【カタリバ 今村久美氏】これからの不登校支援

どんな環境に生まれ育っても、未来をつくり出す意欲と創造性を育めるように――。そんな思いの下、認定NPO法人カタリバは「教育を学校の外側から新しくすること」を目指して、2001年に活動をスタートさせた。東日本大震災以降はさまざまな災害拠点でも教育支援活動を行ってきたが、今回のコロナ禍においても、いち早くオンライン上に子供たちの居場所をつくり、寄り添ってきた。今村久美代表理事へのインタビュー第1回は、コロナ禍における学校と教員の役割や存在意義、これからの不登校支援などについて聞いた(全3回)。

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災害時と同じことがコロナ禍でも起こる
――東日本大震災以降、カタリバでは多くの被災地で教育支援活動に取り組んできました。今回のコロナ禍においては、最初にどんなことを考えましたか。

6月からはコロナ禍で苦しむ生活困窮世帯の子供たちと飲食店を応援する「つながるカタリバごはん」もスタート

これまでカタリバが被災地での教育支援活動を続けてきた中で気になった子というのは、家庭の力が弱い子です。

例えば、親が仕事でとても忙しく、子育てに手が回っていないケース。もしくは、親が子育てや教育に関心のないケース。そういった家庭の子ほど、災害などが起きたときに心のやり場を家庭の中に置けなくなります。

その結果、学校に行っていればつながらないような人とつながってしまったり、望まない妊娠が増えたりします。あるいは生活リズムが崩れ、不登校になりやすくなるなど、その影響は後々まで残ってしまうのです。

非常時は子供たちの心がとても乱れやすく、今まで以上に注意して見守る必要があります。しかし、保護者にとっては元の生活を取り戻すのに精いっぱいで、子供を見る余力がなくなってしまう。そのため、家庭の中だけでこうした問題を抱えることは、とても難しいのです。

今回、かつての災害時と同じようなことがコロナ禍でも起きてしまうのではないか、家庭の力が弱い子が大変なことになるのではないかと、一斉休校が発表された日に思いました。

子供たちの抱えている課題が見えづらい
――そこからどのように、子供たちの居場所をつくっていったのですか。

一斉休校後、すぐにスタートさせた「カタリバオンライン」

これまでの災害時と違って、コロナ禍では子供たちにリアルに会うことができません。それならば、オンライン上に子供たちが楽しいと思える場所、毎朝楽しみに起きたいと思えるような場所をつくるしかないと考え、「カタリバオンライン」を立ち上げました。

一斉休校の要請が出された2月27日の夜から作業を始めて、同時にボランティアを募り、3月2日にはサイトをオープンすることができました。

具体的な活動としては、Zoomを使った双方向型のさまざまなプログラムやクラブ活動を行ってきました。まずは朝のホームルームで「今日はどんな風に過ごす?」「どのプログラムに参加しようか?」と、子供たちとコミュニケーションを取ることから始めます。

子供たちは、「宿題消化学院」「タブレット型AI学習」「フィリピン人と英語を学ぼう」など、1日約20コマ用意されたプログラムから自分の好きなクラスを選んで参加します。

プログラムを運営するのは、キャストと呼ばれるボランティアスタッフです。海外から参加するキャストもいるなど、本当に多彩で面白い大人たちがオンライン上で子供たちに伴走してくれました。

夕方からはダンスや音楽、漫画といったクラブ活動もあり、「お昼休み」など、子供たちがフリーでゆっくりおしゃべりできる時間も設けていました。

学校再開後の現在も、平日は午後4時から午後7時、土日は午前10時から午後5時半までオープンし、活動を続けています。

――これまでの災害とコロナ禍の違いは感じていますか。

今回のコロナ禍は、養育能力に課題がある家庭だけでなく、どんな家庭にとっても大変な出来事だったと思います。

中教審に提出した資料でも公開していますが、5月にカタリバオンラインを利用している保護者にアンケートをとったところ、回答者の5分の1くらいの家庭が「コロナ禍で家庭が疲弊している」「コロナ禍の影響で収入が減り、経済的な不安がある」など、経済的・精神的な困難さを抱えていました。

自然災害の時は、保健師やボランティアなど、いろいろな人が直接、子供たちの顔色を見ることができます。しかし、コロナ禍ではそういったことが全くできなかったので、子供たちの抱えている課題が見えづらい状況でした。

今回は私たちも、オンラインでしか子供たちとつながれず、結果として自分からつながってきた子たちだけに関わる形になりました。そうして救えた子供たちもいた一方で、これまでの災害時と同じようなことができたかというと、そうとは言い切れないもどかしさも感じています。

履修主義だったからこそ果たせてきた学校の福祉機能
――カタリバでは不登校支援にも取り組まれていますが、今回のコロナ禍では不登校だった子供たちが「オンラインの朝の会には参加できた」というような事例が、全国各地で報告されています。

「コロナ禍で学びの選択肢が増えたことは前向きに捉えている」と話す今村氏

遠隔教育を経験したことで、「学校に行かなくてもいい」「オンラインで学ぶ方がいい」という判断をした子供や家庭も出てきています。

ただ、私は「オンラインで学ぶこと」を、「学校にいて学んでいること」とカウントしていくべきかについては、慎重に議論を重ねていく必要があると思っています。

なぜなら、今回のコロナ禍で改めて感じたことですが、日本の学校は履修主義だということで果たせてきた福祉機能が大いにあるからです。

例えば、担任の先生が授業の中で子供たちの発言や声の大きさの変化に気付いたり、「この子の宿題のプリントがすごくタバコ臭いのはどうしてだろう?」と、視覚や聴覚だけでなく、嗅覚なども通じてささいな子供の変化に気付いたりする。そこで先生がちょっと声を掛けたことで子供たちが救われたというような話は、これまでにもたくさんあったと思うんです。

そう考えると、オンラインを活用するなどして、「一定の学びに到達しているから学校に来なくても良い」というような判断をしてしまうことに、難しさを感じます。

今、全国で16万人の児童生徒が不登校だとされており、今の「学校」が肌に合わない子がいるのは事実です。また、16万人のうち2万人しかフリースクールに行けていないのだとしたら、その他の子供たちは取り残されたままです。

そんな中、今回のコロナ禍でオンライン授業という学びの選択肢が増えたこと自体は、望ましいことだと捉えています。今後は、さまざまな「学校」と呼べる教育機会の選択肢を、きちんと認証していくべきだとも思います。

その上で注意しなければいけないのは、「選べる人だけの選択肢が増えていく構造になっていないか」ということです。大切なのは、どんな人でも多様な選択肢にアクセスできる状況をつくっていくことです。

オンラインで学ぶことが不登校の子供たちの一つの選択肢になるのであれば、「どのようにオンライン上で子供たちをサポートする体制をつくっていくのか」ということに、私たちが向き合っていかなければならないタイミングに来ているのだと思います。

(松井聡美)

【プロフィール】

今村久美(いまむら・くみ) 1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。認定NPO法人カタリバ代表理事。中央教育審議会委員、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会文化・教育委員会メンバー。教育再生実行会議専門調査会ワーキング・グループ有識者。2001年、大学在学中に任意団体カタリバを創設。06年にNPO法人化。09年には日本を代表する社会起業家として米『TIME』誌の表紙を飾る。カタリバでは、高校生の探究心に火をともす「出張授業カタリ場」や、探究の経験を全国の高校生に届ける「全国高校生マイプロジェクト」、不登校の子供たちに安心と自信を与える島根県雲南市の「おんせんキャンパス」、地域課題解決型プロジェクト学習の充実をサポートする「ふたば未来学園高校支援」、経済的事情を抱える家庭にPCとWi-Fiを無償貸与し学習支援を行う「キッカケプログラム」など、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。


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