【コロナ禍での教育実習】 大学や教育委員会の模索

コロナ禍によって実施が困難になっている教育実習。教育新聞の読者を対象にした調査では、今年度に教育実習を予定していた学生らが大きな不安を抱えている様子が浮き彫りとなった。そんな中、教員志望者が学校現場を知る機会をつくろうとするさまざまな動きが、大学や教育委員会の間で出始めている。

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代替措置でもできるだけ学校現場の体験を確保

教職課程のある大学は、今年度の教育実習について、どのように対応しているのか。教育新聞が教員志望者の多い複数の大学に取材を申し込んだところ、文書で回答があった。

大阪教育大学では、教育実習を総授業時間数の3分の2以上とし、残りの時間数分は「学校体験活動」で代替措置を行う方針としている。現在のところ、今年度に教育実習を申請している学生は全員、実習校の確保ができているものの、実習期間の短縮を求められたり、実習を断られたりしているケースもあるという。また、大学での事前指導も、オンライン授業によるビデオ視聴や代替の課題で対応した。

同学の教育実習担当者は「教育実習に相当する教育効果を大学の授業で代替することは難しいと判断しており、教育現場における学びを提供したいと考え、可能な限り学校体験活動で代替する方針」としている。

千葉大学では、7月まで教育実習を全面中止とし、8月以降に再開することとした。今後、新型コロナウイルスの感染拡大などで教育実習ができなくなれば、8月に文科省が出した今年度限りの特例を活用する方針としているが、その場合でもできる限り学校現場での「教育援助体験」や、大学での模擬授業を行うという。教育実習先の確保は十分ではなく、特に副専攻の実習を断られるケースもあったが、附属学校園で受け入れるなどの調整をしてきた。

明星大学では、必要最低限の教育実習期間が確保できず、さらに代替となる学習支援活動への参加なども難しい場合に、大学の授業で代替する方針だ。その場合は1月に授業が行われる。ほとんどの実習校で受け入れを予定しているが、通信教育課程では首都圏以外の実習校から受け入れを断られるケースもあり、出身校などで実習をする学生が2週間前には地元に戻り、外出を控えるよう指示されたこともあるという。

通信教育課程の教育実習担当者は「新型コロナウイルスのため教育実習の実施ができない学生に対し、小学校、中学校の教育実習であれば120時間分の演習授業を代替措置として行う。この演習授業の受講により、教育実習を体験することができなかった学生の体験的学修経験を強化する」と回答。その上で「ただし、演習授業を行う上で、コンテンツ作成やその内容が課題となっている。また、通信課程においては働く社会人学生が多く、個人の都合や事情を考慮に入れる必要がある。そのため120時間の演習授業の実施方法に課題を感じている」と頭を悩ませている。

「バーチャル教育実習」で学校現場を体感
信州大学のバーチャルオンライン実習(子供視点の授業映像)

そんな中で、秋以降も学校での実習を見送り、代替措置を講じて教育実習を実施することにした信州大学教育学部では、大学の教員らが附属学校園に依頼し、「バーチャル教育実習」の試みを始めた。大学にある特殊なカメラ機材を小中学校の教室にセッティングし、教師と子供それぞれの視点から授業を撮影。その動画を編集して、観察実習を体感できるようにしたのだ。

バーチャル教育実習を提案した林寛平准教授は「信州大学では教職大学院の実務家教員と附属学校園の教員の間で定期的な交流があったので、すぐにやってみることができた。ただ、初めての試みで映像編集は膨大な作業量になり、夏休みも突貫工事で進めなければならなかった」と制作時の苦労を振り返る。もともとICT教育の研究者やVR教材を研究していた大学院生が在籍していたことで、技術的な問題に見通しが立っていたことも大きかった。

このバーチャル教育実習では、小学校の生活科や中学校の体育の授業を「観察」することができ、学生は動画を見ながら気付いたことをメモしたり、その授業の指導案を作成したりする課題に取り組んだ。

実際に視聴した4年生からは「生活科で小屋を作る授業をしていたが、子供たちが有機的に関わって取り組んでいたのが印象に残った。それは、小屋をなぜ作るのかがはっきりしているからだと思う。先生はやりなさいと言っていない。先生がどうやってクラスの中で合意形成をしていたのか、その過程を見たかった」「いつも実習生は教室の後ろか横から授業を観察するしかなかった。先生目線で子供たちの動きがよく見えた。先生の視点で前から見るとそんなところも見えるのかと、一体先生はどこに目がついているのかと思っていたが、それがよく分かった」などの感想が寄せられた。

林准教授は教師や子供目線のカメラ映像では酔ってしまう学生がいることや、ノイズをどこまで除去できるかなど、技術的な課題は残っているとした上で、「バーチャル教育実習では、子供の視点や教師の視点で授業を見ることができ、リアルな教育実習とは違った気付きが得られる。一方で、やはりリアルでの実習のような当事者意識は生まれにくく、従来の教育実習の全部を代替できるわけではない」と指摘。多くの大学で今後も従来通りの教育実習ができなくなる可能性を想定し、「教員養成を担う大学が協力してこうした教材を作成し、多くの大学や教員志望者がいつでも利用できるようにしておくのも一案だ」と提案する。

学校のニーズと教員志望者の学びをマッチング
TESTに参加し、学校現場の支援からさまざまなことを学んでいる西脇さん(右)

「この布の余った部分、今日持ってきていない子にあげてもいい?」

埼玉県戸田市立戸田第一小学校(髙橋博美校長、児童981人)で行われた6年生の家庭科の授業。ミシンを使って裁縫をする子供たちの傍らに、学習院大学3年生の西脇春花さんの姿があった。

子供たちの様子を見ながら、作業が止まっている子供や困っている子を見つけるとさりげなく近付き、「大丈夫?」「どんなものを作ろうとしているの?」などと声を掛ける。この日の授業では、巻き尺で遊んでいる子供をさりげなく注意したり、ポケットなどに使う布を忘れていた子供を見つけ、大きめの布を持ってきていた子供に、少し分けてくれるよう頼んだりしていた。

2学期制の戸田市では、後期が始まる10月12日から、市内で学童保育を運営する「merry attic」(メリーアティック)や学校支援事業を行う「lightful」(ライトフル)と連携し、次世代型教員養成プログラム「TEST」を開始した。小学校2校と中学校1校で教員志望の学生をインターンとして複数受け入れ、授業や校務の支援をしてもらうプロジェクトで、西脇さんも参加者の一人だ。

TESTには、新型コロナウイルスへの対応で人手が足りない学校と、学校現場で学びたい教員志望者、それぞれのニーズを結び付ける狙いがある。

小学校の教員になるのが目標で、TESTで初めて学校現場に入ったという西脇さんは「先生が子供と接する様子を見ながら、いいところを盗んですぐに実践するようにしている。大学の授業だけでは見えなかったこともあるし、大学の授業で学んだことを生かせると感じたこともある。子供たちと年齢が近いので、先生とは違った関わり方もできれば」と意気込みを語る。

TESTの開始に当たり、ライトフルが夏に希望者を募集したところ、全国各地から45人もの応募があった。その後、審査を経て8人の教員志望者が選ばれ、各校に派遣されることになった。受け入れに当たっては、戸田市教委が9月から週に1回、事前研修会を開くなどして、学生に戸田市の教育改革や学校現場の状況を知ってもらう機会も設けられた。

参加者は週に1日程度、各学校でインターンをするだけでなく、週末には同じ学校に通う参加者や遠方で参加できなかった希望者と一緒に、オンライン上でリフレクションも行う。

このリフレクションについて西脇さんは「体験したことを言語化できるのが大きい。そのときに感じた疑問を共有したり、自分だったらどうするかを議論したりするうちに、自分だけでは思い付かないようなアドバイスももらうことができ、『次に学校に行ったらやってみよう』と実践を積み重ねることになる」と成果を語る。

髙橋校長は「TESTに参加した学生は意識が高いと感じている。事前の打ち合わせでも、テストの丸付けや資料の印刷など、自分ができる学校の仕事を具体的に示したリストを用意していたので驚いた。学生のうちから、すでに教師の仕事を意識できているということだ」と感心する。

ライトフルの田中あゆみ代表は「コロナ禍の学生に、新たな学びの機会を提供することができたと思っている。まずは戸田市で、教育委員会や学校から『来てもらって助かった』と言ってもらえるような活動にし、今後は賛同者を集めつつ、持続可能な取り組みにしていきたい」と意気込む。

学校現場や大学にさまざまな制約が課せられる中、ポストコロナ時代の教員養成の在り方を巡って、各地で模索が始まっている。

(藤井孝良)


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