【相次ぐ爆破予告】卑劣な犯罪から子供を守る

学校をターゲットにした爆破予告が相次いでいる。10月16日には和歌山県新宮市の問い合わせフォームに「市内の高校2校や小中学校10校に火炎弾を撃ち込む」といった脅迫メールが届いた。市は予告日である20日、標的とされた学校を臨時休校にする措置をとった。この他にも、全国各地で学校や児童生徒の安全を脅かす「脅迫メール」が続発するという、“異常事態”が続いている。学校はこの卑劣極まりない犯罪行為と、どう対峙(たいじ)し、児童生徒を守り抜くべきか。犯罪心理学専門で、東京未来大学こども心理学部長の出口保行教授にアドバイスを聞くとともに、各自治体や学校が策定する危機管理マニュアルからヒントを読み取る。


エスカレートする脅迫内容

長期に渡った一斉休校がようやく明けた6月8日、東京都世田谷区のある小学校では、ヘルメットにマスク姿の児童と教職員がグラウンドに集まっていた。照り付ける太陽の下、グラウンドは異様とも感じられるほど、張り詰めた空気に包まれていた。

「世田谷区と渋谷区の学校30校を6月8日午前10時30分に爆破する」――。この数日前、区内の学校は何者かから爆破予告を受けた。標的になった同小では、予告された時刻、通常授業を取りやめ、児童らをグラウンドに避難させた。

東京都世田谷区内の小学校で、爆破予告時間を前に校庭に集まる児童と教職員(6月8日撮影)

この爆破予告を皮切りに、現在に至るまで、全国の小中高、大学をターゲットとする「脅迫行為」が後を絶たない。

9月に茨城県筑西市に送られた脅迫メールでは学校の爆破予告に加え、児童生徒の誘拐をほのめかす内容があり、学校関係者をさらに不安に陥れた。同市教委の担当者は、教育新聞の取材に対し、「児童生徒を不安にし、通常の教育活動を妨害する行為だ」と戸惑いとやり場のない怒りをにじませた。

これまで実際に爆発や不審物が発見されたケースはないものの、その脅迫内容は「市内の小中高校と大学で『黄リン』を詰め込んだトラックを横転させる」(千葉県銚子市)、「市内の学校に火炎弾を放つ」(和歌山県新宮市)など、具体的かつ悪質なものに日に日にエスカレートしている。そしてその大半が「匿名」という、SNSやウェブの特性に乗じた犯行である点も陰湿だ。

AIを活用しながらSNS情報を解析し、危機管理に関する情報をまとめる企業「Spectee(スペクティ)」が、昨年10月から今年9月までにSNS上で覚知した爆破予告についての情報を公表した。それによると一桁で推移していた爆破予告は、今年6月を境に急増。▽6月 12件(うち教育機関4件)▽7月 30件(同19件)▽8月 45件(同22件)▽9月 62件(同27件)――で、過半数が小中高や大学を標的にしたものだった。

教育機関における爆破予告SNS覚知件数
直ちに通報が犯罪抑止になる

学校をターゲットにした悪質な爆破予告が増えている背景には、どのようなものがあるのだろうか。

犯罪心理学専門で、東京未来大学こども心理学部長の出口保行教授は「コロナ禍で日常生活が制限され、ストレスを発散させるタイミングが乏しく、さまざまな不満が蓄積しやすいことから、こうした事案の発生が増えているのだろう」と分析する。

さらに「このような犯行は社会に対して不満を強めている者、特に自分は社会から必要とされていないと感じている者が、ストレス発散のために実行している場合が多い」と説明。学校や子供を狙ったものが目立つ理由については、「絶対的弱者である子供をターゲットとすることで、社会の動揺や不安がさらに高まる。それに快感を覚えているのだろう」と、加害者が愉快犯的思考に陥っている可能性を指摘する。

一部の犯行では爆破だけでなく、児童生徒の誘拐や監禁、攻撃など直接的な危害をほのめかすものもあり、日に日に脅迫内容が暴力的になっている印象がある。出口教授は今回のようなネットを介した犯罪行為は匿名性が高く、行動がエスカレートしやすいとし、「最初はささいないたずらから始まったものが、もっと、さらにと、強い刺激を求めるようになる」と説明する。

もし自分の勤務する学校が、ターゲットにされたら……。教員や教委には「何か異変を感じたらちゅうちょせず、直ちに警察に通報してほしい」と呼び掛ける。

出口教授によると、加害者が犯行を実行するまでには「リスク」と「コスト」、2つのハードルがあるという。「検挙されるかもしれないリスクの高さ、検挙されなかったとしても、自分が実行したと周りに知られたときに何かを失うかもしれないというコストを考えて、加害者は犯行に及ぶ。ネットを介した犯行予告は匿名性が高く、リスクもコストも低いと勘違いされ、実行を後押ししているのだろう。学校関係者が通報して犯人が検挙され、犯罪として明るみになることが何よりの抑止につながる」と説明する。

東京未来大学こども心理学部長の出口保行教授(出口教授提供)

懸念される児童生徒の心理面への影響を巡っては、「隠さずに、伝え方に配慮しながら、しっかりと説明してほしい」と話す。伝え方の一例として、「まず学校や教員が警察に通報し、犯人を逮捕してもらえるよう動いていると話し、児童生徒の心理的安全性を担保する。その上で、このような行為が警察に逮捕される犯罪であることを丁寧に伝えたらいいのではないか」と提案する。

さらに、こういった犯行は模倣犯が現れる可能性が高いことに触れつつ、「子供がこんなに不安がっている、学校にこんな困った影響が出たなどと、被害の大きさに焦点を当ててしまっては、加害者の満足心を満たし、新たな犯行を誘発するだけだ。児童生徒や外部に発信するときは、これはいたずらではすまされない、100%犯罪行為なのだとしっかり伝えることが重要だ」と呼び掛ける。

見直される危機管理マニュアル

文科省が2018年に改訂した「学校の危機管理マニュアル作成の手引」では、爆破予告の対策に関する項目が新たに盛り込まれた。今回の相次ぐ爆破予告について、文科省担当者も「報道で把握する限り、増加している実感はある。各自治体や学校単位で危機管理マニュアルを改めて確認してほしい」と危機感を募らせる。

充実した危機管理マニュアルを策定している学校の一つ、鳥取県立鳥取中央育英高校。18年4月に策定したマニュアルには、爆破予告への対応についても丁寧に触れている。生徒が在校時と、登下校中を含む在宅時にシーンを分け、爆発前の対応だけでなく、万が一爆発が起きた場合の行動についても細かく解説する。

例えば、生徒の在校時に爆破予告が発覚した場合、直ちに警察や消防に通報し、県教委に報告する。一刻の猶予もない場合は「管理職が最善だと考える避難場所を指定し、すぐに避難を開始するように放送する」、猶予がありそうな場合は「全職員を招集し、情報共有し、短時間で対応策を決定し実行する」とした。その後の流れについても、「安全が確認され授業に戻る」「危険だと判断し生徒を帰宅させる」などの場面を想定し、生徒の誘導の仕方やその後の連絡方法についても触れる。

爆発が起こった場合は「避難前」「避難中」「避難後」の3つのシーンに分けて行動を整理。例えば避難前に爆発した際は、「爆発音がした場所から遠ざかるように避難させる。放送機械が作動する場合は的確な指示を出す。爆発中心部には誰も近づかない」などと説明する。また爆発時は大いなる混乱が予想されることを踏まえ、避難場所での指示やけが人の救護、家庭への連絡手段などについても細かく触れる。

いまだに全国各地で頻発する、学校への爆破予告。「ライフル」「火炎瓶」「化学薬品」など、脅迫内容は着実に悪質化している。「匿名」というネットの特性に乗じて、教育現場や社会を恐怖と混乱に落とし込む犯人の行動は、卑劣で、愚かとしか言いようがない。たとえ実害がないとしても、これはれっきとした犯罪であり、決して許される行為ではないと、学校関係者の一人一人が胸にとどめ、毅然(きぜん)と対応することが求められている。

(板井海奈)


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