“見えにくい不利”早生まれ 現場での支援を考える

毎年4月に新学期が始まる日本。1~3月生まれのいわゆる「早生まれ」の子供は、クラスの中で相対的に年少になる。とりわけ未就学児や小学生では、数カ月の発達の差が教育活動に影響するのではないかと、保護者の心配の種になることも。東京大学の山口慎太郎教授らは今年7月、早生まれの子供は同じ学年の中で、長期にわたって不利な状況に置かれることを統計的に明らかにした。一方、子供の発達は個人差が大きく、教室では生まれ月の影響が見えづらいこともある。教育現場や政策では、どのような支援が求められているのだろうか。


大規模データの分析で見えた傾向

「早生まれの子供は同じ学年の中で、長期にわたって不利な状況にある。学力の差は年齢が上がるにつれて縮小していくが、統制性や自己効力感、周囲との関係などの非認知能力の差は、年齢が上がってもなかなか縮まらない」――。東京大学経済学研究科の山口慎太郎教授らの研究で今年7月、こんな結果が明らかになった。

研究に用いたのは、関東のある県の小学4年生から中学3年生まで、延べ約110万件に上る大規模な縦断データ。学力に代表される認知能力は、算数・数学、国語、英語の学力テストの結果を用い、非認知能力は学力テストと同時に行うアンケートから「統制性」「自制心」「自己効力感」「教員との関係」「友人との関係」などをみる項目を取り上げた。

生まれ月との関係を分析したところ、明らかになったのは次のような傾向だった。

  • 学力は、学年が低いうちは生まれ月による差が大きいが、学年が上がるにつれて学年内の差が縮小していく=図①=。
【図①】月齢と算数・数学の成績との関係を示すグラフ。横軸が月齢、縦軸がスコアを示す。学年は小学校4年生(Grade4から順に中学3年生(Grade 9)まで。同じ点の色が同じ学年を示す(以下同。出所:Yamaguchi, Ito and Nakamuro (2020), Month-of-Birth Effects on Skills and Skill Formation)
  • 非認知能力は、思春期に低下することが既に知られており、今回も同じような結果に。ただ生まれ月による学年内の差は、学年が上がっても縮小しない=図②=。
【図②】自己効力感と月齢との関係を示すグラフ(出所:Yamaguchi, Ito and Nakamuro (2020))

とりわけ目新しいのは、「小4から中3まで、学年内の非認知能力の差が縮まらない」という点だ。この結果を見ると早生まれの子は、学年内で長い期間にわたり、常に不利な立場に置かれてしまう。今回の研究は、先行研究と比べてサンプルサイズが10倍以上と大きいため、「(異常値などの)ノイズが少なく、明確な傾向が見えた」と山口教授は話す。

生まれ月と能力形成に関する研究を発表した東京大学経済学研究科の山口慎太郎教授(Zoomで取材)

なぜ、差が縮まらないのか。山口教授はその背景について「早生まれの子ほど勉強時間、読書時間、通塾率が高いという結果が、同じ調査から見えている。学力は勉強で取り返しやすく見えるので、そちらに努力が向くのではないか。結果としてスポーツや習い事など、非認知能力の形成によい側面があるとされている活動に使う時間が少なくなる」と推測する。

気になるのは「教員との関係」にも生まれ月による差が出ており、早生まれの子ほど「先生から認められていない」という思いが強い点だ=下図③=。

【図③】自己効力感と「教員との関係」との間の関係を示すグラフ(出所:Yamaguchi, Ito and Nakamuro (2020))

「先生から認められていない、という実感から自信を失い、さらなる非認知能力の低下を招いているのではないか」と山口教授は話す。

入学の時期は、社会で決められた人為的な区切り。たとえ9月入学に変更したとしても、学年の中で相対的に誰かが年少になることに変わりはない。「貧富の差のように、世の中にはさまざまな不平等がある。生まれ月による差も社会全体で是正すべき問題だ」と山口教授は指摘する。

山口教授が提案するのは「子供の発達具合に応じて入学時期を遅らせることができる制度」だ。小学校入学を遅らせると幼児教育の費用が追加で発生するなどの課題はあるものの、海外ではほとんどの国で導入しており「有効な解決策の一つ」とみる。

また生まれ月の影響が長期にわたることを踏まえ、高校入試に至るまで、生まれ月ごとに合格枠を決める、点数の補正を行うなどの手段も考えられるという。

「私は早生まれだけど」――個人差が覆い隠す「不利」

研究結果が公表された後、SNSでは「私は3月生まれだけれど、人生で苦労したことはない」といった体験談があふれた。統計的に分析すれば間違いなく存在する差だが、個人差の方がはるかに大きいため、日常生活では生まれ月による差を実感しにくい。個人レベルで見れば、早生まれでも能力の高い人や、社会的に成功している人も多いからだ。

「認知能力、非認知能力とも数点の差で、個人で頑張れば何とかなる差だと思うかもしれない。ただ統計的に見ると、生まれ月による不利はシステマティック(規則的)に発生していて、多くの人が影響を受けている」と山口教授は指摘し、政策や制度によって社会全体で是正する必要性を訴える。

一方、個人のレベルでは「子供のパフォーマンスが低いと感じた時は、少し立ち止まって生まれ月の影響も考慮して『早生まれなのによく頑張っているな』という視点で見てあげられるとよい。少し考えてあげるだけでも、子供にとっては大きな助けになるのではないか」と話す。

教育新聞は「早生まれの子 学校で配慮すべき?」というテーマで9月14日から読者投票を募った。23日午前までに集まった回答(208件)では、「配慮すべき」と答えた人の中では「小学校低学年まで」が最も多く(38%)、次いで「就学前まで」(16%)、「小学校中学年まで」(10%)と、低年齢において特に配慮が必要だと考える人が多かった。

一方、「特段の配慮はいらない」も20%に上った。学級には早生まれだけでなく、家庭の事情を抱えた子供や発達障害のある子供など、さまざまな子供がいる。早生まれの子供だけに特段の配慮をするというより、多くの「違い」の一つとして対処する考えがうかがえる。

「非認知能力の差、大人が作り出したのかも」

子供の手指の巧緻性(手指を動かす力)の発達と情緒面との関連を研究し、小学校での教育経験もある東京福祉大学の戸次(べっき)佳子准教授は「生まれ月の差や男女差など、現場の先生がなんとなく感じていたことが、学術的な知見として明らかになれば、早い段階での適切な対応ができるようになる。一方で、今回の研究結果が早生まれの子供を持つ保護者への不安につながらないよう、一人一人の違いに寄り添う工夫が必要だろう」と話す。

幼児の発達に詳しい東京福祉大学の戸次佳子准教授

教育現場では早生まれ以外にも、発達障害や家庭の事情がある子など、さまざまな支援が必要になる。とはいえ「『うちの子は早生まれなので心配だ』という保護者は、とりわけ行動が遅いことを気にしていることが多いようだ」と戸次准教授は話す。

小学校に上がると、学習用具の使用、プリント類の整理など、手指を使う活動が格段に増えるが、子供の運動発達はまだ途上にあり、個人差が大きい時期だ。

そうした時に大人は「○○ちゃん、早く」という声掛けをしがちだが、「それが子供の自尊感情に与える影響を考えなければならない。繰り返し『早く』と言われると、友達や先生との関係など、ちょっとしたコミュニケーションの場面に影響を与えることも考えられる。今回の研究で明らかになった生まれ月による非認知的な側面の差は、周りの大人が作り出した差なのかもしれない」と戸次准教授はみる。

戸次准教授が提案するのは、遊びや日常生活を通して指先を使う経験をたくさんさせること。「手遊び歌やお手玉などの遊びや、大人と一緒に洋服をたたむ、野菜を洗うなどの経験を重ねることは、手指の巧緻性を発達させ、それが情緒的な安定感などにつながる。早くできたことよりも、自分の手を使って丁寧に、最後までやり遂げたことを褒めてほしい」と話す。

また「早生まれだからといって、できないことを無理にさせるよりも、夢中になれることをたくさん体験させてあげることが重要。自分がやりたいことを思い切りやったという経験は、達成感や自信につながっていく」とアドバイスする。

(秦さわみ)


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