【葉一×グローバルティーチャー】オンラインは定着するか?

With/Afterコロナ時代のオンライン教育をテーマに行われた教育系YouTuberの葉一氏と、教育界のノーベル賞といわれる「グローバル・ティーチャー賞」のファイナリストである髙橋一也氏(工学院大学附属中学校・高等学校ラーニング・マネージャー)、堀尾美央氏(滋賀県立米原高等学校総務課主任)、正頭英和氏(立命館小学校教諭)によるオンラインでの座談会。最終回は、With/Afterコロナ時代にオンライン教育を定着させていくためには、どうすればいいのかを議論した。(司会・教育新聞編集部長 小木曽浩介)

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やりたい人がまずやってみる
――参加者の方から質問がきています。「周りの先生のオンライン教育への積極性を高めていくには、校内研修で具体的に何を伝えればいいのでしょうか」という相談です。

正頭 「コロナ禍だから」という、これ以上の理由はないと思います。

東日本大震災の時に、東北エリアでオンライン教育をやっていこうというムーブメントが少し起こりました。ただ、その時は一部の地域だったということと、今ほどインフラが整っていなかったこともあり、流れてしまったんです。

今回のコロナ危機は、日本全体で起こっていることですし、インフラ面もかなり整ってきています。今回動かなければ、おそらく今後何が起こっても進まないのではないかという危機感を持ってやるべきだと思います。

髙橋 オンライン教育に関する研修は、例えば「正頭先生の授業をまねてみましょう」とか「葉一さんのような授業を作りましょう」とするのは間違いです。なぜなら、それぞれの先生にはそれぞれの価値観や特技があるので、その先生の良さを生かすならば、全く違う授業になるはずだからです。

「自分の教育に対する考えを整理するような研修が必要」と髙橋氏

だから、最初に考えるべきことは、自分の教育に対する価値観や性格の強みです。自分はどういう思いを持って教育に携わっているのか、自分はどういう特技を持って教育をしているのか。それをもう一度見つめ直した上で、「どんなオンライン授業ができるか」というステップが必要でしょう。

これは対面の授業にも通じることなので、自分の教育に対する考えを整理するような研修をやってみるといいと思います。

葉一 今回のコロナ禍で、学校は「みんなで足並みをそろえてやっていきましょう」というのが基本スタンスだったと思います。ただ、外から見ていて感じたのは「やりたいと思う先生が、まずやってみたらどうですか?」ということです。

コロナ禍で学校の先生たちは突然「オンライン授業をやってね」ということになり、それに対して「興味があったのでやりたいです!」となる先生もいれば、「正直、面倒くさいな」という先生もいたと思うんです。どう思うかはそれぞれの価値観ですから、どちらの思いもあって当然です。

ただ、「やりたいです! アイデアもあります!」という先生が、「やりたくない」という方に合わせてしまい、熱量を削られて動けなくなっているという相談も、私の元にかなりあったことも事実です。それをとてももったいないと感じていました。

実際に現場にいる先生からすると、やはり「やりたい人がまずやってみる」というのは難しいのでしょうか。

正頭 正直言って、難しかったですね。でも、葉一さんが感じたことは、学校関係者以外の方が思う率直な気持ちだと思います。葉一さんだけがそう思われるわけではなく、保護者にもそう思っている方がたくさんいらっしゃったと思います。

本校のような私立でも難しいと感じることは多かったですし、堀尾先生のように公立だともっと大変で、難しさを感じたのではないですか?

堀尾 私は3年ほど前から遠隔授業をやり始めましたが、それこそ自分がやりたいからやってきました。周りからは浮いていると感じることもありましたし、いろいろと苦労もありましたが、それでも自分を突き進めてくれたのは、生徒が見せる顔です。

海外と遠隔授業をしている時、今まで授業に興味を持っていなかった生徒たちも含めて、全員が夢中になり、変わっていく姿を見てきました。そういう生徒の姿は、学校では何物にも代えがたいものですし、他の先生たちを変える力も持っていると思います。

正直、コロナまでは「堀尾先生だからできるんじゃないか」とか「堀尾先生ができることをみんなができるわけじゃない」といったことを、校内はもとより、外部の方たちからも言われてきました。

でも、コロナ禍でオンライン授業をやらざるを得なくなってみたら、「やってみたら案外難しくなかった」という声をたくさん聞くんです。

葉一さんがおっしゃったように、私もまずやりたいと思う先生は、恐がらずに絶対にやってみた方がいいと思います。生徒は絶対についてきます。

まずやってみて、そこから教師が得た経験や知識をどんどん広げていけるような学校現場になればいいと、私自身は考えています。

自分の教育に対する思いを言語化しておく
――これから教員を目指す学生にアドバイスはありますか。

堀尾 私は学生時代、「これがしたい」ということがなく、実は教員採用試験の1カ月前に「教師になろう」と決めたんです。

「これがしたい」ということがなかったから、4年間、ボランティア活動をしたり、一人で内戦中のスリランカを旅したり、とにかくいろんなことをやりました。そしてその経験が、今、教師になって役に立っていると感じています。

大学生の間はそういうチャレンジがやりやすい期間だと思うので、何のためになるのか分からないことでも、ぜひいろいろなことにチャレンジしてみてください。

葉一 今、学校の先生は本当に大変な仕事だと思います。そして、これから学校の先生ももっと多様化していくでしょう。

だからこそ、大学生のうちに、「どういう先生になりたいのか」「先生としてどういうことがしたいのか」を明確に言語化しておくことが大切だと思います。自分の中にそういう確固たる思いがあると、大変さに打ちのめされそうになったとき、助けられることもあるのではないでしょうか。

正頭 「良い先生」の定義は、おそらくこの5年でまた変わっていくはずです。「良い先生」になるためには、その場その場でベストな判断力や適応力が必要になってきます。

その適応力は、おそらく「情熱」にドライブされることが多いと私は考えています。今、学校現場で生き生きしている先生には、いろいろな要素があると思うのですが、絶対的な条件として「情熱的な思い」があります。

今のこの大変なご時世に教員を目指している学生は、もう十分に「情熱的な思い」を持っている人だと思います。だから、教員になってからも、それをできるだけ失わない方法を持っておいてほしい。

頭で覚えておくだけだと、記憶は勝手にすり替わってしまいます。葉一さんもおっしゃるように、例えば文字に残しておくとか、動画として残して言語化しておく。「自分は教育に対して、こういう情熱を持っていたんだ」ということを、時々振り返ることが重要だと思います。

髙橋 これからの学校教員に必要なスキルは2つあると思います。まず、どんなときも汎用(はんよう)的に役立つジェネリックスキル。コミュニケーション能力や、学校の先生を辞めても働けるようなスキルですね。

もう1つは専門的な知識です。「あなたは何の先生ですか?」と問われた時に答えられるような、専門性を持つべきです。

日本の教育はとても特殊です。海外は教員養成学校で、認知心理学など、科学的な基盤をもって教えています。しかし、日本は経験論を中心に教えているようなところがあり、それは日本でしか通用しません。

社会はどんどんグローバル化していきます。だからこそ、これからの若い世代の人は、できるだけ世界でもちゃんと活躍できるような共通ベースのスキルを身に付けた方がいい。そして、自分の特技を理解した上で、教育に携わる。それがこれからの世代には重要なのではないでしょうか。

With/Afterコロナ時代はWithオンラインが鍵
――With/Afterコロナ時代を共に進んでいく教師に向けてメッセージをお願いします。

堀尾 With/Afterコロナ時代、学校では「Withオンライン」をできるかどうかが、重要なポイントになると思います。校務が忙しすぎて授業の研究ができないというのは本末転倒です。オンラインでできることはどんどんやっていくことで、余裕が生まれるような学校現場にしていきたいと思っています。

「With/Afterコロナ時代は世界を外に広げて仲間とつながってほしい」と堀尾氏

オンラインを推進するにあたって、「自分の学校では周りに仲間がいない」と思っている方もいるかもしれませんが、絶対に仲間はいます。どんどん世界を外に広げて、仲間とつながって頑張ってほしいですし、その頑張りは必ず報われます。生徒も必ずついて来てくれるので、生徒を信じて進んでいきましょう。

髙橋 私はもともとレゴブロックを使った教育実践をしてきました。こうした実践に「お金のある私立だからできるんだろう」と言われるのですが、これも最初は保護者全員に手紙を書いて「レゴブロックをください」とかき集めることから始めたんです。

堀尾先生が言うように、何か新しいこと、変わったことにチャレンジしようとすると、最初は周りから、とんでもない人間だと思われるかもしれません。でも「何かやりたい」と思えば、必ず仲間はいます。

このほど、私たちは『(一社)グローバルティーチャープライズジャパン』を立ち上げました。皆さんの何かに挑戦したい思いや、そうした仲間をつないでいきます。ぜひ、相談してください。

正頭 私がグローバル・ティーチャー賞を含め、注目していただくようになったのは、「マインクラフト」というゲームを使った授業です。

ゲームですし、「そんなの教育じゃない」というイメージがあったのですが、こうやって世界でも認めてもらうと、一気に流れが変わりました。

結局、大事なのは、目の前の生徒です。目の前の生徒の反応を見て、「この子たちの学びになっている」と思えたら、周りからどうこう言われても関係ありません。

「どんな教材でもそれを学びに変えていくのが教師の役割」と正頭氏

目の前の子供たちに学びを提供するのは、その場にいる教員しかできないことです。そして、目の前の子供たちの表情やリアクションを拾えるのも、その場にいる教員だけです。それを大事にしてほしい。

今の時代、なんでも教材になります。マインクラフトのようなゲームでさえ教材になるのです。教材はなんでもいい。それをうまく学びに変えていくデザインをするのが、これからの教師の役割だと思います。大事なのは想像力です。

葉一 学校が再開され、学校の先生たちがオンラインに関わる時間がほとんどなくなっています。今回のコロナ禍でこれだけ授業動画で学ぶことが注目されたのに、それが全くゼロになるのは、私は絶対に阻止したいと思っています。

子供たちが動画で勉強して、それが身になる。授業動画は小中高に関係なく使えるコンテンツだということを、私はこれからもこのポジションから証明し続けようと思っています。

学校の先生たちがもっとフレックスに働けるために、私は私のできることを頑張っていきます。先生も私も「子供たちのために」というベクトルは同じだと思います。これからも一緒にできることがあれば、ぜひやっていきましょう。

(構成 松井聡美)

【プロフィール】

葉一(はいち) 東京学芸大学を卒業後、営業職、塾講師を経て独立。2012年にYouTubeチャンネル「とある男が授業をしてみた」を開設。小学校3年生から高校3年生対象の授業動画や、学生の悩み相談に答える動画を投稿している。チャンネル登録者104万人(8月現在)、再生回数は3億回を超える。著書に『合格に導く最強の戦略を身につける! 一生の武器になる勉強法』(KADOKAWA)などがある。

髙橋 一也(たかはし・かずや) 工学院大学附属中学校・高等学校ラーニング・マネージャー。慶應義塾大学・同大学院で学んだ後に渡米。米・ジョージア大ではPBLやアクティブ・ラーニングなど、効果的な教育方法を設計・開発するための研究に従事し、全米優等生協会に選出される。帰国後の2008年4月から英語教諭として教壇に立ち、2015年からは工学院大学附属中学校・高等学校に勤務。2019年度まで教頭を務める。2016年、レゴを活用した学習活動が生徒の創造性と主体性を引き出す活動として、日本人として初めて「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 10に入賞。2018-2019年はオランダ・ユトレヒト大学大学院にて認知心理学の研究に従事する。著書に『世界で大活躍できる13歳からの学び』(主婦と生活社)。

堀尾 美央(ほりお・みお) 滋賀県立米原高等学校 総務課主任。2018年の「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 50に入賞。ICTを活用して、地方の公立校でもできる世界との交流の在り方を考え、Skypeなどを活用して生徒へ英語によるコミュニケーションの機会を継続的に提供。同賞入賞時点で25の国々とコミュニケーションを実施し、国を当てるゲームや複雑な議論など幅広い活動を行っている。活動の中ではコミュニケーションする国の課題をお互いに挙げ、それを解決する製品開発のアイデアについてプレゼンテーションし合うような継続的な活動も行っている。

正頭 英和(しょうとう・ひでかず) 立命館小学校教諭、ICT 教育部長。2019年の「グローバル・ティーチャー賞」Finalist 10に入賞。Minecraft: Education Editionを通してプログラミング的思考を養うとともに、教科をまたいで総合的な人間力を高める授業が評価された。Minecraftで京都の街並みを作り上げることで、児童の創造性を高め、児童同士のチームワークや論理的思考を構築し、さらにSkypeを活用して海外学生に制作物を発表することで、「使える英語力」と幅広いコミュニケーション能力を養っている。著書に『世界トップティーチャーが教える 子どもの未来が変わる英語の教科書』(講談社)など。


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