【寄り添い、つながる】人生の根っこを育てる

Withコロナ時代は、子供たちが生きる力を学ぶ大きなチャンスだと捉える埼玉県越谷市立新方小学校の田畑栄一校長。そのために同校ではカリキュラム・マネジメントを活用し、子供たちも教員もワクワクするような教育活動を目指しているという。インタビュー最終回は、いま新たに取り組む「学び合い」の授業を含めた今後の展望、田畑校長自身が思い描く次代の管理職像などについて語ってもらった(全3回)。

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カリマネを活用した魅力的な教育課程を
――Withコロナ時代、どんな教育活動が求められているのでしょうか。

今のこの事態は、いわゆるペーパーテストで測れるような学力よりも、生きる力を学ぶときだと捉えています。そのためには、知徳体のバランスが重要で、それが崩れてしまうといじめや不登校、うつなど、子供たちにもさまざまな弊害が出てきます。

コロナ禍で授業時間数を確保するために、技能教科の授業は通常の7割でよいとする現場への配慮がありました。ありがたい半面、座学の教科を中心とした教育課程の在り方に、少し不安を感じます。先の見えない時ほど、芸術や生活体験が心の糧になるからです。座学ばかりだと子供も先生も苦しいわけです。

そこで、4月から全面実施された学習指導要領のキーワードになっているカリキュラム・マネジメントをうまく活用しようと考えています。

例えば、座学の教科の7時間でやる授業を、精選と集中で取り組み、工夫して5時間で行う。そして余った2時間を子供たちと新しい文化創造や、音楽や体育の授業、人間関係づくりなどに使っていく。この方が子供も教員もワクワク感が出ます。

新方小ではカリキュラム・マネジメントの活用を進めている

オンライン授業を実施する場合も、カリキュラム・マネジメントを活用し、総合的な学習の時間とある教科を横断的にミックスした課題を出すなど、子供たちも教員も意欲的に取り組めるような教育課程をつくっていきます。

行事についても、同様に考えています。実は4月に行う予定だった1年生を迎える行事が、まだできていません。これまで通り全学年が参加して行えば密になってしまいますが、広い場所で1年生と6年生だけならできるのではないかと考えています。

そこで、6年生に「総合と特別活動を合わせた内容にして、授業にカウントできるような形にしてやってみたらどうかな?」と打診してみました。すると、とても盛り上がって、「あれもやりたい! これもやりたい!」と、動き出しているところです。

今の学校には一体感がないと思いませんか? リアルの学校の良さは、集団でわいわいと文化をつくり上げていくところで、そこで一体感が生まれます。そうした学校の役割をもう一度、カリキュラム・マネジメントを活用して構築したいと思っています。

こうした取り組みをWithコロナ時代に続けていくことが、それぞれの学校の特色や個性になっていくのではないでしょうか。

自分の意見を言える授業や学校をつくる
――その他に4月に赴任されて以降、学校として取り組んでいることはありますか。

全ての子供が考え、発表し、理解する「学び合い」に取り組んでいます。意見を発表するのが苦手な児童もいますが、うなずいて意思を示すことも一つの表現として認めるなど、強制的に発表させるのではなく、「自分で手を挙げたくなる」空気を教室につくっていくことを目指しています。

世の中がなぜすさんでいくのかというと、ものを言えなくなるからです。学校でも、教師の言うことを聞くだけで黙っているから苦しくなるわけです。

ものを言えない学校の中で、面白さや存在価値は生まれません。「先生、それは違うんじゃない?」「こういう考えもあるんじゃない?」と、みんなで意見交換ができるような関係がつくれたら、変わると思いませんか? 子供たちが自己決定の喜びを感じたり、何かをつくり上げたりするためには、話し合いが必要なのです。

最初からうまくいかなくてもいい。教室がザワザワしていてもいい。分からないときは分からないと言えたり、ディスカッションが起きたりするような授業が当たり前の学校を目指そうと、今、前向きに先生たちが取り組んでくれています。

もう一つ、これからは緩やかに「笑い」を取り入れていきたいと考えています。コロナ禍で国民に元気がない今こそ「笑い」が必要だと思いませんか。「笑い」といっても、いわゆる冷やかしだとか、ばかにした笑いではなく、みんなが腹の底から笑えるような温かい笑いを指します。

「今こそ『笑い』が必要」と田畑校長

「楽しいから笑うのではない。笑うから楽しいのだ」という名言があります。笑いの力で学校を、地域を、日本を元気にしたいのです。

私は以前に校長を務めた越谷市立東越谷小学校で「教育漫才」に取り組んできましたが、本校でも取り入れていけたらと考えています。

教育漫才をやることで、友達とのコミュニケーションが円滑になり、クラスに温かい空気が生まれます。実際、東越谷小での5年間の取り組みを通じて、いじめや不登校は減少し、学力も向上しました。

教室に温かい空気があることで、子供たちは「自分の意見を出してみよう」「友達の意見に耳を傾けよう」という意欲や感情が湧き上がってくるのです。

このような授業改善を進めながら、子供たちが学校に行きたくなるような、ワクワクするような学校づくりに取り組んでいくつもりです。

人生の根っこづくりを
――これからの時代に求められる管理職像についてはどうお考えですか。

見通しの持てる管理職が求められると思います。

校長の役割は学校経営です。その学校がある地域の特性や実態をきちんと分析して、見通しを持って方向性を示し、決断することが必要です。教育委員会から降りてきたことをそのままやることも大切ですが、もっと良くなると思えばそれを教育委員会と相談し、交渉するのも校長の仕事の一つです。それが、子供が生き生きする学校につながっていきます。

学校現場においては、「最終責任は校長が取る」ということを明確にし、一人一人の教員が安心してやりたいことをやれる環境をつくることが大切です。

学校の経営方針は校長が出しますが、その中身は原則、先生たちに任せます。信じて任せることが、新しい実践を生み出すことや、一人一人の持ち味を生かして活躍してもらう上で必要だと私は考えています。

――大切にされているのはどんなことですか。

私はもともと中学校の教師でした。2013年度に小学校の校長として初めて赴任したとき、何のために自分は中学校から小学校に行くのかを考えました。そして、「人生の根っこ」づくりのためだと思ったんです。

地域の特性や実態を分析し、見通しの持てる管理職が求められている

小学校は学力も大事ですが、いわゆる非認知能力、コミュニケーション力、目には見えないけれども人生を支えるような力、その人が醸し出すような資質を育てるべきだと思っています。

算数や国語などは自分で努力すればできるようになるわけで、学校は数字で評価できない部分を育てていくことがとても重要です。私はそのような「人生の根っこ」になる部分を育てたいと思っていますし、そこにずっとこだわってきました。

教育とは、「人間に他から意図をもって働き掛け、望ましい姿に変化させ、価値を実現する活動」です。こういう苦しい時代だからこそ、「教育の根幹は何か」「望ましい姿とは何か」ということを常に問い続けながら、子供たちに寄り添い、つながっていきたいと思います。

(松井聡美)

【プロフィール】

田畑栄一(たばた・えいいち) 埼玉県越谷市立新方小学校校長。秋田県大館市出身。早稲田大学第一文学部卒。埼玉県公立中学校教諭(国語)、埼玉県立越谷養護学校などを経て、2008年から3年間、埼玉県教育局東部教育事務所で指導主事として勤務。その後、同県久喜市立久喜中学校教頭を経て、13年度から越谷市立東越谷小学校校長を務める。同校での「教育漫才」の取り組みがマスコミなどにも注目される。18年度に越谷市立越ヶ谷小学校校長、20年度から現職。著書に『教育漫才で、子どもたちが変わる―笑う学校には福来る』(協同出版)。


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