【教員の性犯罪】二度と教壇に立たせない、その先は?

教員による児童生徒へのわいせつ行為の事例が相次いでいる。被害者を長期にわたって苦しめるこうした性犯罪に対し、政府は対策強化の方針を打ち出した。中でも注目を集めるのが、懲戒免職処分で免許が失効した後も3年がたてば再取得できるという現行の法律を、より厳しく見直すという点。被害の深刻さから「加害者を二度と教壇に立たせるな」という声も挙がる中、「子供の安全を守る」という本来の目的に立ち返るならば、加害者を学校現場から排除するだけにとどまらず、より多方面の取り組みが必要だと指摘する声もある。

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「二度と教壇に立たせるな」の声も

「全ての学校の先生が子供たちにとって、素晴らしい教師ばかりでないのもまた、紛れもない事実であります」。今年7月、衆院文部科学委員会で質問に立った自民党の池田佳隆議員は強い口調で訴えた。「わいせつ行為を行った教師が二度と、全国の国公私立学校の教壇に立てないような法制度にすることこそが政府、文科省の責任だ」。

教員による児童生徒へのわいせつ行為の事例が後を絶たない。今月9日にも、北九州市の市立中学校教員が、自校の女子生徒にわいせつ行為を行ったとして、懲戒免職処分となったことが発表されたばかりだ。

文科省の調査によれば、直近(2018年度)にわいせつ行為やセクシュアル・ハラスメントで懲戒処分となった教員の数は282人。その相手は自校の児童生徒が124人と4割超を占め、他にも自校の卒業生(14人)、自校の教職員(41人)など、勤務する学校が性犯罪の現場となっていることがうかがえる。

わいせつ行為などの相手の属性(出所:文科省「2018年度公立学校教職員の人事行政状況調査」)

萩生田光一文科相もこの問題を重く見ており、「児童生徒を守り育てる立場にある教師が、児童生徒に対してわいせつ行為を行うことは決してあってはならない」と繰り返し発言している。

今年6月には、文科省、内閣府、警察庁などを含めた関係府省会議が「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を打ち出し、わいせつ行為に及んだ教員を原則として懲戒免職とすることや、告発を遺漏なく行うことを徹底するよう、各教委に求めた。

特に注目されているのが、教員免許状の管理をより厳しく見直すという点だ。現在の教育職員免許法では、懲戒免職処分を受けて免許状が失効しても、3年が経過すれば再取得が可能となっている。ただ、性犯罪はとりわけ再犯のリスクが高いとされる。そのため前出の池田衆院議員のように、たとえ期間を置いたとしても、再び教壇に立てることに対するリスクを指摘する声は少なくない。

保護者らでつくる「全国学校ハラスメント被害者連絡会」は今年9月、「子供へのわいせつ行為の前歴(前科)のある人へ教員免許を再交付しないで下さい」という署名キャンペーンを開始。同28日には署名と、同内容の陳情書を文科省に提出した。10月12日午前の段階で、署名サイト「change.org」では5万6000人を超える賛同が集まっている。

再就職の厳正化か、職業選択の自由か

萩生田文科相はこうした教員免許再交付の厳正化について、「個人としては、わいせつ教員はやはり、教壇に戻さないという方向を目指して法改正をしていきたいと思っている」と述べたが、同時に「数年たって本当に更生して、やはり教育への熱意が変わらないということで戻ってきたいという人たちに、職業選択の自由をあらかじめ拒むことが、果たして憲法上できるのか、という少し大きな課題も浮上している」と説明。

教員免許再交付について説明する萩生田文科相(9月29日の閣議後会見)

医師免許や弁護士資格も一定の条件下で再取得が可能であることから、「やり直しをする機会があるのがこの国のよいところ」としながらも、医師や弁護士とは異なり「親や子供たちは先生を選ぶことができない。私はそういった意味では教員免許資格は、他の国家資格などとはやや性格が違うのではないかと思っている」として、内閣法制局との議論を進めている現状を明かした。

同時に文科省は今年9月、都道府県・政令市教委などが教員の採用に当たり、過去の懲戒免職処分歴を確認することができる「官報情報検索ツール」の検索可能期間を、「過去3年間」から「過去40年間」へと大幅に延長すると発表した。今年11月から過去5年分、来年2月から過去40年分が検索できるようになる。

文科省の浅田和伸総合教育政策局長は「採用に当たって判断の手助けとなるツール。該当したからといって、すぐに失格・失職するというものではない」と説明。教委に対してより慎重な採用を促すことで、懲戒歴のある人が再び教壇に立ち、性犯罪に手を染めるリスクを小さくする。

NPO法人性犯罪加害者の処遇制度を考える会・性障害専門医療センター(SOMEC)で加害者の治療にあたる精神科医の福井裕輝代表理事によると、わいせつ行為に手を染める教員には、もともと子供にしか性的な関心がないケースと、子供と接しているうちに子供に性的な関心を抱くようになるケースがあるという。

福井代表理事は「関心があるがゆえに学校や塾、ボランティアなど、子供と触れ合う仕事に接近する。子供は抵抗できないため、わいせつ行為を繰り返し、そのうち『抵抗しないのは、嫌がっていない証拠だ』という誤った認識を持つようになる。発覚した後も『子供は嫌がっていない、むしろ喜んでいた』と供述する加害者は少なくない」と話す。

教員を含む性犯罪加害者の治療にあたる精神科医の福井裕輝代表理事

加害者が社会に復帰するなら、こうした認知のゆがみによる再犯のリスクがないことを担保する必要がある。対話や訓練で認知や行動の変化を促す「認知行動療法」というカウンセリングの一種を受け、子供への性的関心をなくしていく方法もある。

ただ「子供と関わる職に就いても安全であるという評価をする仕組みが現状、日本では十分に整っていない。再犯のリスクが高いことを考えると、再就職に関して何らかの規制をするしかないだろう」と福井代表理事は指摘する。

加害者を教育現場から排除、その後は?

わいせつ行為などの性犯罪は被害者の心に深い傷を残し、被害者が長期にわたって苦しむことも少なくない。とりわけ未成年で被害に遭った場合は、被害に遭っている最中にはそれが性犯罪であることに気付かず、大人になってからさまざまな症状にさいなまれることもある。

こうした被害の深刻さゆえに、加害者に社会の厳しい目が向けられることは当然ともいえるが、加害者にも自身の行為を深く反省し、立ち直る機会が与えられなければならないのも事実だ。さもないと学校以外の場所で再び子供に接触し、同じような行為に手を染めてしまう可能性もある。

ジェンダー法学や子供の権利を専門とし、学校現場における性暴力事件に詳しい中京大学法務総合教育研究機構の柳本祐加子教授は「加害者を教育現場から排除するというだけで、この問題を終わらせてしまってはいけない」と訴える。

また「一人一人を社会に受け入れる“社会的包摂”が目指されている中、教育現場ではないところで、新たな包摂関係を築かせることも必要ではないか。告発して刑事司法手続きを進め、更生教育や、子供と関わらない職への就職支援を受けられるようにしていくことが重要だ」と指摘する。

事実調査に不備があり有効な証拠が得られなかったなどの理由で、加害者が無罪となることも考えられる。「そうすると、加害者は自省する機会もないまま、社会を漂うことになる。こうした人にどう対処するかも、真剣に考えなければいけない」と柳本教授は話す。

さらに「被害を受けた子供に対するまなざしも十分でない。被害に遭った学校に通いたくない、加害者の教員が担当していた教科を学びたくないという気持ちになることもある。社会的包摂や“誰一人取り残さない”といった観点に立つなら、そうした子供への被害直後から、学習支援や心身のケア、将来のキャリア支援などにも十分に目を配る必要があるはずだ」と力を込める。

教員による児童生徒への性犯罪をなくし、学校を安全な場所にしていくためには、加害者の教員に対して再就職の規制をすることにとどまらず、被害者となった児童生徒への直後の安全確保や中長期的な支援、被害にいち早く気付くための環境づくりなど、さまざまな角度からの取り組みが求められている。

前出の関係府省会議が決定した「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」でも、「性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないよう、学校教育がより大きな役割を果たしていくことが必要」として、生命(いのち)の安全教育に力を入れる方針を打ち出しているほか、被害申告・相談をしやすい環境の整備や、切れ目のない手厚い被害者支援を進めるとしている。

次回は、具体的な事例に触れながら、性犯罪のない安全な学校づくりのために学校現場ができることについて考える。

(秦さわみ)


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