【山本崇雄×石黒和己】子供と一緒にルールを作る

「教えない授業」で知られる新渡戸文化中学校の山本崇雄教諭と、公立高校を舞台に学校改革を進めるNPO法人青春基地の石黒和己代表。両氏は一斉休校下の混乱をどう乗り越え、そこから何を得たのだろうか。オンライン授業、危機管理、組織体制、ルールの在り方…。オンライン公開対談の第2回では、ウィズコロナの学校教育においてキーワードになるであろう事柄について議論を深めるとともに、これからの教師に求められる役割について語り合ってもらった。(全3回)

この特集の一覧

休校中に生まれた学ぶ意欲
――コロナ禍の学校現場の混乱をどう見ていましたか。

山本 学校にとどまらず、社会全体の課題が浮き彫りとなりましたね。

一斉休校で子供たちは学校に来られなくなり、膨大な空白の時間が生まれました。その時にさまざまな欲求が生まれたでしょう。「友達に会いたい」や「学校に行きたい」、そしてまさかの「勉強したい」まで。こうした現象は、子供たちが本来、学びたいという欲求を持っている証拠のように思えます。

その中で教師はオンライン授業をはじめ、「学びを止めない」というスローガンの下、さまざまな工夫を試みてきました。ただ、問題は「学びを止めない」の主語が誰なのかです。実は多くの場合、主語が先生で、「教えるのを止めたくない」だったのではないでしょうか。オンライン授業に限らず、子供たちが主語の「学びを止めない」になっていたのか、振り返ってみてください。

一斉休校の時にできなかったことを思い返すと、一斉講義型の授業、全員が参加する学校行事、児童生徒の評価などが挙げられます。しかし、よく考えると、これらは全て先生が主語として行われてきたものです。いま考えなければいけないのは、先生が主語になっている学校のいろいろな取り組みを、いかに児童生徒を主語に変えていくかではないでしょうか。子供たちが自ら学べる授業や学び方を選択できる授業、自分たちでつくり上げる行事、そして自分自身でメタ認知して自己評価できる仕組み。これからの学校では、こういったものが求められているように思います。

石黒 私はコロナの影響で新たな問題が発生したというよりも、これまで危惧されてきた問題が実感を伴って表面化したと捉えています。また、学校だけでなく社会全体が、一斉に同じ方向へ向かっていくスタイルから、個を尊重して大切にする考え方にシフトチェンジしていると感じます。学校現場は本当に混乱していて、難しい課題が山積している状況にありますが、もう変わるしかない時に来ていると共有できたことは大きいのではないでしょうか。

2学期が始まって、私も久しぶりに学校に出向き、生徒と関わる中で気付いたことがあります。この休校期間、多くの中高生がYouTube漬けになっているのではないかと危惧する声もありましたが、久しぶりに会った彼らは、一人一人の個がとても強くなっているように感じました。

以前の生徒たちは「空気を読む」ことを優先しがちでしたが、自分の意見や思いを当たり前に言える環境が出来上がっているように見えたのです。休校期間中、子供たち一人一人が自分自身について自己探究する、ある種の余白の時間を持てたことは、良い側面もあったのだと気付かされました。

多くの中高生が憧れるYouTuberの面白いところは、マスメディアで見られる芸能人に比べても、圧倒的に価値観や生活スタイルが多種多様なところです。大人からはただ動画を見ているだけに見えるかもしれませんが、彼らは多様なYouTuberから「どの価値観を尊敬できるか」「どこが魅力的か」と、それぞれのロールモデルを見つけているようにも思えました。

TikTokで出会えた新たな世界
山本崇雄教諭

山本 私の学校でも1学期に、自分の好きなものを探究する授業をオンラインで行いました。この授業があまりにもスムーズにいったのは、おそらく生徒たちが部活や習い事から解放されて、「好きってなんだろう」と、じっくりと向き合う時間ができたからだと思います。

今、YouTubeが話題に上がりましたが、どうしてYouTubeやゲームを1日中してはだめなのでしょうか。読書を1日中している子は、褒められますよね。自分で考えて責任を持って選択するのであれば、それでいいと私は思います。石黒さんの言うようにそこから多様な価値観を学べますし、動画のつくり方やアウトプットの仕方なども学べます。

私の受け持つ生徒にも、動画が大好きでよく見ている子がいます。先日、彼女が「団地やアパートで孤立している高齢者のために、一部屋借りてお店を開きたい」と発言しました。「それどこで思ったの?」と聞いてみると、TikTokで似た事例を見て興味を持ったらしいのです。

私たち大人はYouTubeやTikTokのコアなユーザーではない場合、イメージが先行しがちですが、いろいろな情報にランダムに触れる中で、やはり心に響くものがあるようです。

ただその情報に触れた時、興味を持つために必要なのは、「自分は何をしたいのか」と、自らに問い掛け続けていることです。その問い掛けの中に、「誰かを笑顔にしたい」「ありがとうと言われたらうれしい」といった利他的な観点が入り、彼女はその発想に結び付いたのだと思います。だから全員が同じ道を通る必要はなく、いろいろな手段で自分のやりたいことを見つけ、主体的になっていければいいのではないでしょうか。

――今のお二人の話を聞いていて、読者の方から「対面型の授業がやりづらい中で、対話的な活動はどうすればいいか」という相談が寄せられています。
石黒和己代表

石黒 例えば、この前実施した都立高校の授業では、タブレット端末もない状況でしたので、モバイルルーターだけを持ち込み、生徒たちのiPhoneを使ってZoomで対話しました。生徒たちはZoomをつなぎたくて仕方がないようで、授業が終わった後も「次はいつ来るの?」と大盛り上がりでした。もちろん、リアルな場での対話に比べたら劣る部分はありますが、やればできなくはないと分かりました。機器のトラブルがあっても生徒同士で解決したり、「今日は通信の不具合で声が届かないから、チャットで頑張ります」と宣言して授業に参加する生徒もいたり、この授業をより良くしようと教師と生徒が一丸となって取り組む空気が自然と生まれました。

山本 うちも同じです。オンラインに壁を感じているのは教師だけで、子供たちはどんどん順応していきます。オンラインの場合、同調圧力や教師からのプレッシャーから解き放たれて、子供たちが「本当の対話」をできるようになるとすら思えます。

例えばZoomの「ブレークアウトルーム」機能を使うと、教師は個別の部屋まで見に行くことができないので、何を話しているか分かりません。でも、それでいいと思うんです。教師のコントロールから離れて、目標に向かって自分をコントロールする術を身に付ける機会だと捉えています。だからオンラインでの対話は、可能だと思います。

石黒 Zoomなどオンライン会議システムの良いところは、全員が同じサイズで画面に映るところです。教室だと教師対生徒という形になってしまいますが、オンラインだと先生の枠だけが大きいわけではないですよね。このフラットさも、一部の生徒たちは「発言しやすい」と感じているようです。

子供がいかに自分で決められるか
――次は組織論的な質問です。「現状、全てのことが通達待ちで進められている状況にあります。危機管理や変革の限界を感じています。もう少し教員一人一人の知恵を集められる組織体制にするためには、どうすればよいでしょうか」といった質問です。

山本 質問者の方がおっしゃることはよく分かります。学校だけでなく、コロナ禍以降、世の中全体が依存的になっているように思います。例えば、都知事が何を言うか、国がどんな政策を打ち出すかなど、誰かの言うことに左右されすぎていて、他人任せになっている風潮を感じます。誰かの指示を待って、それに従っていくというスタイルの学校教育の下で多くの大人は育ってきたわけですから、指示待ちの大人が多いのは教育の責任でもあると思います。

子供を自律的にするためには、まず大人が自律的になる必要があります。だから、とにかく学校では対話をしながら、自律的に物事を選択する機会をどんどん持つしかありません。その際は授業のやり方など「手段」に固執するのではなく、この学校は何を目指すのか、子供たちにどうなってほしいのかという「最上位の目的」を忘れずに、対話を続けることがポイントだと思います。

石黒 私は公立学校に伺うことが多いのですが、対話をしながら柔軟にルールを決めていくことの難しさを感じています。何かを始めるときは「なぜそれをするのか」をみんなで確かめて共有するのが大切ですが、その対話の場をつくるだけで途方もなく時間や労力がいることに驚きます。「対話に意味があるのか」と懐疑的な先生もいらっしゃるので、3カ月くらいかけてさまざまな方面から調整して、やっと3時間の対話の場をセッティングできたなんてこともあります。一方で、それくらい時間をかけてでも、対話の場を設けることには価値があると思っています。

山本先生は学校の中の当たり前を見直して、対話を重ねて、みんなでルールを作ってこられましたよね。今の状態になるまでに、どのような苦労や過程があったのでしょうか。

山本 まず、私は今の学校教育を否定しているわけではなく、新たな選択肢を提案しているだけです。だから今、各学校でそれぞれの先生が実践していることには、もっと自己肯定感を持ってほしいと思います。目的によって教育の内容は変えるべきで、私の場合、子供たちに自律的な学習者になってほしいという目標の下で教育実践をやっているだけにすぎません。

それを踏まえ、ルールに関しては今の学校でも変革の途中です。例えば、休校中のオンライン授業についても、常に生徒たちにアンケートを取り続けてきました。それをもとに、「通勤電車が怖いという声がこれだけあるから、オンライン授業を続けよう」とか、「授業時間を短くするのであれば、みんなが自律して学習するにはどうすればいいか」とかいった形で対話が始まります。

また、ルールは全てそういった対話によって作られていくことも、子供たちに実感させなければいけません。そのためには「大人たちは君たちの声を聞いているよ」と行動で示しながら、「ルールは要らないわけではなく、必要なときに自分たちで作るもの」と伝え、子供たちの考えを尊重しながら進めています。

石黒 先生自身もいかに自分で決められるか、自分で自由にできるかが重要で、そのための余白が増えることがとても大切ですよね。人はそもそもユニークな存在ですし、それぞれ考えることも違い、10人いれば10個、20個のアイデアが生まれます。

決められたことだけで進めるのではなく、意見を共有したり、「じゃあ、やってみよう」と協力したり、そんな寛容な空気をつくれるかがかぎでしょうね。

(企画・構成 板井海奈)

【プロフィール】

山本崇雄(やまもと・たかお) 新渡戸文化中学校統括校長補佐。都立両国高校附属中、都立武蔵高校附属中で自律型学習者を育てる「教えない授業」を実践。新しい教育の在り方を提案する「未来教育デザインConfeito」の設立にも携わる。著書に『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』(日経BP)など多数。

石黒和己(いしぐろ・わこ) 1994年、愛知県生まれ。2015年、学部時代に青春基地を創設。中高時代にシュタイナー教育という教科書も試験もない自由な教育を受けたことを原点に、公教育の学校改革を通じて、未来の学校づくりに取り組んでいる。17年に慶應義塾大学総合政策学部卒業、20年に東京大学教育研究科修士号取得。


この特集の一覧
関連