【コロナ禍での教育実習】 翻弄される教育実習生

「教師の卵」たちにも、コロナ禍は大きな影響を与えている。学校の一斉休校により、春に予定されていた教育実習のほとんどが実施できなくなり、文科省は8月、やむを得ない事情があれば今年度の教育実習の全部または一部を、大学の科目で代替できる特例措置を通知した。その結果、どのような状況が起きているのか。教育新聞では大学生の読者を対象にアンケートを実施し、今年度の教育実習の実施状況や教員志望者の意識を調べた。

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教育新聞を購読する教員志望者にアンケート

この調査は、教育新聞を「学生割引」で購読している読者に9月7~16日の間、ウェブアンケートへの協力を依頼。教職課程を履修中の学生ら143人から回答を得た。学生の所属は▽国立 36.4%▽公立 2.8%▽私立 58.0%▽その他 2.8%――で、いずれも大学院生からの回答が含まれている。所属する学部の所在地は都内が最も多く28.7%で、次いで、南関東(千葉、埼玉、神奈川)が21.0%。これに北関東の2.1%を加えると、約半数が関東地方となる。

また、取得予定の教員免許状の校種を複数回答で聞いたところ、中学校が最も多く97人、次いで高校が90人、小学校が79人だった。特別支援学校は22人、幼稚園は18人だった。

次に、今年度の教育実習の状況について聞いた。

アンケートに回答した時点ですでに教育実習を実施済みだった場合も含め、「今年度中に教育実習をする予定」と答えた人の割合は全体の69.9%で、ちょうど100人だった。教育実習先の校種は▽幼稚園・認定こども園 3人▽小学校 36人▽中学校 28人▽高校 21人▽特別支援学校 10人▽その他 2人。

教育実習先の学校

100人の教育実習予定者の内訳を見ると、▽出身校 41人▽大学の附属校 18人▽附属校以外で、大学が指定した学校 24人▽出身校以外で、自分で実習を依頼した学校 14人▽その他 3人――となっている。新型コロナウイルスの影響で教育実習の受け入れ先の確保が懸念されたが、割合だけで見れば、例年と変わらない傾向にありそうだ。設置者別では、公立学校が全体の75%を占め、国立大学の附属校は15%、私立学校は9%、その他は1%だった。

教育実習ができない不安、教育実習で感じた不安
9月7日時点での教育実習の実施状況

100人の教育実習予定者のうち、調査を開始した9月7日時点での状況は▽すでに実施済(近日中に実施予定含む) 81人▽教育実習は実施せず、代替措置を行う予定 5人▽未定 3人▽その他 11人――で、多くは教育実習を実施できる見込みであるものの、不透明な状況に置かれている学生も一定数いることが分かった。このうち、教育実習の代替措置は、講義やレポートの提出、ボランティアの参加などが中心で、意外にも模擬授業と答えた人はいなかった。

また、教育実習を実施しなかったり、未定だったりすることへの不安(複数回答)については「漠然とした不安を感じる」(9人)、「実際に子供たちと接する機会がない」(8人)、「採用時に実習経験のないことが不利に働くのではないかと思う」(7人)、「教員の働き方を間近で見る機会がない」(6人)、「実際の教員の仕事内容を間近で見る機会がない」(6人)――となっている。

一方、すでに教育実習をした人は、新型コロナウイルスによってどんな影響を受けていたのか。

寄せられた自由回答を見ると、「実習期間が3週間から2週間に減ってしまって不安を感じる」(出身の公立高校で実習を行った都内の私立大生)、「2週間前に自宅待機をするよう実習先に言われたが、それ以外は普段通りの学校という感じだった」(公立中学校で実習を行った南関東の私立大生)、「オリエンテーションなどの事前準備が不十分」(大学の附属小学校で実習を行った都内の国立大生)など、大きな制約や変更の中で行われた教育実習だった状況がうかがえる。

また、3密対策が徹底されている学校現場の状況を直接見て、「給食時に無言で食べる。時差登校や健康チェックなどで先生の負担が増加している。生徒のテスト期間のスパンが短い」(公立中学校で実習を行った南関東の私立大生)、「給食前には手洗い・うがい、消毒をし、全員静かに前を向いて食べるように指導されていた。しかし、ペア活動やグループワークは頻繁に実施しており、マスクはしているが特に気にしている様子はなかった。放課後はボランティアの方が消毒作業をされていた」(出身の公立小学校で実習を行った近畿の私立大生)、「マスクを着けながら運動をしたり、外での行事が行われるため、熱中症の心配の方が大きかった」(大学附属の特別支援学校で実習を行った南関東の国立大生)といった自由回答が寄せられるなど、対応に追われる学校現場を肌で感じ取っていた人も多かった。

この他にも、「大学生はコロナ禍でも行動範囲が広く、たびたび流行源となっていることを考えると、やはり大学生を教育現場に招くのは危険なのではないか」(大学の附属小学校で実習を行った東北の国立大生)、「教育実習を講義で代替することには賛成。もちろん実習は大切だが、元々大学生の本分は職業訓練などではなく専門性の向上にあり、感染拡大のリスクを冒してまで実習を重要視する必要はない。実習に行かなくても、やれることは他にたくさんある」(公立小学校で実習を行った甲信越の国立大生)など、新型コロナウイルスの影響が続く中で行われる教育実習に、否定的な意見も見られた。

翻弄(ほんろう)されながらも、ひたむきな教員志望者たち

さらに教育新聞では9月下旬に、アンケート回答者のうち数人にインタビューを実施した。

南関東の国立大3年生の羽田彩さん(仮名)は、10月に実家の近くにある小学校で3週間の教育実習を行う予定だ。当初は今年5月ごろに行う予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期となった。ようやく実現した教育実習だが、受け入れ先の学校からは「丁寧に添削する時間が確保できないため、指導案は簡略版にしてほしい」と言われている。

羽田さんが通う大学では、まだ対面での授業が再開されていない。そのため、教育実習の説明会もオンラインで行われた。大学から送られてきたガイドブックには一通り目を通したが、同じタイミングで教育実習を行う予定の同級生と情報交換をすることもできず、不安だという。

もう一つ気になっているのは、小中学校の教員免許取得で必要となる「介護等体験」だ。感染防止のために、福祉施設や特別支援学校などの受け入れ先がなく、大学の授業で代替することに決まったが、羽田さんは「小中学校の教員になる人はみんな経験しているので、やっておいた方がいいのではないか。教員になれば、クラスや学校に特別な支援が必要な子供は必ずいる。できることなら大学生のうちにやっておきたかった」と残念がる。

羽田さんは現在、教育実習に向けて、担当する学年の児童がそれまでに習った漢字を確認している。授業で板書をしたときに、子供が読めない漢字を書いてしまったり、すでに習っているのに平仮名で書いてしまったりするのを避けるためだ。

さらに、教育実習の前にできるだけ学校現場を知っておこうと、夏休み以降は自主的に学校でのボランティア活動などに参加するようにした。

羽田さんは「夏休みが短くなって、子供たちはみんな嫌なのかなと思っていたら、学校がないと友達とも会えないし、休みでも家にいないといけないと言っていたのが意外だった。でも、授業では子供がノートを取る場面がほとんどなく、先生がプリントを配って、それをノートに貼るようにしていた。時間がないのだと思うけど、授業がすごくスピードアップしている」と現場の複雑な状況を心配する。

東北地方の国立大4年生の茂野佳子さん(仮名)は、教育実習を受けないまま、今年度の教員採用試験に臨んだ。感染防止対策で実技試験や小論文などがなくなったものの、所属する大学はキャンパス内立ち入り禁止となったために、仲間と一緒に試験対策をしたり、情報交換をしたりすることができなかった。仕方なく、YouTube上に公開されている解説動画を活用するなどして、一人で対策をしたという。

茂野さんの志望は特別支援学校だが、春先に予定されていた教育実習は延期となった。そのため、自分が本当に特別支援学校の教員に向いているのか確信が持てないまま、面接に臨まざるを得なかった。試験当日まで教壇に立った経験もないまま、動画などで特別支援学校の子供たちのイメージを膨らませながら、模擬授業に臨んだ。

試験終了後の2学期、2週間という短期間ながら、ようやく特別支援学校で教育実習をすることができた。さらにほんの数日を置いてすぐに、今度は小学校の教育実習が始まる予定だ。ただし、受け入れ先の学校の判断で実際の授業は行わず、模擬授業だけになるという。「小学校で多くの子供たちを前に授業ができないことは、教員になる上ですごく不安だ」と茂野さんは話す。

それでも茂野さんは、特別支援学校での教育実習を通じて、教員になる思いをより強く持ったという。

「特別支援学校の子供たちにとって、新型コロナウイルスへの感染は命に関わる問題だ。絶対に教員が感染してはいけない、責任のある仕事だと思った。大変だとは思うけど、頑張ろうと思えた」

茂野さんは、卒業論文も特別支援教育をテーマに掲げており、教育実習が終われば今度は大学での学びの集大成に向けて、研究に本腰を入れる。「卒業までに研究会やボランティアにも参加して、少しでも特別支援の子供たちと関わる機会を増やし、主体的に学んでいきたい」と話す。

小学校での教育実習を終えたころ、茂野さんのもとには教員採用試験の結果が届く。

(藤井孝良)


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