【カタリバ 今村久美氏】コロナ禍だからこそできたこと

認定NPO法人カタリバがコロナ禍に立ち上げたオンライン上の子供の居場所「カタリバオンライン」では、「オンラインでかくれんぼしよう!」「オンラインで曲を作ろう!」などと、子供たちから次々とアイデアが生まれていた。今村久美代表理事は、学びをアジャイル開発(ニーズに迅速に対応させながら開発する手法)的に実験できる今の環境を、もっと生かしていくべきだと考えている。インタビューの2回目は、「コロナ禍だからこそできたこと」に目を向け、これからの学校と社会のつながり方について語ってもらった。(全3回)

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岩手・山形・熊本の3校で探究活動
――岩手県大槌町では2017年度から町教育委員会にも参画するなど、カタリバが深く関わって活動している拠点が多くあります。学校や地域との関係を築く上でのポイントは、どのようなことでしょうか。
コロナ禍においても岩手県大槌町では探究学習(マイプロジェクト)の個別伴走を行った

学校との関わりで言うと、大切なのは校長先生にカリキュラムマネジメントの視点を持っていただくことです。外から入ってくる人たちにもある程度、権限を許してくれる校長先生でないと、良いイノベーションは生まれません。きちんと適したポジショニングをしていただいてこそ、お互いがwin-winの関係性になれると思います。

例えば、大槌町にある岩手県立大槌高校には、カタリバのスタッフがカリキュラム開発などの専門家として入り、現場での試行錯誤を繰り返しながらイノベーションを生み出しています。

大槌高校には、国公立の大学に進学したい子もいれば、漁師になりたい子もいます。偏差値において30くらいの幅がある学校です。

そんな多様な子供たちに、どんな学びを届けるべきか――。今、小さな実験として、大槌高校と山形県立小国高校、熊本県立小国高校の3校をオンラインでつなげて、一緒に探究型学習を始めています。

大槌高校の生徒だけでは人数が足りずにできなかった探究テーマも、他の2校の生徒と合同でなら可能になり、グループワークもできます。スタッフや先生たちの役割分担もできるので、より個別最適化された探究活動の支援ができるのではないかと期待しています。

学びのリソース調達が世界中に広がった
――その事例のように、コロナ禍だからこそ進められたこと、できたことはたくさんありましたか。
3月からキッカケプログラム『奨学PC』として、パソコン&Wi-Fiの無償貸与とオンライン支援も行っている

そうですね、コロナ禍だからこそ、いろいろな実験をさせていただけたと思っています。

長期休校中の「カタリバオンライン」では、毎朝9時半になると多いときには100人ほどの子供たちが集まってきていました。

そこで「じゃあオンラインでクラブ活動をやってみようか?」とか、「かくれんぼしてみようよ!」とか、「一緒に曲を作ろう」とか、本当にいろいろなことを子供たちが考え、それをアジャイル開発的に実験できたのです。

これまでだったら何かやる際には、企画書を書いて年間計画を作り、このタイミングでこの人をゲストに呼んで……とやっていたことが、今回は「こんなときだからこそ協力するよ!」と、例えば能楽師の野村萬斎さんやEXILEのUSAさんが自分のスタジオから参加して、子供たちにプログラムを提供してくれました。

前日に話していたことを、次の日にできるようなこともたくさんあったし、世界中にいるさまざまな人たちを先生にすることもできました。コロナだったからこそのスピード感があり、子供たちの学びのリソース調達を世界中に広げられるようになるなど、オンラインの可能性を大いに感じることができました。

先生こそ友達を増やそう
――公立学校では、オンライン授業をやりたくてもできなかった教師もたくさんいました。
「先生こそ外の友達を増やすべき。それで子供の学びの質も変わる」と話す

でも、中にはトライできた先生や学校もありましたよね。私の実感としては、以前よりもかなり先生たちの世界が開けてきているように感じます。

例えば、今「ルールメイカー育成プロジェクト」に、経産省の「未来の教室」実証事業として取り組んでいます。学校における慣習や校則など、「変えられない」と思い疑ってこなかった題材について、生徒と先生、保護者が対話しながら考えるプロジェクトです。

これを幾つかの学校と連携してやっていく中で、先生たちとの打ち合わせがZoomで、できるようになったんです。

そうすると、こちら側としてもいろいろな人をアサインできるし、先生も限られた時間で打ち合わせができます。さまざまな意味で打ち合わせのコストが削減できたことで、先生の時間の使い方の変化にもつながるでしょうし、学校の外に関心を向けやすくなるでしょう。

――学校と社会がもっとつながっていくために、教員はどのように変わっていくべきでしょうか。

オンラインでつなげば、国内だけでなく世界中の人たちと会えるようになりました。こんな時代になったからこそ、先生が学校の外に出て歩き、友達をたくさんつくるといいと思うんです。

社会においてイノベーションを起こしている人たちは、自分のネットワークを生かしてアイデアを創出しています。学校の先生も、学校や教育委員会でのつながりではなく、外とのつながりを増やせば増やすほど引き出しが増え、子供たちの学びの質が変わると思います。

(松井聡美)

【プロフィール】

今村久美(いまむら・くみ) 1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。認定NPO法人カタリバ代表理事。中央教育審議会委員、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会文化・教育委員会メンバー。教育再生実行会議専門調査会ワーキング・グループ有識者。2001年、大学在学中に任意団体カタリバを創設。06年にNPO法人化。09年には日本を代表する社会起業家として米『TIME』誌の表紙を飾る。カタリバでは、高校生の探究心に火をともす「出張授業カタリ場」や、探究の経験を全国の高校生に届ける「全国高校生マイプロジェクト」、不登校の子供たちに安心と自信を与える島根県雲南市の「おんせんキャンパス」、地域課題解決型プロジェクト学習の充実をサポートする「ふたば未来学園高校支援」、経済的事情を抱える家庭にPCとWi-Fiを無償貸与し学習支援を行う「キッカケプログラム」など、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。


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