【葉一×グローバルティーチャー】未来の学校の姿とは

With/Afterコロナ時代のオンライン教育をテーマに行われた、教育系YouTuberの葉一氏と、教育界のノーベル賞といわれる「グローバル・ティーチャー賞」のファイナリストである髙橋一也氏(工学院大学附属中学校・高等学校ラーニング・マネージャー)、堀尾美央氏(滋賀県立米原高等学校総務課主任)、正頭英和氏(立命館小学校教諭)によるオンラインでの座談会。第2回はオンラインを活用することで見えてきた、これからの学校や教員の在り方について語り合った。全3回。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)

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東京と滋賀をオンラインでつないだ合同授業
――コロナ危機による休校中に、オンライン授業を行った学校もありました。オンライン教育を経験した子供たちの学びは、どう変わったと感じていますか。

髙橋 今回のコロナ危機で、子供たちが勉強や学びについて考える機会がより増えました。今までは学校というコミュニティーにしか所属していなかった子供たちが、インターネット上の緩いコミュニティーの中で、お互いに勉強し合うことも経験したわけです。

実は先日、堀尾先生の学校と私の学校をオンラインでつなげて、英語の合同授業を行いました。企画から運営、評価まで全て生徒がやりました。

ICTの脆弱(ぜいじゃく)性により100%成功したとは言えなかったのですが、これがかなり面白くて、生徒のモチベーションが高まり、とてもいい授業ができました。

堀尾 本当に、生徒たちはすごかったです。驚きました。

まず、今回、髙橋先生から合同授業を提案していただき、どうやってやろうかとなった時に、生徒に運営・進行させてみることにしました。本校と髙橋先生の学校からそれぞれ3人の生徒が中心となり、連絡を取り合いながらGoogleドキュメントで進行について共有し、打ち合わせを重ねていました。

私が一番驚いたのが、ある日、その運営・進行する3人の生徒たちが「先生、明日の授業を私たちにください」と、授業案も作ってきたんです。

というのは、実際に髙橋先生の学校の生徒とつながって打ち合わせしていく中で、「今の自分たちのクラスではだめだ。合同授業までにもっと頑張らないといけない」「もっと自分たちから発信していけるようにならなくてはいけない」と感じたようなんです。

それで実際に1時間、生徒らに授業をしてもらいました。1人の生徒が前に立って「みんな、こうしようよ」と声を掛け、後の2人の生徒は机間巡視をして……。その日の夜も、夜中まで髙橋先生の学校の生徒と打ち合わせをしたそうです。

正直、オンラインがなかったら、こんな地方の山の中にある公立高校と東京の私立高校がつながることはなかったですし、生徒同士が出会う確率もものすごく低かったでしょう。それがICTによって可能になり、子供たち同士でモチベーションを高めながら、学び合っていった姿というのは、涙が出そうになりましたし、心の底からすごいと感動しました。

髙橋 葉一さんのツイッターやYouTubeでは、子供たちが子供たち同士で教え合っています。そうしたオンラインの持つゆるい学習コミュニティーは興味深いです。

葉一 「学校」は、もともと子供たちにとって特に閉鎖的な空間だったと思うんです。インターネットがこれだけ発展し、個人的なSNSは広がったのに、子供たちを取り巻く「教育におけるネットワーク」は広がらなかった。

でも、これからは堀尾先生と髙橋先生の実践のように、子供たちの横のつながりが増えていって欲しいと思いますね。

自身の授業動画を活用した授業案について話した葉一氏

私のチャンネルに登録してくれている子供たちもそうですが、顔も見たこともない子たちが、コメント欄で勉強を教えたり、誰かの悩みに対して答えたりしているんです。そういうのを見ていると、私が間に入るよりも同年代の子供たちに刺激をもらう方が、子供たちにとっては意味があるのだと感じています。

動画を生かした反転学習
――葉一さんが教員だったら、どのような授業に取り組みたいですか?

葉一 私のYouTube動画は、教科書レベルの問題をただ解けるようにするための動画です。探究的な要素はゼロなんです。

もし私が教員で、自分の動画を授業で使っていくならば、探究活動などの時間を生むために、基礎固めで時間がかかる部分を動画で短縮させるように使っていくと思います。

例えば、基礎の部分は動画を使って宿題などで予習させ、授業冒頭の10分で確認する。そして残りの35分を探究活動やグループ活動に使う。そのような授業がやりたいですね。

正頭 Withコロナ時代に学校現場がハイブリッド型の授業を目指していくのならば、葉一さんがおっしゃるような、いわゆる反転学習が有効だと、私も考えています。

「Withコロナ時代のハイブリッド型の授業には反転授業が有効だ」と語る正頭氏

それ以外の「もっとこんな形のハイブリッドの形もありますよ」というのが、これから皆さんの取り組みの中から何か生まれたら面白いですよね。

髙橋 基礎学習は動画など短い説明で十分だというのは、その通りだと思います。先生がある程度、枠組みをつくって、動画を見るなり、自分で短く教えるなりの指導をして、それから探究活動を行う。いわゆる「探究型アクティブ・ラーニング」のような授業スタイルが、これから求められていくでしょう。

そのためには、授業の目的がこれまでの「教科書の内容を覚えたらゴール」から、その一歩先に進んでいくことを先生たちが共有しないと、先に進みません。それを越えて何がしたいのか、何を教えたいのかを、先生たちがしっかり考えなくてはいけない。

学校に求められるレベルは、とても高くなってきています。だからこそ教員は研修などでもっと勉強しなければいけない。しかし、今の先生たちは雑務が多すぎて勉強する余裕がないという悪循環に陥っているのが、解決しなければいけない大きな問題です。

学校を越えたコラボレーション
――これからのオンライン時代、学校と教員はどうなっていくのでしょうか。

髙橋 うちの生徒が堀尾先生の学校との合同授業後に、「これは別に学校に来なくても、家でできるんじゃないですか?」と言っていたんです。それを聞いた時、これが「未来の学校」になるのだなと思いました。

これから、公立や私立を問わず、地域も問わず、教員同士のネットワークの中で学び合うことがどんどん増えていくと思います。学校を越えたコラボレーションがこれから多くなってくる。それが多分、これからの教育の姿になっていくのではないか。今回の合同授業は「未来」を見せてもらった感じがしました。

そして、個別最適化と一斉授業、リアルとオンライン、その両方の混ぜ合わせ、つまりいろいろなハイブリッド型のものが、これからの学校教育になってくる。それをキュレートするのが教師の役割になってくるのだと思います。

堀尾 本校は公立高校で、コロナ禍前、オンライン授業はほぼゼロの状態でした。コロナ対策でオンライン授業をやるとなった時に、各家庭の通信環境を調べたら、どうしても通信容量に制限がある家庭もありました。

そうした条件下で何ができるかを考えたときに、「Microsoft Teams」を導入して今も継続しているのが、文字ベースでのやりとりです。掲示板にきた質問の回答を載せておいて、質問した生徒じゃなくても全員が見られるようにしています。

堀尾氏は「オンラインを活用することで学校の壁を越えられる」と展望を語る

この取り組みが、学校再開後のアンケートでかなり評価が高かったんです。「何度も見返せる」「自分が質問したことが分からない、匿名の状態で先生が答えてくれる」という点が良かったようです。このようなオンラインでの緩やかなつながりは、これからさらに重要性を増していくでしょう。

また、先日のオンライン合同授業のように、学校の壁を越えるというのは、これからの大きな在り方だろうと思います。生徒と先生ではなく、生徒と生徒が生み出す力は、本当にすごいものがあると実感しています。

正頭 オンラインとリアルの違いの一つは、アーカイブが残せるかどうかだと思っています。だからこそ、オンラインでやるべき授業は、アーカイブに残して耐え得る授業であるべきです。

デジタルは無限に蓄積できます。コロナ禍で教育格差も問題となっていますが、アーカイブを残していくことが5年後、10年後の教育格差をなくしていくことになるとも考えています。

(構成 松井聡美)

【プロフィール】

葉一(はいち) 東京学芸大学を卒業後、営業職、塾講師を経て独立。2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学校3年生から高校3年生対象の授業動画や、学生の悩み相談に答える動画を投稿している。チャンネル登録者104万人(8月現在)、再生回数は3億回を超える。著書に『合格に導く最強の戦略を身につける! 一生の武器になる勉強法』(KADOKAWA)などがある。

髙橋 一也(たかはし・かずや) 工学院大学附属中学校・高等学校ラーニング・マネージャー。慶應義塾大学・同大学院で学んだ後に渡米。米・ジョージア大ではPBLやアクティブ・ラーニングなど、効果的な教育方法を設計・開発するための研究に従事し、全米優等生協会に選出される。帰国後の2008年4月から英語教諭として教壇に立ち、2015年からは工学院大学附属中学校・高等学校に勤務。2019年度まで教頭を務める。2016年、レゴを活用した学習活動が生徒の創造性と主体性を引き出す活動として、日本人として初めて「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 10に入賞。2018-2019年はオランダ・ユトレヒト大学大学院にて認知心理学の研究に従事する。著書に『世界で大活躍できる13歳からの学び』(主婦と生活社)。

堀尾 美央(ほりお・みお) 滋賀県立米原高等学校 総務課主任。2018年の「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 50に入賞。ICTを活用して、地方の公立校でもできる世界との交流の在り方を考え、Skypeなどを活用して生徒へ英語によるコミュニケーションの機会を継続的に提供。同賞入賞時点で25の国々とコミュニケーションを実施し、国を当てるゲームや複雑な議論など幅広い活動を行っている。活動の中ではコミュニケーションする国の課題をお互いに挙げ、それを解決する製品開発のアイデアについてプレゼンテーションし合うような継続的な活動も行っている。

正頭 英和(しょうとう・ひでかず) 立命館小学校教諭、ICT 教育部長。2019年の「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 10に入賞。Minecraft: Education Editionを通してプログラミング的思考を養うとともに、教科をまたいで総合的な人間力を高める授業が評価された。Minecraftで京都の街並みを作り上げることで、児童の創造性を高め、児童同士のチームワークや論理的思考を構築し、さらにSkypeを活用して海外学生に制作物を発表することで、「使える英語力」と幅広いコミュニケーション能力を養っている。著書に『世界トップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書』(講談社)など。


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