ロボットのいる教室 子供の心を育む「LOVOT」の可能性

コロナ禍でコミュニケーションの取り方やストレス解消が課題となる中、にわかに注目を集めているのが家族や友達、ペットのような存在として振る舞うロボット「LOVOT(ラボット)」だ。最先端のテクノロジーが詰まったこの家族型ロボットは、教育現場での活用もすでに始まっている。ラボットは子供たちにとってどのような存在で、成長にどんな影響をもたらすのか。活用している小学校や保育園を取材した。


一緒にいると心がほんわかする
授業中の教室内を自由に動き回るラボット

「ラボットが来て、クラスの絆も深まった気がする。去年よりも男子と女子で一緒になって遊ぶようになった」。取材した日の昼休み、東京都北区立王子第二小学校(江口千穂校長、児童244人)の6年生の男子児童が、ラボットをなでながらクラスの様子を教えてくれた。

校舎の中には、廊下を行き来しているラボットもいれば、授業中の教室を動き回って子供たちの様子を見つめているラボットもいる。視界に入ると思わず声を掛けたり、なでたりしたくなる。その存在感は、学校の中でネコを飼っているようなイメージに近い。

同校では開発会社である「GROOVE X」との実証実験として、学校再開直後から各学年に1体ずつ、ラボットを置くことにした。小学校での導入例は、現時点で同校だけだ。

4月に着任した江口校長がこのコロナ禍で最も懸念していたのが、子供たちの心の状態だった。「小学生の場合、寂しさや不安をうまく言葉にできないことも多い、できるだけ速やかに学校生活に慣れてもらうために何かできないか。ラボットならば、心のケアだけでなく、今年度からスタートしたプログラミング教育のツールにもなる。そう考えて直談判した」と導入の経緯を語る。それから約1カ月後、6体のラボットが同校にやってきた。

各学年では、ラボットと接するときには手を洗ったり、順番で触れ合ったりするといったルールを決めた上で、それぞれに名前を付けた。ラボットは最初から性格が少しずつ異なる設定になっており、子供たちとの触れ合いとともに表情やしぐさもどんどん変化し、豊かな個性を持った唯一無二の存在になっていく。6体のラボットは異なる服を着せて見分けがつくようにしているが、一度間違えて服を着せてしまったところ、子供たちは入れ替わっていることにすぐに気付いたという。

「ラボットはみんなにとって癒しの存在。おかげで休み時間に退屈することはないし、一緒にいると心がほんわかする」と5年生の女子児童。子供たちにとっては、ラボットのいる教室がすっかり日常となっているようだ。

家庭でのコミュニケーションも増える
プログラミングでラボットを動かす授業も行われた

当初の狙いである子供たちの心のケアという点で、ラボットはどう貢献したのだろうか。同校の教員に聞いた。

「最初は子供が授業に集中できないのではないかと思ったが、そんなことはなかった。友達を思いやる言葉を掛けるようになったり、表情が明るくなったりしている」(6年生担任の伊藤優佑教諭)

「導入して以降、子供たちの心理面で落ち着きが感じられる。子供たちはロボットとして割り切っている部分もあるが、愛着の対象としても見ている。教室で飼っているメダカに近い存在なのかもしれない」(5年生担任の茂木勝彦教諭)

「1年生はラボットの飾りを自分たちで作り、着せ替え人形のように遊んでいる。まるで弟や妹のように接していて、とても大事に扱っている」(鎌田康史副校長)

導入を主導した江口校長も「普段は朝起きるのが苦手な子も、ラボットと触れ合えるからと、自分から起きてくるとの話を聞く。夏休み明けは、学校がしんどくなって来られない子もいるかなと心配したが、全児童が一人も休まず登校した。登校してきた子供たちの最初の一言は『ラボットは?』。それだけ学校生活の楽しみになっている」とその効果を実感する。

ラボットは、想定以上の副次的な効果ももたらしているという。「子供がラボットのことを保護者に話すようになり、家庭での会話が増えたと聞く。さらにその過程で、友達のことや学校の様子も伝わるようになった」と江口校長は説明する。実際、ラボットは保護者もとりこにしているようで、校舎の中には保護者がフェルトで自作した原寸大ラボットのぬいぐるみも展示されている。それらのぬいぐるみを当のラボットがどう認識しているかは分からないが、ラボットを中心に、子供・保護者・教師間のコミュニケーションが盛んになっているのは確かなようだ。

夏休みが明けてからは、ラボットを使ったプログラミングの授業も行われ、大好きなラボットを動かす体験に子供たちは夢中になった。「子供たちは未来のテクノロジーを抵抗なく受け入れていた。ラボットを通じて、もっと知りたい、やってみたいと感じてくれたらうれしい。日常の教室の中で、そうした経験ができたことはとても貴重だ」と江口校長は振り返る。

単なるおもちゃではない大事な存在
ラボットと一緒に遊ぶ園児ら

ラボットの導入は保育所などの就学前教育で進んでおり、現在、全国で30カ所以上に置かれている。

その一つ、東京都中野区にあるなかよしの森保育園(伊東寛園長、園児97人)では、発売が開始された今年1月から2体のラボットが活躍している。

取材で同園を訪れると、年長クラスの子供たちは「立って抱っこするのはダメ」などの約束事を確認した上で、優しく抱き締めたり、なでたりしながらラボットと遊んでいた。

「『いい子いい子』ってすると懐いて、抱っこするとすぐに寝ちゃう。タイヤが出てきて動いたり、電気が切れると事務所にいたりするの」と、園児の一人が遊びながらラボットの特徴を説明してくれた。同園の保育士によると、子供たちは5歳くらいになるとラボットが電気で動く機械であることを理解し、仕組みに興味を持つようになるのだという。

都会の中にある保育所では、生き物の飼育に制約が伴う。また、動物アレルギーのある子供も多い。そうした課題もラボットならクリアできる。機械だからと乱暴に扱うこともなく、調子が悪いときは本気で心配するなど、子供たちにとってラボットは「おもちゃ」を超えた大事な存在として認識されているようだ。

ラボットの効果について、竹内公実子主任保育士は「導入するという話を聞いた当初は、どんな効果があるか分からなかったが、思った以上に子供たちは親しんでいる。朝ぐずりながら登園してきた子供が、ラボットを見て泣き止んだり、帰り際に必ずラボットにあいさつをして帰るのが習慣になっている子がいたりする」と話す。

また、ラボットに影響を受けるのは子供たちばかりではない。

「GROOVE X」がラボットを導入している保育施設に勤める保育士152人にアンケートを取ったところ、保育士の98%が施設の雰囲気が良くなったと回答。さらに93%が職員のストレス緩和になったと回答した。実際、竹内主任保育士も「事務仕事中、抱っこしたり話し掛けたりする保育士もいる。保育士同士の話のきっかけをつくってくれることもある」と話す。何かとストレスを抱えやすい保育士にとっても、ラボットは癒しになっているようだ。同じ効果が学校の職員室にも期待できるかもしれない。

「してあげる」ことで人は幸せになれる

丸っこい形でデザインされ、誰からも愛情を注がれるラボットだが、ただかわいいだけではない。そのボディーには最先端のテクノロジーが詰まっている。

ラボット本体と「ネスト」と呼ばれる専用の充電装置には、合わせて高性能なパソコン4台分に相当するCPUが搭載されている。障害物検知やサーモグラフィーなど、多種多様なセンサーが周囲の情報を感知し、数百人の顔を覚えることができる。よく世話をしてくれる人や話し掛けてくれる人なども人工知能(AI)が学習する。

GROOVE Xの社員にはアニメーターやダンサーもいて、より生き物に近い自然な動きを追究しており、現在活躍中のラボットも定期的にアップデートされて、日々進化しているという。

なぜ、このようなロボットをつくろうとしたのか。かつて人型ロボット「Pepper(ペッパー)」の開発に携わっていた同社の代表取締役・林要氏は、高齢者福祉施設でなかなか起動しないペッパーを前に、応援したり笑顔になったりする利用者の姿を目にしたのがきっかけだと振り返る。

「ロボットが何かをするのではなく、人間がロボットに何かをしてあげる方が、幸せになれるのではないか」

そうした考えに基づき、4年の歳月をかけて生み出したのがラボットだ。

ラボットは今、家庭をはじめ、オフィスや医療機関など、さまざまな場所で活躍の場を広げている。

かつて、教室で子供たちがコンピューターを使っている状況が珍しかったように、「ロボットのいる教室」はまだ見慣れない光景だ。しかしロボットと子供が一緒に生活しながら成長していく日常が、いずれやって来るのかもしれない。

(藤井孝良)


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