【教員の性犯罪】いつ、どんな対応が学校に必要か

自校の児童生徒がわいせつ被害に遭っているかもしれない――。その時、適切な行動がとれるだろうか。特に大切なのが、発覚直後の被害者の安全確保や専門機関との連携だ。被害者に配慮した正確な事実調査は、裁判の行方や被害者の心身の回復を左右するだけに、極めて重要になる。とはいえ、起きてからでは遅いのも事実だ。性犯罪を未然に防ぐ取り組みや、子供がSOSを出しやすい環境づくりが普段から求められている。各ステップで必要となる方策について整理し、性犯罪のない安全な学校にするために何ができるかを考える。

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性犯罪は、子供が拒否できない状況で起きる

子供に対する性犯罪の加害者は、むろん教員だけではない。法務省が性犯罪に関する刑法改正に向けて立ち上げた「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」の報告書(2020年3月)によると、直近(18年度)で一審判決が言い渡された性犯罪事件のうち、被害者が18歳未満の事件(106件)では、性犯罪を受けていた相手は「実父母・養父」が最も多くなっている。

ただ「教師・指導者」も上位に挙がっており、その指導的立場を利用してわいせつ行為に手を染めるケースが少なくないことがうかがえる。

東京都で性犯罪・性暴力被害者からの相談を24時間体制で受け付けている、性暴力救援センター・東京(SARC〈サーク〉東京)の平川和子理事長によると、持ち込まれる年間200件弱の未成年者の性被害相談のうち、最も多いのはやはり家族からの監護者性交などや性虐待だが、教師、部活のコーチ、塾講師からの被害も1割弱を占めるという。

18歳未満の被害者から見た被告人の立場(出所:法務省「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」報告書)

あるケースでは、小学校低学年の女子児童が約2年間にわたり40代の男性教員からわいせつ行為を受けていた。児童が「先生のお嫁さんになりたい」と口走ったことにつけこみ、教員は「お嫁さんになりたいなら、こういうことができないと」と、空き教室に連れ込んでわいせつ行為に及んだ。

異変に気付き、校長に報告したのは事務職員だった。それ以外の教員は知ってか知らずか、声を上げることはなかったという。校長から連絡を受けた保護者からSARC東京に相談があり、支援員は「子供にとって自分の被害を話す負担は大きいため、検察などが一度だけ話を聞く協同面接を行って事実を確認したほうがよい」と、児童は一時的に学校を休ませて、保護者だけで学校との話し合いを進めるよう助言した。

ところが話し合いの場から加害教員が逃げ出し、校長が警察に連絡したことから逮捕に至った。SARC東京では被害を受けた児童を精神科医につなぎ、保護者を含む家族への精神的ケアも進めているという。

これは学校と保護者、ワンストップ支援センターの連携がうまく機能したケースだが、こうした例ばかりとは限らない。

中学1年生の女子生徒が卒業した小学校の教員を訪ねて被害に遭ったケースでは、直後に女子生徒が保護者に打ち明け、保護者から学校に調査を依頼したが、「調査の結果、そのような事実はなかった」という報告を受けた。

保護者も「まさか中学1年生の子供が」という思いから被害について確信を持つことができず、それ以上の追求を行わなかったところ、高校生になって自傷行為や不登校などの症状が現れたという。本人がようやく被害について理解し、SARC東京に相談した時には、被害から15年という年月が過ぎていた。

「多忙な学校現場で、教員の人権教育にまで手が回らない実態もあるのだろう。ただ、学校内といえども性被害があるのだということをまず、認識する必要がある。性暴力被害は指導的立場を利用して性欲の対象にするなど、子供が拒否できない状況の中で起きる。勉強したい、部活で強くなりたい、と思っている子供たちは、教員にノーを言えないのだということを教員は理解してほしい」と平川理事長は訴える。

子供にあれこれ聞かず、専門家につなぐ

SARC東京への相談事例からも、教員による性被害が起きた時や疑われる時には、教員や管理職、保護者、専門機関など、周囲の大人が適切なタイミングで適切な対応を取ることが、いかに重要であるかが分かる。

教育新聞は取材を通して、教員が採用されて児童生徒に接触し、わいせつ行為が発覚してから、被害者の支援、ケアやエンパワメント、加害者の更生に至るまでの各段階において、子供の側、教員・学校・行政の側のそれぞれに必要とされる対応を整理した。

各ステップで求められる支援(取材をもとに教育新聞作成)

わいせつ行為を行った教員を原則として懲戒免職とすることや、教育職員免許法の改正によって免許状の再取得を制限することは、被害が発覚した後の加害者に対する処分の一つにすぎない。

児童生徒にとってとりわけ重要なのは、被害が明るみに出た直後の対応だ。保護者や教員は児童生徒を心配するあまり「何があったのか」と詳しく聞いてしまいがちになる。

しかし児童生徒にとっては、被害について何度も話すことへの心理的な負担が大きいだけでなく、大人が望むような答えをしたり、何度も別の大人に話すうちに内容が変わってしまったりして、刑事司法手続きにつながったとしても供述が信用されないこともある。実際、聞き取りに問題があったために、加害者が無罪になったケースもあった。

中京大学法務総合教育研究機構の柳本祐加子教授は「被害が疑われる時にはかえって詳しく聞いてはいけない、専門家と連携して慎重に進める、ということを、子供に関わる人は保護者も含め、必ず知っておかなければならない。あわせて学校は、児童生徒の安全を守るための適切な対処ができ、専門機関につなぐことができる相談先を、校外などにも持っておく必要がある」と指摘する。

また「事実調査の段階から学校、教委、検察・警察などとの連携を進め、早めに司法面接につなげることも重要だ」という。司法面接とは、法的な証拠としても使用可能な正確な情報を、子供にできるだけ精神的負担を掛けずに聴取することを目指した面接法で、2010年ごろから児童相談所や警察・検察などで導入されている。複数の機関が連携して少ない回数で面接を行う場合は、協同面接と呼ばれる。

前出のSARC東京の平川理事長も「学校だけで対処しようとするのではなく、警察・検察など関係機関と連携することで、被害者を孤立させない仕組みを作るべきだ」と強調する。

「性被害が発覚した時、学校側の対応が遅れたり、甘くなったりすることもある。被害の時期や場所など基本的な事実関係を確認したら、速やかに都道府県にある性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターに相談してほしい。警察に相談するのも一つの手だ」という。

性被害を未然に防ぐ、いち早く気付く

とはいえ、性被害が起きてしまってからでは遅い。未然に防いだり、早期に発見したりするためには、教員側の「児童生徒と二人きりにならない」「定期的な研修を受ける」という意識付けや、同僚の教員に対して少しでも「おかしいな」と思うことがあれば、それを放置せず管理職などに相談することなどが重要になる。また、児童生徒にとっても自らの被害に気付き、SOSを出しやすいようにする教育や環境づくりが欠かせない。

内閣府は9月30日、「性犯罪・性暴力の加害者・被害者・傍観者にならないための『生命の安全教育』調査研究事業」の初回検討会を開いた。研究者や学校関係者、弁護士などが委員となり、年齢に応じた適切な啓発資料や手引書の作成に向けた議論に着手した。

幼児期・小学校低学年では「水着で隠れる部分は他人に見せない、触らせない、もし触られたら大人に言う、他人に触らない」、小学校高学年・中学校では「SNS等で知り合った人に会うことなどの危険や被害に遭った場合の対応」、中学校・高校では「性被害に遭った場合の相談先」といった指導を充実させることを目指している。

世の中で表面化する性犯罪は「氷山の一角」だと指摘されることも多く、なかなか声を上げることができない被害者もいる。そのため独自の実態調査を行い、児童生徒の小さなSOSをすくい上げようとしている教委もある。

神奈川県教委は2006年度から、県立学校の全生徒、外部指導者を含む全教職員を対象に「県立学校におけるセクシュアル・ハラスメントに係るアンケート調査」を実施し、セクハラやわいせつ行為などの実態把握に取り組んでいる。

当初は3年に一度の実施だったが、12年度からは毎年実施。生徒が答えやすいよう回答は無記名でも可とし、学校を通さず、着払いの封筒で教委に直接送れるようにしている。生徒からは自分や他の生徒の被害状況とその内容、加害者についての回答、教員からは目撃情報や本人からの申告があり、それを受けて注意や指導などを行っているという。

神奈川県教委の担当者は「調査を通して、教員がセクハラだと認識すらしていなかった“からかい”や授業での発言が、不適切だという意識が広がってきた。生徒は鋭敏に『不快だ』と感じるようになっているが、教員側の意識が追い付いていないこともある。体育の補助などで生徒の体に触れなければならない場合でも、生徒の同意を重視してほしい」と話す。

教員に対し、独自の啓発活動を進める教委もある。長野県教委は19年、臨床心理士らとともに直近10年間、14件の懲戒処分の事例を分析した報告書を公表した。加害教員がわいせつ行為に至るまでの動機や環境、思考の誤りなどを軸に、「てなずけ型」「救済者願望型」「性暴力型」「盗撮型」と分類し、類型ごとに被害を防ぐための対策の視点を整理している。

報告書では「この検証は、現実の事案を検証したものであり、決して他人事とせず、自分事としていただきたい」と強調。県下の学校に対し、毎年の校内研修のテキストとして提供している。長野県教委の担当者は「今後は子供向けの啓発プログラムも徐々に提供していきたい」と話す。

(秦さわみ)


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