【北欧の教育最前線】「ゲットー」と地域スポーツクラブ

北欧諸国の放課後活動の様子を3回に分けて紹介するこのシリーズ。第2回は、デンマークの“運動部”的活動を取り上げる。デンマークでは多くの子供たちが地域スポーツクラブに通っている。男子にはサッカーやハンドボール、女子には水泳や体操などが人気だ。地域スポーツクラブは全国に約1万6000あり、3割の国民が会員となっている。スポーツ政策の要であると同時に、社会統合の重要な立役者でもある。


市民からエリートまで

デンマークは国際大会でメダルを獲得できる選手輩出の「効率性」が高い。独立行政法人「チーム・デンマーク」は、国際レベルの優秀選手育成環境を持つ自治体を選定し、地域スポーツクラブや教育機関と連携して育成に取り組んでいる。

例えば、その地域の学校に特別クラスを設置したり、高校にスポーツアドバイザーを置いたりして、競技出場のために欠席が多い生徒たちが助け合う取り組みや、在学期間の延長などを行っている。また、優秀選手が所属する地域スポーツクラブには、自治体から強化費が出ることもある。

スポーツクラブに参加するゲットー地区の子供たち(DIF提供)

優秀選手の多くは、地域スポーツクラブを基盤とした育成を受けながら、エリート選手になっていく。そのため、大衆スポーツとエリートスポーツには境目がなく、地続きになっている。

エリートスポーツの位置付けも独特だ。勝利や結果至上主義に陥らず、アスリートの人生や社会全体を豊かにするものとして捉えられているという。

非競争的な理念の背景には、スウェーデン、独、英国のスポーツの影響がある。特にスウェーデン体操は、19世紀の農村の社会運動の中で権力への抵抗を象徴するものとなり、ホイスコーレやクラブで講義や歌と並んで実施された。

非競争的なスポーツを表す「民衆スポーツ」という言葉が生まれ、身体の各部位を鍛える体操は、競技やエリートが存在しない市民啓蒙の手段としても用いられた。

体操の伝統は、現在もスポーツ界に流れている。6400団体以上の地域スポーツクラブが加盟するデンマーク体操・スポーツ協会の目的は、スポーツ活動などを通したボランティア組織の強化や、市民啓発の促進にある。加盟クラブの競技指向はあまり高くない。また、クラブの活動で民主的な意思決定などを学ぶ。

社会統合の手段として

政府は近年、住民の失業率や犯罪率、学歴、所得、そして移民の割合をもとに、課題を抱えた地区を「ゲットー」として公表している。移民統合省は、ゲットーに住む移民の人々の社会適応を促すために、スポーツを活用している。

サッカーをするゲットー地区の子供たち(同)

2005年から、これらの地区における地域スポーツクラブの活動を支援し、住民への普及を促すために、デンマークオリンピック委員会・スポーツ連合(以下DIF)による「Get2sport」というプロジェクトが行われている。

貧困地区では、地域スポーツクラブのスタッフであっても、社会的な課題に対応しなければならないことが多い。Get2sportでは、彼らがリーダーやコーチ、クラブ運営者としての活動に専念できるようにするため、有給スタッフ派遣や、必要な物資、スタッフのネットワークづくりを研修などを通して支援する。同プロジェクトは、19年の時点で43のゲットー地区にある55団体を支援している。

あるゲットー地区でサッカークラブに所属している13歳の男子は「サッカークラブに入ってから、学校に行くのがとても楽しくなった。学校が休みのときにはサッカーの試合や練習ができるし、たくさんの友達ができた。特にデンマーク人の友達ができた。この地区にはギャングがいるが、他の若者と知り合えたので支え合っていける」と述べている。

Get2sportのロゴの入ったシャツを着てプレーする若者たち(同)

若者支援を研究するソーレン・ウスタゴー氏は、ゲットー地区に暮らす若者の犯罪予防に地域スポーツクラブが不可欠だと述べている。地域スポーツクラブは、子供や若者らが、親友や仲間を作れる場であり、それこそが唯一、“正しい方向”に彼らの背中を押してくれるものであるという。

ゲットー地区に暮らす子供の両親の多くは移民であり、彼らの多くはデンマークのスポーツクラブ文化を知らない。両親に説明して、子供たちの参加を促し、社会統合への道を作っていく。取り組みはこれからも続く。

(佐藤裕紀=さとう・ひろき、新潟医療福祉大学健康科学部講師。専門は比較教育学、生涯学習論)

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