コロナで深刻化する子供の貧困 奮闘する地域の取り組み

コロナ禍は、家庭にもさまざまな影響をもたらしている。特に、突然の一斉休校は、ひとり親家庭や経済的に困窮している家庭に大きな打撃を与え、今後、子供の貧困問題の深刻化が懸念される。昨年に閣議決定された子供の貧困対策大綱では、学校のプラットフォームとしての機能を強化し、リスクを抱えている子供を早期に発見し、関係機関と連携して対応することがうたわれている。学校や教師は子供の貧困問題に何ができるのか。さまざまな家庭とつながり、支援しようと奮闘する地域の多様な取り組みから、そのヒントを探った。


弁当配布でつながり広がる子供食堂

土曜日の昼下がり、住宅街の中にある古民家カフェののれんをくぐると、中には所狭しとおいしそうなおかずが並び、数人のスタッフがそれを弁当箱に盛り付けているところだった。

さいたま市緑区にある「さいたま子ども食堂」では、コロナ危機で子供食堂としての通常の活動ができなくなった4月以降、毎週土曜日に弁当の配布を実施している。希望する家庭は500円で利用することができ、家族の人数分の弁当の他に、手作りスープや企業から提供された食品などももらえる。

この日の弁当は100食以上。ボランティアも含めたスタッフは和気あいあいとした雰囲気の中でも手を休めることなく、調理と盛り付けを進めていく。生野菜のサラダに切り干し大根、パエリア、豆腐ハンバーグなど、栄養と愛情がたっぷり詰め込まれた弁当を店先に並べていると、一息つく余裕もなく午後3時のオープンを迎えた。

「SNSで子供食堂のことを知って、調べてみたら近所でもやっていたので、行ってみようかと思った。休校中は食費も結構かかったし、シングルで土日も仕事があるので、本当に助かる」

「ずっと前から利用していて、スタッフの人とは顔見知り。みんなでご飯を食べたり、ちょっとしたイベントもやったりしていて、子供も楽しみにしていた。お弁当もありがたいけど、早く元の子供食堂が開けられるようになれば」

三々五々やってくる利用者に話を聞くと、そんな答えが返ってきた。

弁当や食品を受け取る親子

スタッフは弁当や食品を配りながら、利用者に気さくに話しかけていく。こうしたわずかな時間のコミュニケーションでも、積み重ねていけば信頼関係が生まれ、助けが必要なときに頼ってもらえる存在になれるという。

さいたま子ども食堂を取り仕切るのは、建築士の本間香さん。8人きょうだいの長女として育った自分自身の経験から、みんなで食事をする場が必要だと考え、4年前にスタートした。その後も貧困家庭だけでなく、誰もが立ち寄れて安心できる場所として、地域に根付いてきた。

新型コロナウイルスの影響で活動ができなくなった後は、どうやって利用者とつながり続けられるかを考えた末、弁当の配布に行き着いた。すると、以前よりも利用者が増え、特にひとり親家庭や多子家族などのニーズが高いことが分かった。

企業からの食材の寄付や飲食店とのコラボレーションなど、新たな連携も生まれた。実際にこの日も、地元の居酒屋が20食分の特製サバ弁当を提供。そのきっかけも、居酒屋の常連客が子供食堂の存在をニュースで知り、本間さんと居酒屋に提案したことだったという。

埼玉県内の子供食堂が加入する「埼玉県子ども食堂ネットワーク」の代表でもある本間さんは「普段来ている人が、コロナ禍以降は『本当に支援が必要な家庭を優先してほしい』と遠慮して来なくなっているのが気掛かりだ。敷居が低いのが子供食堂の良いところでもあるので、誰もがコロナ禍でしんどい中で、少しでも楽になってくれれば。学校の先生も気軽に足を運んでみてほしい」と呼び掛ける。

ダイレクトに支援するフードパントリー

経済的に困窮している家庭をダイレクトに支援できる取り組みとして、近年急速に広まっているのがフードパントリーだ。企業から提供を受けた食料品などを仕分けし、定期的に配布するもので、子供食堂ほどの設備や人手がかからず、食品の保管場所や運送手段があれば誰にでも始められる。

2年前から埼玉県越谷市でこの活動を始めた草場澄江さんもその一人だ。これまでは、配布を行う頻度が2カ月に1回程度だったが、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出てからは、食品が集まればその都度、対象者にメールを送り、配布するようにしてきた。

ただでさえ経済的に厳しい家庭が、コロナ禍によって窮地に追い込まれていることを草場さんは肌で感じ取っているという。実際、普段顔を合わせている利用者から「電気代も払えなくて困っている、何か食べ物はないだろうか」と助けを求める電話がかかってきたこともあった。

「課題を抱えている家庭と普段からつながりをつくり、困ったときに相談できる関係になれるかが鍵だ」と草場さんは語る。

学校の給食がなくなり、大量の食品を廃棄しなければならなくなった業者から、食品を提供したいとの打診も受けた。埼玉フードパントリーネットワークの代表も務める草場さんは今、こうした企業からの大口の寄付を県内のフードパントリーに行き渡らせるために、配送の中間拠点の整備に奔走している。そんな中、理念に賛同し、配送を無償で協力してくれる運送業者も現れるなど、企業による支援の輪も広がっている。

フードパントリーだけでなく、子供の学習支援などの活動もしている草場さんは「子供の変化に真っ先に気付くのは学校の先生。心配な子供の存在を学校と地域がしっかり共有できれば、その子が学校を卒業しても、地域で見守り続けることができる」と、学校と地域が連携する重要性を指摘する。

学校と地域をつなぐSSWの課題

学校に入り、困窮している子供や家庭を支援の窓口につなげるのがスクールソーシャルワーカーの役割の一つだ。09年に「子どもの育ち支援条例」を制定した兵庫県尼崎市では、学校からアプローチするSSWだけでなく、家庭や地域からサポートするコミュニティーソーシャルワーカー(CSW)が両輪となり、子供の貧困対策などに取り組んでいる。特に昨年からSSWの所管が教育委員会に移管されたことで、学校との連携がよりスムーズになったという。

新型コロナウイルスによる休校期間中も、学校で心配な子供の情報を集約し、SSWが社会福祉協議会につなげたり、ある学校では地域の子供食堂が弁当を学校に運び込み、支援が必要な子供に配ったりする連携が見られた。

しかし、こうした学校と地域の連携には、難しさも付きまとう。

尼崎市のSSWで、学校と子供食堂の協力による弁当配布の実現に奔走した大台賢史(さとし)さんは「いざ連携しようと話し合いの場を持っても、学校も地域もお互いに連携の経験が少なく、話が前に進まないこともある。学校が再開すると先生も余裕がなく、しんどい家庭の子供や地域との連携にまでなかなか手が回らない。教師は少しでも子供の様子で気になることがあれば、気軽にSSWに声をかけてほしい。そうすれば早めに地域と連携して支援することができる。これを機にSSWがしっかり両者の点と点をつないでいかないといけない」と振り返る。

さらに悩ましいのは、SSWの人手不足だ。市教委にSSWの所管が移ってから、尼崎市ではSSWの配置拡充を図ったが、実際には募集しても希望にかなう人材がなかなか集まらないのが実情だ。

市教委学校教育部こども教育支援課の弘瀬典子係長は「移管してからSSWの活動件数は倍に増え、学校が不登校などで相談したいことがあると連絡があれば、すぐに派遣するなど、スピーディーに対応できるようになっている。ただ、尼崎市のニーズに応えてくれる人がなかなかいない。人材不足も課題となっている」と頭を抱える。

地域の見守りをシステム化

地域の力をフル活用して、子供の貧困対策に乗り出している自治体もある。生活保護の受給率やひとり親世帯が多い大阪府門真市では、子供の相対的貧困率が府の平均と比べて高かったことを受けて、府のモデル事業として2017年10月から「子どもの未来応援ネットワーク事業」をスタートさせた。

門真市では、研修を受けた地域住民を「子どもの未来応援団員」に登録し、地域の子供の見守りをする仕組みを構築した。貧困をはじめとする何らかのシグナルを発している子供を見つけた応援団員は、市の「子どもの未来応援チーム」に連絡。連絡を受けた応援チームは学校などの関係機関から情報を集め、ケース会議を開いて対応や支援の必要性を検討する。

現在では1300人以上が応援団員として登録し、中には宅配便のドライバーが応援団員になるなど、積極的に協力する企業も現れている。今年3月にはスマートフォンアプリも導入し、応援チームへの報告をしやすくした。

子どもの未来応援ネットワーク事業の仕組み(門真市提供)

また、市内の子供食堂や飲食店、公共施設で子供が宿題をする場を提供する「宿題カフェ」のマップも作成し、学校と家庭以外の「第3の居場所」づくりにも取り組む。

市のこども部こども政策課の小西紀至(のりゆき)子どもの生活支援担当副参事は「門真市が子供の貧困対策に力を入れていることが知られるようになり、寄付をしてくれる企業も増えている。国連の持続可能な開発目標(SDGs)につながる取り組みとして理解を得られ、市と企業で連携協定を締結することができれば、活動も継続的に行える」と今後の展開を期待する。

一方で、コロナ禍は地域の見守りの在り方に課題を投げ掛けることとなった。外出自粛や休校の影響で、応援団員からの情報提供が激減してしまったのだ。市では、支援の必要性を把握している家庭だけでも状況を確認しようと、2週間に1回程度の訪問を実施するなどしているが、地域の目が届きにくくなることは、家庭の孤立化に直結するため、解決策の検討は急務だ。

現状、最後の頼みの綱はやはり学校だ。小西副参事は「まだリスクが小さい段階で支援の必要な子供を学校で把握できれば、歯止めになる。学校も大変な状況だと思うので、そうした子供への対応は私たちに任せてもらい、うまく役割分担をして支援につなげていければ」と話す。

(藤井孝良)


関連
関連記事