【寄り添い、つながる】不登校やいじめは防げる

コロナ禍では日本の教育の脆さが浮き彫りになり、これまで以上に問題行動や不適応が増えるのではないかと不安視されている。かねて自殺や不登校、いじめ、うつなどの予防教育に取り組んできた埼玉県越谷市立新方小学校の田畑栄一校長へのインタビュー2回目では、一斉休校以降、同校がどのような対策に取り組んできたのかと、2学期からの新たな対策について聞いた(全3回)。

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学校再開時も2学期始業時も全児童が登校
――以前より取り組まれている予防教育について伺いたいと思います。6月の学校再開時も、2学期のスタート時も、新方小学校では全児童が登校したそうですね。その要因をどのように捉えていますか。

長期の休校中は、例えば保護者が経済的に破綻する、仕事に行けなくてイライラして子供を虐待する、自粛が続いてうつになってしまうなど、家庭環境や子供自身の変化をとても心配していました。だからこそ、さまざまな方法で「学校は待っているよ」というメッセージを送り続けてきました。

6月の学校再開時は、児童の中には生活リズムが狂って学校に来ない子もいるだろうと思っていました。全員が登校できたのは、各家庭が子供たちの心身のケアをしてくれていたからというのが一番です。本校のある地域は3世代家族も多く、それがプラスに働いた側面もあったかもしれません。

学校側の要因を挙げれば、一つは、始業式に「この休校をとっておきの時間にしよう」と呼び掛けたことです。休校は、プラスに考えると個人の時間が増えるわけで、個性再発見の時間と捉え、探究をテーマに好きなことに取り組ませました。完成したら持参させ、その都度、作品をHPやツイッターで発信しました。自己肯定感を高めたかったからです。

二つ目に、学校の情報を出し続けたことです。4月の始業式翌日からZoomで子供たちとつながるようにしたことに加え、4月3日からは学校のツイッターを始めました。学校のHPは教務が中心となって更新し、ツイッターは私が中心となって1日4~5回、発信し続けました。

情報発信こそが信頼構築につながる

例えば、「今、こんな職員会議をしています」「Zoomをやっています」「玄関に緊急連絡ボックスを作りました」「自主学習プリントを設置しました」「先生が花を植えています」といった感じで、とにかく休校中の学校のリアルを流し続けました。

こうした情報発信こそが、信頼構築の鍵となります。「先生たちは休校中、こうしたことをやっていますよ」「学校が再開したら、このような対策を取りますよ」ということを発信し続けることが、保護者の信頼や安心感につながり、その結果として、コロナが怖くて登校できない児童がいなかったのだと思います。

三つ目に、学校再開後にスムーズに子供たちの生活リズムを整えていくために、分散登校ではなく、短縮登校を行いました。

コンピューター室など校内の全教室を使えるようにした上で、全児童が午前中3時間登校し、学級を2教室に分けて授業を行いました。もちろん、教員の数が足りないので、廊下で両方の教室に向かって授業をしたり、ICTを活用したりしました。

先生たちも最初は「授業がやりにくい」と言っていたのですが、分散登校にして午前と午後、同じ授業を2回するのとどちらがよいかと相談すると、「午前中3時間で終わった方がいい」という意見にまとまりました。何より、児童全員が朝から登校することで、生活リズムを立て直しやすかったと思います。

また、子供たちが帰った後の午後は、1時間かけて消毒を行いました。先生たちにとっても消毒作業は初めてのことで、机と椅子、トイレや廊下など共用スペースの消毒など、どのようにすれば効率的かを考えながら進めていきました。

その他にも、午後は希望者のみですが、保護者面談や補習も行いました。授業についていけるか心配している保護者や児童もいたので、個別にフォローする時間として有効に使えました。

7月以降は7時間授業もあったのですが、7時間の日は40分授業にして、午後3時半には下校できるような時間割を組んでいます。

行事の中止が「登校しぶり」につながる
――2学期以降は、不登校やいじめが増加するのではないかと言われています。

例年も、夏休み中や夏休み明けは子供の自殺が増加します。自殺の原因としては、その子の個人的な資質、家庭環境、学校でのいじめなどがあります。

夏休み明けには、1学期の人間関係が顕著に表れます。例えば、特定の子に向かってわざとバタンとドアを閉めたり、机をトンとたたいたりする子がいる。いじめとは認定できないけれども「私に向かってやっている気がする」というような「とげ」を感じると、やられた側の子供は学校へ行きたくなくなるのです。

今年度は、授業数は多いし、夏休みは短いし、子供たちはいつも以上に疲れています。それが登校しぶりにつながっていくので、子供たちの気持ちに十分に寄り添うことが必要です。

多くの学校では、行事がほぼ中止になっています。しかしながら、本校では2学期の学級経営方針にも示しましたが、何かしらの形でやる方向で動いています。

例えば、6年生の修学旅行と5年生の林間学校は3月に延期ということにしています。これについては、5、6年生の担任とも相談し、時期や場所を変更し、宿泊先やバス会社とも交渉しています。部屋割なども、どうすれば子供たちや保護者が安心できるような形が取れるのかを探っているところです。

運動会については名称を変え、午前中で終わるような形で実施する予定です。毎年実施してきた全校遠足については、場所を変えるなどして、何かしら異年齢で交流できるような形を継続しようと思っています。

――多くの学校が行事を中止にする中、行事をやろうとするのはなぜですか。

行事を中止にするのは、コロナ対策の安全路線から考えると理解できます。しかし、コロナは長期戦です。終息するまで中止が続いたらどうですか?

子供たちにとって行事は、学校生活の一つの節目であり見せ場です。行事を経験することによって自己肯定感も育まれます。それがなくなってしまうことは、子供たちの健やかな成長になるでしょうか。知徳体のバランスある教育が今こそ重要です。そうしないと、ストレスで、いじめや登校しぶりにもつながるのではないかと心配しています。

「子供たちに勉強だけで過ごしてほしくない」と田畑校長

学校としても、子供たちに授業だけ、勉強だけで過ごしてほしくありません。コロナだからといって行事を何でもかんでもなくすのではなくて、カリキュラム・マネジメントで教育課程の組み方を考えるなどの創意工夫が、もっと必要なのではないでしょうか。

もちろん、本校が予定している各種行事も、今後の状況によっては行えないかもしれません。でも、「できるかもしれない」という希望を子供たちに持たせたいのです。なぜなら、私は学校とは光を見せるところであり、希望を持たせるところであると思っているからです。

不登校を容認する流れは違うんじゃないか
――不登校の子供に対しては、どのような対策を取るべきでしょうか。

今は、「子供が学校に合わせる」時代ではなく、「学校が子供に合わせる」時代です。子供が「学校に行きたくない」ということは、学校側に問題があると思うのです。明治以降の画一的な教育システムを変える時にきていると思います。

まずはできるところから始めます。例えば、「集団が苦手」という子もいます。その場合、教室が無理なら、相談室や校長室にいてもいい。教室に行きたいときは行けばいいと、選択肢を与えるべきです。その子が抱えている課題に寄り添って、解決できるプランで寛容に対応することが大事だと思います。

また、今後はオンラインを活用した授業参加も選択肢の一つとなるでしょう。オンラインで学校の様子を見て、「面白いことがありそうだから、行ってみようかな」と思う。それが不登校対策の新しいスタイルの一つになるのではないかと考えています。

――「子供が全員そろって初めて教育活動が始まる」ということを大事にされていますね。

昨今は、社会が不登校を容認する流れになっていますが、私は、それに違和感を覚えます。不登校だった人が、うまく社会に適応した事例や将来的に成功した事例は脚光を浴びやすい。しかし、不登校だった子供たちの多くは、大きな不利益を被っているのではないかと思うのです。

なんとなく、今は「学校には来なくてもいいよ」というところにだけ、世の中が向かっているような気がします。「いろんな子がいてもいい」「いろんな学びの場があっていい」と言いますが、じゃあ、その後の子供たちの将来は誰が保障するのでしょうか。社会の受け入れ態勢が整っていないのに、学校に所属している間だけ「学校に来なくていいよ」と言うことに、私はすごく抵抗を感じます。

私がなぜ学校に来てほしいかというと、世の中、一人では生きていけないからです。基礎基本のコミュニケーションや生きる力は、学校生活で作られていきます。学校生活でさまざまな人との関わりの中で学んでいくことがたくさんあります。オンラインでは伝わりにくい熱量や息づかいが、リアルの学校にはあるのです。

学校は個性を尊重しながら寛容な場所に変わるべきと話す

なじまない子には、寛容にその子供に応じた関わりで支援して、寄り添い、支え続ける。学校は、個性を尊重しながら寛容な場所に変わっていく時期に来ています。

いろいろな選択肢があるのは良いことですが、最終的には子供が「学校に行きたいな」と思ってくれればうれしいと思って取り組んでいます。

「あなたのことを見ているよ」「心配しているよ」と関わり続けることが、人を動かします。子供に寄り添い、つながり続けること、それが一番の大きな支えになるのです。子供のための学校ですから。

私はどんな子でも、寄り添い続ければ変わっていく、光が見えてくると思っています。だから、困ったことがあれば、いつでも学校に相談してほしいですね。

(松井聡美)

【プロフィール】

田畑栄一(たばた・えいいち) 埼玉県越谷市立新方小学校校長。秋田県大館市出身。早稲田大学第一文学部卒。埼玉県公立中学校教諭(国語)、埼玉県立越谷養護学校などを経て、2008年から3年間、埼玉県教育局東部教育事務所で指導主事として勤務。その後、同県久喜市立久喜中学校教頭を経て、13年度から越谷市立東越谷小学校校長を務める。同校での「教育漫才」の取り組みがマスコミなどにも注目される。18年度に越谷市立越ヶ谷小学校校長、20年度から現職。著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる―笑う学校には福来る』(協同出版)。


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