【学校に空き容量をつくる】全員が午後6時45分までに帰る

大胆な働き方改革を実行するためには、時間の外枠を決める必要がある――。大分大学教育学部附属小学校の学校改革を推進してきた時松哲也校長は、そう語る。毎日、全教職員が午後6時45分までに退庁するなど、今の学校現場では「不可能」だと思われていたことを次々と「可能」にしてきたわけだが、どのような手法が取られてきたのか。インタビュー2回目は、学校改革を確実に実現させていくための具体的な工夫について聞いた(全3回)。

この特集の一覧

組織改革するメリット
――学校改革のために組織を改編されましたが、どのようなメリットが生まれましたか。

どの学校でも多くのエネルギーと時間が割かれている生徒指導案件や保護者への対応についても、組織で対応するようになって大きく改善されました。

本校に私が着任した2015年当初は、かなりの数の生徒指導案件、保護者への対応がありました。

例えば、保護者からなかなか理解が得られない場合、学校が組織で対応しないとどうなるかというと、「担任任せ」になり、担任教諭一人が非常に苦しい局面に追い込まれてしまうわけです。

その場合、「担任がダメなら管理職を」という事態になることも多々あります。校長は何のことだかよく分からないけれども、取りあえず収める方向に持っていく。こうした対応では問題の本質的な部分が解決されないまま、また同様のことが繰り返されることになります。

そこで、チームとしての機能を強化させるために改革をスタートした年から、何かあればまず担任教諭が学年主任に相談し、「これは担任だけでは対応が難しい案件だ」となれば、それが校長、教頭、主幹教諭、指導教諭で構成される「経営会議」に上げられます。つまり、管理職が1学級の1案件についてすぐに共有するのです。そして、誰が、どこまで、どのように対応するかを考えていきます。

「組織化しなければ、若い教員の可能性の芽をつぶすことになる」と時松校長

もちろん担任教諭には、担任の責任の範囲までは誠心誠意、対応してもらいます。それでも収まっていかないようであれば、学年主任が引き継いで対応していきますが、なお事態が膠着(こうちゃく)するようであれば、教務主任や経営会議のメンバーが引き受け、丁重かつ毅然(きぜん)と最後まで対応します。

そうすることで、真に子供中心の生徒指導や保護者対応が実現しますし、担任教諭も対応にかかりきりにならずに、また問題が解決するまでずっとハラハラすることもなく、子供の立場に立った指導に集中することができます。

こうして学校組織が機能する良さを担任教諭や学年主任も実感していくと、組織は非常にうまく回り始めます。

生徒指導案件や保護者への対応で何日も拘束されると、かかるストレスは計り知れないものになる可能性があります。これまで学校が組織として教員を支えきれていなかったことが、休職者の増加の一要因となって教育現場に現れているのではないでしょうか。

もちろん、それぞれの学校の事情や案件の特殊性も関係するので一概には言えませんが、学校が組織で対応していかないと、これからの若い教員の可能性の芽をつぶしてしまうことになります。人材育成は非常に重要で、緊急を要する課題です。学年主任は、若手教員に大変な案件があったときにはまずキャッチして、上につないでいく意識を持つべきです。

時間の外枠を決め、大胆な改革を実行する
――全教職員が午後6時45分に帰ることを実現されています。学校の働き方改革では、退勤時間だけを決めてもうまくいかないケースが多いようですが、工夫されていることはありますか。

本校は県教委や大分大学の協力も得て、「附属刷新プラン」も示していただき、もう絶対に改革をやらなければいけない状況にありました。

時間の外枠を決めることは、改革当初から取り組んだことです。時間の外枠が決まることで、「その時間内で絶対しなければいけないことをやろう」と教職員の意識が変わっていきました。

時間の外枠を決めることで教員の頭の使い方も変わった

例えば、大学附属校ではありますが、独自研究を基にした公開研はやめました。民間教育団体事務局も辞退しました。前例踏襲でやってきたこと、これを捨てたら附属じゃなくなるんじゃないかということまで、「改革のミッションに沿っているのか」「この時間内にできるのか」ということに照らし合わせながら、スクラップしてきました。

時間の外枠を決めないと、大胆なこともできません。学校でやる教育活動に「意味がないこと」「大切ではないもの」など、おそらく一つもありません。それでも、本校が今求められているミッションを達成するための、モデルチェンジに耐え得るための空き容量を作り出さなければいけませんでした。

提案は原則ワンペーパー
――退勤時間を決めることで、持ち帰り仕事が増えるようなことはなかったのでしょうか。

もちろん最初の頃はうまくいかないところもありました。持ち帰り仕事が増えてしまっては本末転倒ですから、そうならないために、仕事の内容をスクラップしていきました。

改革前は、「学校はいつまでも開いているし、自分のペースで、自分の好きなようにやればいい」という教員もいました。そうした状態から「全員がそろっているのは午後6時45分まで」という時間の外枠が決まると、「他のメンバーと打ち合わせる必要があること」「学校の中でしなければいけないこと」が優先順位の上位になってきます。

会議も「何曜日の何時に設定されているから、そこでゆっくり話そうか」とゆるりと集まっていたのが、時間の外枠を決めてからは、「今日話し合うことはこれ」「みんなに聞かなければいけないことはこれ」と準備をして臨むようになりました。

ただし、時間の効率化を教職員に求めると同時に、職員室にはお喋りを楽しめる空間を重要視して整えました。このバランスを大切にしないと真の効率化は果たせなかったと思います。

資料の作り方も変わりました。附属校は非常に手の込んだ分厚い提案文書を作る習慣があったのですが、今は「提案は原則、ワンペーパー」としています。

限られた時間で内容の濃い仕事をしようと思ったら、本当に必要なことをワンペーパーにまとめる方が、質が高まります。教員もそういう頭の使い方になるのです。

もう一つ、本校にはいろんな「口伝文化」が色濃く残っていたので、長年いる教員しか知らないようなことも数多くありました。今回の改革を機に口伝はやめて、なるべくワンペーパーで提案すると同時に、やったことに対しては、必ず総括をするようにしました。

――総括することのメリットとは、どんなことでしょうか。

例えば、行事が終わった後に、担当者は良かった点、今年度に見直した点、次年度に変えた方が良い点を総括として出し、それに沿って次年度の原案まで作っておくようにしました。

多くの学校では、行事は実施後にアンケートは取っても、それを分析することもなく、次の年に新しい担当者が「どうするんだっけ?」と、昨年度の提案文書を見て、年号や曜日、担当者名を変えて、新しい提案書としています。

昨年度には文部科学大臣優秀教職員表彰(組織部門)を受けた

日々の忙しさに追われて、こうしたことが毎年繰り返されているわけですが、それでは前年度に失敗したことや、うまくいかなかったことがほとんど生かされません。毎年、同じような不具合を繰り返し、「そういえば、去年もこうだったよね」ということになってしまう。

しかし、総括をして、次年度の原案までほぼ作っておくと、新しい担当者が前年度の総括を見ながら、「ここがうまくいかなかったから、朱書きで変わっているんだな」と理解した上で、新たな提案書を作ることができる。総括することによって、前例踏襲ではなくなっていくのも大きな利点です。

こうすることで、初めてその行事を担当する教員や、初めてその学校に赴任した教員であっても、問題なく対応できるのです。

(松井聡美)

【プロフィール】

時松哲也(ときまつ・てつや) 大分大学教育学部附属小学校校長。大学卒業後、民間企業で営業職に従事した後、教諭として地元の大分県公立小学校に勤務。大分県教育委員会による派遣研修により上越教育大学大学院学校教育研究科専門職学位課程(教職大学院)へ。同課程修了後、大分大学教育学部附属小学校へ赴任。同校で研究主任、教頭を経て、2019年度から現職。同校での学校改革・業務改善などの取り組みは多くの学校、団体、議員からの視察を受ける。19年度には文部科学大臣優秀教職員表彰(組織部門)を受ける。20年春には、5年間の改革をまとめた「学校改革スタートブック」を学陽書房から出版。


関連
この特集の一覧