【学校に空き容量をつくる】持続可能な学校改革を

50項目以上の業務を見直すなど、大胆な学校改革を進めてきた大分大学教育学部附属小学校。教職員の負担が減り、子供たちと向き合う時間が大幅に増えたことで、さまざまな変化が学校にもたらされたという。時松哲也校長へのインタビュー最終回は、改革後に現れた子供たちの変容と、コロナ禍において新たに進めている業務改善について聞いた(全3回)。

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教職員の資質・能力、学校力が向上
――学校改革を始めて以降、どのような変化がありましたか。

改革を始めてから、われわれの取り組みがどうだったのかについて教員の声を集めたり、可能なものはデータを取ったりするなどして、エビデンスを示すようにしています。

まず、本校の学校改革においてミッションの一つである「地域教育への貢献」、つまり県内の公立校の役に立つ授業改善ができているかについては、毎年、セミナーという形で公立校の先生方に授業を見ていただき、その後に追跡調査を行っています。それによると、セミナー後に「実践に使った」という回答が74%に上っています。

また、子供たちの変化でいうと、2014年度から行っている自己他者肯定感テストの結果が、少しずつですが確実に上がってきています。全国学力・学習状況調査の結果も、学校改革が始まった直後の15年度から改善されてきています。

全国学力・学習状況調査のB問題の平均正答率を全国の国立校と比較

細かいところで言えば、給食の残食率も改革後にかなり減ってきています。さらに、数値は取っていませんが、改革以前から本校に勤務していた養護教諭からは「保健室に来る子供の数が減った」と報告を受けています。

改革前、本校の教員は自分たちの研究に本当に忙しくしており、寸暇を惜しんで仕事や膨大な業務に当たっていました。給食時間や休み時間を子供たちと教室で一緒に過ごすことも難しい状態で、子供たちに寄り添いたいけれども、なかなか時間が取れていなかったのです。

そうした状況だったので、寂しい思いをしていた子供たちもいたと思います。先生にもっと話を聞いてほしかった子供もいたことでしょう。それが時間の管理や、チームとして機能強化などの働き方改革を進める中で教員に余裕がでてくると、子供たちに向き合う時間が増えていったのです。このことが子供たちにさまざまな変化を生んだのだと思います。

心理的安全性を担保する
――教員の余裕を生むこと以外に、重要なことはありますか。

例えば、今後はわれわれのミッションの一つである外国語教育の充実に加えて、これからの世の中を生き抜く力を育むために、総合的な学習の時間にもっと取り組み、カリキュラム・マネジメントの質を高めていきたいと考えています。

しかし、そうした新しいことを上乗せしていくためには、教員にも子供たちにも心理的安全性が担保されている必要があります。どんなに良い実践を積み重ねていっても、土台が危ういとすぐに揺らいでしまうからです。

――その土台は、どのように作り上げていけばよいのでしょうか。

子供たちが安心して学校に来られるように、基本的なことですが、あいさつと掃除、トイレのスリッパを含めた履物をそろえる――などをはじめとした生活指導を、みんなで毎日、徹底して取り組んでいます。

また、それと並行してリレーションを高めるために、学級でどの子も安心して発言ができる空気をつくる、山口大学教育学部附属山口小学校が、上智大学の奈須正裕教授の指導の下で実践している「フリートーク」を、本校でも15年度から取り入れています。

「フリートーク」は朝の時間を使って、全学級が取り組んでいます。当番が毎日お題を出して、そのことについて自由に話します。フリートークでは、「共感的に“聴く”こと」を大切にしているので、担任教諭は子供たちの発言に対して、「◯◯さんは、笑顔で聴けていたね」などと、話を聴く様子に価値付けしていきます。

子供たちが毎朝行なっている「フリートーク」の様子

全校で取り組んでいることで、学年間で違うクラスの様子を見に行って、子供たちと教員が学び合うこともできます。つまり、教員の共感的に聴く力を高めることが、子供たちの共感的に聴く力を高めることに大きく影響していると考えているのです。

また、1年生が6年生のフリートークを見に行き、「あんな風になりたいな」と尊敬の気持ちが生まれるなど、異年齢の関係づくりにも役立っています。

生徒指導の3機能を意識した生活指導や、ルールとリレーションを大切にした学級経営など、理論に基づいた実践について、短期の検証を繰り返しながら、子供と一緒に学校生活を創り上げていく。それが教員と子供たちの安心・安全につながるのだと信じ、これからもこだわって取り組んでいきたいと思っています。

カリキュラム・マネジメントの研修
――コロナ禍をきっかけに、改革が進んだことはありますか。

例えば、卒業式や入学式などの式典が、大きく変わりつつあります。

恥ずかしながら、コロナ以前は「式典だから来賓は呼ぶべきだろう」「あいさつはたくさんの方からいただかないといけないだろう」などと、思考停止になっていたところがありました。

コロナの感染拡大により、3月の卒業証書授与もかなり短い時間に凝縮したのですが、それでもみんなの心がこもったものができました。本当の意味で「みんなで子供たちの門出を祝う」ことに注力するには、何が必要なのかを考えさせられました。

練習する時間もありませんでしたが、普段から子供たちは人に会えばあいさつをするし、人が前に立てば礼を合わせるということをやっています。普段通りのことを、式典でもやればいいだけでした。

また、コロナとは関係なく、運動会に関しては昨年度終了時点から改革を考えていました。運動会は伝統的なことが占める割合が大きかったのですが、学習指導要領が変わったタイミングで、もっと体育で身に付けさせたい資質・能力に照らし合わせた見直しを進めようとしていました。

そうした計画がある中でコロナ禍となったので、今年は3密を避けるなどの配慮はもちろん、前例にとらわれない運動会にシフトし、種目数もぐっと減らして今月実施する予定です。

――授業についても、コロナによって変わったことはありますか。

教科書の内容全てを扱うことで汲々となるのではなく、学校の主体的で柔軟な取り組みが、文科省からは求められています。本校ではこれこそがカリキュラム・マネジメントと捉え、教育課程を資質・能力ベースで見直しました。

例えば、国語科では指導事項が同じ教科書教材を、主教材と並行して読む教材として組み合わせ、言語活動を再考しました。また、主教材で身に付けた読み方を、並行して読んだ教材や本にも活用させて読んだりすることで、時短を図るとともに、児童が確実に資質・能力を身に付けることを目指しました。

また、授業展開においては反転学習の要素を取り入れました。課題について各自の考えを書いてくるまでを家庭で行い、学校では考えを出し合ったり、まとめたりすることに重きを置くようにしていきました。

このように、教育課程や授業展開を再考することで、大変ではありましたが、先生方の思考とマインドを活性化させることになったとも感じています。

今後、再び感染が拡大する可能性も十分あり得ます。そうなった場合でも、限られた授業時数の中で子供たちに必要な資質・能力を付けさせるためには、どうすればいいのか。本校では、休校期間中からずっと取り組んでいるカリキュラム・マネジメントの研修を、今も継続しています。

正解のない問いに対して、各教科で得た質の高い知識や技能をフル活用し、最適解を見つけていく――。今年度から施行された学習指導要領は、そうした力を学校教育の中で養っていこうという方向性です。

まさに今、それを突き付けられていると感じながら、教職員のそれぞれの得意分野を駆使し、知恵を総動員しながら、一つ一つ進めているところです。

持続可能な組織になっているか
――学校改革が始まった15年度以降、時松校長は3代目の校長です。トップが変わっても改革を継続させていくために、工夫されている点はどのようなことでしょうか。

校長自身が改革マインドを決して忘れないということが、一番大切だと思っています。学校改革には、決して終わりはありません。常に改革の途上なのだからこそ、改革マインドと高いアンテナを持ち、「求められているものは何なのか」を自問自答しながら、「何をしなければならないか」「何ができるか」「何をしたいか」を整理していくことが大切なのではないでしょうか。

トップが変わって元に戻るということは、改革がみんなのものになっていない、持続可能な組織になっていないということです。

私は昨年度から校長職に就いていますが、私でも継続してやれているのは、教頭や主幹教諭、指導教諭、学年主任をはじめ、全ての教職員が、本校が取り組んできた改革の良さを実感し、共に点検をしながら進めてくれていることが大きいと思っています。

もう一つ大切なのは、子供たちや保護者、地域、大学の求めにちゃんと応えられているのかを、常に教職員と対話しながら確認していくことです。

これまでの学校改革で取り組んできたことや、コロナ禍で取り組んだカリキュラム・マネジメントと授業づくりの考え方などについても、大分大学や教育委員会など外部機関にもチェックをしてもらいながら、県内の学校に広めていきたいと思っています。

「働き方改革が目指すところは、教員の資質・能力を高め、教育の質を上げること」と時松校長

私自身の戒めでもありますが、働き方改革が勤務時間の縮減や時間管理に目的化してはいけないと思っています。

働き方改革の目指すところは、教員の資質・能力を高め、教育の質を上げることのはずです。つまり人材育成です。そのために、先生方を長時間労働から解放し、人間性を高め、感性を研ぎ澄ます自己研さんに向かう空き容量とエネルギーを担保することが大事です。

ゆえに、勤務時間の管理と組織改編を含めた学校の機能強化が必要となる。この原理原則を見失ってはいけないと思っています。

決して独り善がりになってはいけないと肝に銘じながら、これからも改革を継続して進めていきます。

(松井聡美)

【プロフィール】

時松哲也(ときまつ・てつや) 大分大学教育学部附属小学校校長。大学卒業後、民間企業で営業職に従事した後、教諭として地元の大分県公立小学校に勤務。大分県教育委員会による派遣研修により上越教育大学大学院学校教育研究科専門職学位課程(教職大学院)へ。同課程修了後、大分大学教育学部附属小学校へ赴任。同校で研究主任、教頭を経て、2019年度から現職。同校での学校改革・業務改善などの取り組みは多くの学校、団体、議員からの視察を受ける。19年度には文部科学大臣優秀教職員表彰(組織部門)を受ける。20年春には、5年間の改革をまとめた「学校改革スタートブック」を学陽書房から出版。


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