【北欧の教育最前線】教師がタトゥーは「あり」?

全身タトゥーの男性が幼稚園児の指導を禁止されたというフランスのニュースが、ネット上をにぎわせている。スウェーデンでも近年、大小さまざまなタトゥーを目にすることが増えたが、教師のタトゥーには賛否両論がある。どんな議論が行われているのだろうか。

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学校での服装

スウェーデンのほとんどの学校には制服がないが、服装に関しては、さまざまなものが議論になってきた。短いスカート、ジャージ、帽子が授業の場に適切かどうか――などだ。その他にも、ウエストポーチ、ピアス、髪のカラーリングなど、外見はいつも論争の種だ。そして最近議論になっているのが、教員のタトゥー問題である。特に、校長がタトゥーを入れることの是非だ。

学校のリーダーであり、子供たちに手本を示す立場である校長に対して、「タトゥーはそぐわない」「入れるとしても小さいものに限る」といった意見は根強く存在する。身体に傷をつけるために嫌悪感を持つ人もいるし、不気味な印象を持つ人もいる。

特別支援教育の研究者であるスウェーデン大学教員も、タトゥーを入れていた

一方で、寛容な意見も広がってきている。タトゥーがあるからといって仕事の能力が落ちるわけではないし、子供たちと話すきっかけになることもある。また、タトゥーで人を評価することもない。

スウェーデン教員組合は今年の最優秀校長にセミラ・ヴィクストローム氏を選んだ。彼女はタトゥーを支持する校長の一人であり、彼女自身も多くのタトゥーを入れている。仕事中はブラウスで隠れるが、袖口からはマンダラやアラビア語で描かれた子供の名前がのぞく。彼女は、タトゥーはさまつな問題にすぎないと言う。「校長にとって重要な能力は何か?というような、もっと重要な議論がある」と。

腕全体にタトゥーをし、それを隠さない校長や副校長もいる。彼女らは「保護者も生徒も否定的には捉えない」と話す。「校長らしく見えない」と言われたことはあるが、それは否定的な文脈ではなかったという。

ただし、タトゥーの模様については配慮が必要だ。左腕一面にタトゥーを入れた副校長は「人種差別や政治的信条を訴える模様は認められない」と言う。大きさも違えば内容も違うタトゥーを、ひとくくりにして議論することはできないのだ。

工芸作品としてのタトゥー

タトゥーは、その歴史的背景や、身体に彫ることから嫌悪感を持たれもするが、彫刻として見れば、その彫りの技術や模様の美しさが目を引く芸術作品とも言える。

スウェーデン工芸評議会は2018年に、タトゥー彫り師に「職人」や「マイスター」の資格を出すことを認めた。こうした資格は、家具職人、パン職人、金銀細工師、フローリストなど約80種類の職業で出されており、その一つにタトゥー彫り師が入ることになったのだ。

タトゥー彫り師の職人資格を得るには、約3年の見習い訓練かそれに相当する経験の上に、スウェーデン認定タトゥー彫り師会が実施する筆記と実技の試験に合格しなければならない。試験では、タトゥーの施術に使用する器具や色彩などに関する知識のほか、衛生や感染症リスク、歴史、倫理など、多岐にわたる知識が求められる。実技試験では、4時間かけてタトゥーを彫る準備から仕上げまでが試される。

職業資格は、タトゥーが社会的に認定されたことの大きな証しと言える。スウェーデンではこの10~20年間にタトゥーを入れる人が急増した。同時に、粗雑な施術、粗悪な塗料の使用、不完全な説明やアフターケア、不十分な衛生管理などが問題になった。独学のみで「タトゥー彫り師」を名乗る人は数知れず、家で自分自身にタトゥーを彫り、感染症にかかった若者も少なくなかった。

こうした状況は、顧客の健康被害につながるだけでなく、タトゥーの評判を落とし、適切な訓練を受けている彫り師の仕事を減らすと警告された。資格として認められることで、正統な彫り師の仕事が日の目を見ることになった。

高校選択ガイドにも、将来の職業の一つとしてタトゥー彫り師が掲載されるようになった。タトゥー彫り師になるには、高校の芸術学科か工芸学科に進学し、デザイン、絵画、色彩などを学ぶことが推奨されている。また、多くのタトゥー彫り師が個人で開業するので起業の知識があるとよいことや、顧客の好みを聞き取りつつ創造性を働かせる職業である、と説明されている。

タトゥーが市民権を得てきている背景には、それを楽しむ人と、作り出す人の両面からのアプローチがあった。

あなたは教師のタトゥーを、どう思いますか?

(本所恵=ほんじょ・めぐみ。金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)


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