間力を高める授業が評価された。Minecraftで京都の街並みを作り上げることで、児童の創造性を高め、児童同士のチームワークや論理的思考を構築し、さらにSkypeを活用して海外学生に制作物を発表することで、「使える英語力」と幅広いコミュニケーション能力を養っている。著書に『世界トップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書』(講談社)など。


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