地域の学習支援とコロナ危機 学校以外の学びの保障

コロナ禍は、学校以外の学び場にも大きな影響を与えた。学習支援団体、フリースクール、自主夜間中学などは、この危機をどう乗り越えようとしているのか。活動を再開した団体関係者に取材した。


貧困状態にある子供たちの居場所

土曜日の午後、東京都中野区にあるビルのワンフロアに、子供たちが宿題やワークブックを手に続々とやってきた。ここは子供の貧困対策に取り組むNPO法人「キッズドア」が運営する学習支援プログラム「みらい塾」。月に2回、経済的に厳しい家庭の子供たちが、宿題やテスト対策などの勉強に取り組む場だ。子供たちにとっては学び場であると同時に、仲間や学習支援ボランティアと過ごす大切な居場所でもある。

ボランティアは大学生から仕事を退職したシニアまで、さまざまな立場の人たちで構成され、いろいろな子供を受け持つようにすることで、多様な視点で子供たちを捉えるようにしている。子供たちにとっては勉強を教えてくれる「先生」というより、雑談も交えながら宿題を手伝ってくれる「近所の人」という感じだ。

小学4年生から中学2年生までの指導は、1対1や1対2の少人数で、子供が持ってきた学習課題を中心に進める。なかなか集中しようとしない子供たちに対し、ボランティアはその子が好きなことや学校の様子をさりげなく聞いたり、勉強のやり方をアドバイスしたり、あの手この手で意欲を高めようとする。一方で、パーテーションで区切られた中学3年生の部屋には、静けさの中に緊張感が漂い、一心不乱に都立高校入試の過去問題に取り組む姿があった。

開設から6年目を迎えた「みらい塾」も、コロナ禍には大きな影響を受けた。休校中は感染防止のため対面での教室を開くことはできなかったが、受験を控えた中学3年生の学習を支援しようと、オンライン授業をいち早く実施した。他の学年でも家庭のインターネット環境を調査した上で、5月からオンラインでの「おしゃべり会」をスタート。ボランティアや子供たちが顔を合わせる機会をつくった。

子供たちにとって大切な居場所となっている「みらい塾」での学習風景

キッズドア教育支援事業部の東操チーフコーディネーターは「休校中の子供の様子について、保護者にアンケートを取ったら『ほとんど勉強していない』と不安を感じていることが分かった。普段からボランティアや仲間との関係性ができていたからこそ、オンラインでもつながりたいという思いがお互いに強かった」と振り返る。

感染拡大が落ち着き始めた6月中旬から対面での教室を再開したが、その後も悩みは尽きない。みらい塾として感染防止マニュアルを作成し、ボランティアはフェースシールドやマスクを着用して子供たちと接している。学習の遅れを取り戻すために学校が土曜日も授業を行っていることもあり、教室にやってくる子供たちの顔には疲労の色も見えるという。

「休校中は自分で勉強をしていたけれど、塾に行っている友達はタブレット端末で授業を受けていて、差がついたと感じる。ここでは『なぜできないの?』とは聞かれないし、分からないことが気軽に聞けるからいい」(小学5年生の女子児童)

「家で一人で勉強するのはつらい。ここならみんなとコミュニケーションを取りながら進められる。休校した分を取り戻そうと学校の授業はものすごくスピードアップしていて、分からないことがあっても聞くタイミングがない」(中学2年生の女子生徒)

教室に参加している子供たちからは、そんな声が聞かれる。

長年、ボランティアとして関わっている会社員の中島健二さんは「教室が再開したら、子供たちがすごく雑談をしてきて、休校中、ずっと人とのコミュニケーションを求めていたのだと感じた。貧困状態にある子供たちは自己肯定感が低いことも多く、声掛けに気を付けないといけない。学校でもそうした子供たちとの接し方を意識してほしい」と話す。

不自由な中での自由を満喫

不登校の子供たちの居場所であるフリースクールの中には、Withコロナを見据えて新しい挑戦を始めている所もある。

千葉県習志野市にあるフリースクール「ネモ」では、電車に乗って通ってくる子供が大半であることを考慮し、公立学校よりも早く「休校」を決めた。その間、子供たちの様子を把握するため、以前から取り組んでいた「オンラインフリースクール」に全面的に移行した。

再開後は、コロナと共生しながら活動していくための新しい方法を模索中だ。その一つが、感染防止対策を徹底した上で実施した恒例の夏合宿。参加する子供たちは合宿前の1週間の行動を制限した上で、宿泊先の旅館では3密を避けるために個室に分かれ、持参したタブレット端末で友達とオンラインゲームをしたり、現地に来なかった友達とオンラインでつながって、旅行先の風景を伝えたりした。

前北海(まえきたうみ)理事長は旅行先でのオンラインゲームについて、「『それで楽しいの?』と思うかもしれないが、それを言い出したら来年も再来年も何もできないままだ。どんな活動をするかは、子供たちがアイデアを持ち寄って決めていった。子供たちは不自由な中での自由を満喫していたようだ」と話す。

ネモでは、オンラインでの子供同士の交流がすっかり定着し、フリースクールに来ている子と自宅で過ごしている子が自由なタイミングで交流するのが、日常の風景になっているという。

前北理事長は「リアルとオンラインを併用した『デュアルフリースクール』は運営面でもプラスになる。オンラインの方が合っている子もいるので、これまでのやり方に胡坐(あぐら)をかかず、そうした子がアクセスできる方法を確保していきたい」と語る。

一方、公立学校の現状については「休校によって、子供たちのコミュニケーションが圧倒的に減ってしまった。再開した学校には余裕がなく、学校生活にしんどさを感じて、不登校になる子供が増えるのではないか」と警鐘を鳴らす。

その上で「フリースクールに通ったことを、出席扱いにする学校も増えてきている。コロナ禍によって、学校とフリースクールがより一層連携していく必要がある。学校のオンライン授業をフリースクールから受けるなんてことがあってもいい」と提案する。

学びの扉を閉ざすことはできない

「ずっと通ってくれていた人が、遠慮して来なくなっている」。そう悩みを打ち明けるのは、埼玉県川口市で自主夜間中学の活動を長年続けている「川口自主夜間中学」の遠藤芳男代表だ。自主夜間中学では、生徒も先生役のスタッフも高齢者が多いため、感染リスクを考慮して「行きたくても行けない」状況にあるという。

川口市では、昨年4月に埼玉県で初めてとなる公立夜間中学が開校した。「川口自主夜間中学」の姉妹組織である「埼玉に夜間中学を作る会」では、自主夜間中学の活動と並行する形で公立夜間中学の開設運動を展開し、県内2校目の公立夜間中学開設を求めて定期的に街頭での署名活動を行っていた。しかし、その活動も一時中断とせざるを得なかった。

新型コロナウイルスの感染拡大で会場が使えなくなったこともあり、川口自主夜間中学は2月末から6月末まで休校を余儀なくされた。その後も第2波の到来で一時再休校になるなど、大きな打撃を受けている。個人情報保護の観点から自主夜間中学の参加者名簿を作成していなかったこともあり、これまで来ていた生徒の多くが今どうしているのか、連絡を取る手段がないことも痛手となった。

自主夜間中学に通い、日本語を学ぶ「生徒」(手前)

「埼玉に夜間中学を作る会」の野川義秋代表は「高齢者ではオンライン授業も難しいし、無理はさせられない。他の地域の自主夜間中学では、教材を郵送したり、生活面の相談に乗ったりしていたところもある中で、名簿がなかったために、川口自主夜間中学ではそうしたフォローができなかった」と悔しさをにじませる。

川口自主夜間中学は、再開後も3密を避けるために参加者数を制限せざるを得ず、生徒数は最も多かった頃の3分の1ほどにまで減った。それでも、スタッフは諦めていない。

野川代表は「再開してからは、新しい人たちが来るようになっている。休校中も外国籍の保護者から電話があり『子供に勉強を教えてくれる場所を探している』と相談を受けた。こんな状況でも、勉強したい人たちが大勢いる。だからこそ、学びの扉を閉ざすことはできない」と力を込める。

(藤井孝良)


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