ウィズコロナのキャリア教育 新たなやり方、これからの視点

新型コロナウイルスの感染拡大は、これまでの仕事のやり方を変える転機にもなった。職場体験学習をはじめ、さまざまな形で行われてきたキャリア教育も、オンラインの活用などにより新たな可能性が広がっている。ウィズコロナ時代をどう生きるか――。答えのない問いと向き合う子供たちをサポートすべく、企業などと連携しながら、新しいキャリア教育の在り方を模索する現場の取り組みを追った。


憧れの職業に就いた人とつながる

制服に身を包んだパイロットや医者、サッカー選手、アナウンサー…。小中学生にとって憧れの職業に就く人たちが、オンライン上の画面にズラリと並ぶ。

社会人の話を熱心に聞く児童ら(Blueberry提供)

キャリア教育プログラムを提供する「Blueberry」では、コロナ禍を契機に、さまざまなプロフェッショナルと子供たちをオンラインでつなげ、仕事をテーマに交流する取り組みを始めた。この日は、東京都渋谷区立臨川小学校(小林繁校長、児童342人)の6年生が取り組んでいる「ドリカムプロジェクト」の一環で、さまざまな職業人が子供たちの質問に答える授業が企画されていた。

授業が始まる直前、画面が映し出されると、子供たちはモニター越しに現れた憧れの存在に早くも興味津々。お互いに手を振り合い、互いがリラックスできたところで授業開始のチャイムが鳴った。

まずは大人から簡単な自己紹介。子供たちに親しみを持ってもらおうと、大人は全員、ニックネームで呼び合った。それが済むと、「待ってました」とばかりに子供たちが代わる代わるマイクの前に座り、矢継ぎ早に質問を投げ掛ける。「どうして医者になろうと思ったのですか?」「アナウンサーの仕事のやりがいは?」「サッカーをしていて、普段の生活で困ることは?」などの質問に、職業人は一つ一つ丁寧に答えていく。

元Jリーガーの「タツロウさん」は世界各国でプレーした経験に触れ、「大人になってからたくさんの友達ができた。チームが変わると新しい監督やチームメイトとコミュニケーションをする必要があるし、国が違えば文化や言葉も違う」と、サッカーを通じてさまざまな出会いや学びがあることを伝えた。

また、元アナウンサーの「ちとさん」は、子供の頃は話すのが苦手だったことを打ち明け、「伝える前に、キーワードを箇条書きにして練習するといいよ。話すことの内容をしっかり理解していないと、どうしても棒読みになって、視聴者に伝わらない」などとアドバイスしていた。

子供たちはそうしたメッセージを熱心にメモしながら、時に追加質問をするなどして、濃密な時間を過ごした。「ドリカムプロジェクト」では、この職業インタビューを導入として、世の中にどんな職業があるのかを調べて発表する活動を展開する予定だという。

授業後、今回初めてプログラムに参加した愛知県の医師「みさこさん」は「医者の仕事は分かりにくいので、どうやったら伝わるかを意識した。子供たちの質問に答えるうちに、医者として初心に戻れた気がする」と振り返っていた。

Blueberryの代表を務める柴田淳太郎さんは「子供たちの憧れの職業に就いている人が、近隣にいるとは限らない。しかし、オンラインならば遠隔地でもつながることができるし、大人にとっても子供たちの教育に関わることは、やりがいにつながるはずだ。今後は、さらにいろんな職業の人を巻き込んでいきたい」と意気込む。

6年1組担任の中山開教諭は「憧れの職業に就いている人にインタビューできるとあって、子供たちも事前にインターネットや本で調べ、質問する内容を熱心に練っていた。学校だけの力では、ここまで幅広い職業の人を呼ぶのは難しい」と、外部との連携のメリットを強調する。

最先端のIT企業の働き方に触れる
オンライン企業訪問に参加する中学生ら(ミクシィ提供)

「自由な仕事環境だと、本当に効率は上がるんですか?」

IT企業のミクシィでは、これまで渋谷のオフィスで実施していた中高生向けの企業訪問プログラムを、オンラインに切り替えて実施している。同社では例年、修学旅行で東京を訪れる学校などを中心に年間50校以上の受け入れを行っているが、コロナ禍による修学旅行の中止や授業時間数の確保などの事情により、今年度は申し込みが少ないという。

そんな中、神戸市立玉津中学校(大谷真一校長、生徒796人)では、希望する生徒を対象に同社へのオンライン企業訪問を実施。人気のスマホゲームなどを数多く手掛ける同社の仕事を教えてもらえるとあって、参加希望が殺到したという。

生徒らはミクシィが現在提供している、さまざまなサービスやオフィスの様子について一通りレクチャーを受けた後、事前に与えられていた「一つのサービスが世の中に提供されるまでに、どんな職種の人が関わっているか」という課題について予想。その後の社員による解説で、プログラマーやデザイナーだけでなく、市場調査や品質管理、知的財産権の運用など、IT企業の中で働く人にはさまざまな仕事があることを学んだ。

質疑応答では「1体のキャラクターをつくるのに、どれくらい時間がかかるのか」「ゲーム内通貨の値段はどうやって決めているのか」など、具体的なサービスに関する質問が数多く出る一方で、「残業時間はどれくらいか」「1日の仕事のスケジュールはどうなっているのか」など、働き方に関する質問も相次いだ。

企業訪問プログラムを担当する同社広報グループの町井香織さんは「働き方についての質問がこれほど出ることは今までなかった。コロナの影響で、保護者がテレワークをする光景を目にする機会が増えたからかもしれない。IT企業のエンジニアなどの仕事では、東京にオフィスがあっても、地方や自宅で仕事ができる。そういう働き方が一般的になることを、子供たちも敏感に感じ取っているのでは」と分析する。

また、同校の上田晃平教諭は「参加したのが進路選択を目前に控えた中学3年生ということもあり、テレビドラマで見るような最先端のIT企業の自由な働き方に触れさせたかった。企業訪問は、オンラインであれば時間や場所にこだわることなく何回でもできるので、こういう機会を今後も増やしていければ」と手応えを感じていた。

同社では、去年から企業訪問を5つのプログラムから学校側が選べるようにしているが、このうちオンラインで対応しているのは1つだけだという。町井さんは「オンラインの方が生徒も緊張せず、東京に来なくても参加できるメリットはある。ただ、アプリのインストールが必要なプログラミングのコード入力体験プログラムなどは、オンラインでの実施にはハードルが高い。GIGAスクール構想で1人1台環境が整えば、これらの課題もクリアされ、できることがさらに増えるかもしれない」と期待を寄せる。

高校生のキャリア形成を支援
オンライン合同企業説明会で、高校生に向けて会社概要を説明する採用担当者(Zoomで取材)

今まさにコロナ禍で揺れ動いているのが、就職を目指す高校生たちだ。高校生の就職活動を支援するジンジブでは今年、全国各地で対面での合同企業説明会を開催するほかに、オンラインでも生徒たちが複数の企業から説明を聞ける機会を設けている。

取材した日に東海地区で行われたオンライン合同説明会では、約40人の生徒が参加し、4社から会社の概要や初任給、働き方などの説明を受けていた。今年初めて高卒採用を実施する企業の中には、代表者が直接プレゼンしたり、就職後のキャリアパスや寮など、高校生が気になる情報をアピールしたりするところもあった。

合同説明会に参加した通信制高校のKTCおおぞら高等学院岐阜キャンパス3年生の米本晴哉さんは「高卒採用をしている会社が幅広くあることを実感できた。接客や営業など、人と接する仕事に就きたいと考えているが、コロナの影響で採用状況や雇用形態が変わるかもしれない」と話す。一方でオンラインでの開催については、「やはり、リアルの方が質問しやすい。もっと働いている人から直接話を聞くなど、職場の雰囲気が分かるような機会がほしい」と本音をのぞかせる。

同校三重四日市キャンパス長の書上(かきあげ)智教諭は「オンラインで参加できることもあり、本校からは1、2年生も参加している。就職活動を始める一歩前の段階で、いいステップになればと思っている」とオンラインのメリットを実感する。さらに、コロナ禍でオンラインの機会が増えたことについて、「生徒もパソコンなどのITスキルがないと、仕事の面で厳しくなるのではないかと危機感を持つようになっている。さまざまな情報がネット上で入手できるようになるので、正しい情報をキャッチし、判断する力が必要だ。教員も時代の変化に合わせてITのスキルアップをしなければいけない」と、教員と生徒の情報リテラシーを高めていく必要性を指摘する

キャリア教育においては、職場体験やインターンシップもオンラインでの試みが始まっている。

オンラインで行われた高校生インターンシップ(ユニリーバ・ジャパン提供)

ヘアケアやボディウォッシュなどの家庭用品メーカーのユニリーバ・ジャパンでは、中高生向けに毎年実施している「ユニリーバ高校生インターンシップ」を、今年はオンラインで開催することとした。

このインターンシップでは、特に優れた取り組みをした高校生が大学生になり、同社の新卒採用を受けようと思ったときに、2次選考までが1回だけ免除される「U-PASS」が発行される。しかし、これは優秀な人材の「青田買い」ではなく、同社の理念であるサスティナブルな未来の実現に向けた「ユニリーバ・フューチャー・リーダーズ・スクール」の一環として位置付けているという。若い世代に環境や社会、経済の課題を自分事として考えてもらったり、リーダーシップやキャリアについて学んでもらったりすることで、暮らしや世界を変えていける力を育てることが真の狙いだ。

例年は会場のキャパシティーの関係から参加者を80人に絞り込んでいたが、今年はオンラインにしたことで、約250人の希望者全員を受け入れることができた。また、これまでは遠方の参加者の負担を考慮して開催は1日だけだったが、自宅から参加できるオンラインでは、集中力の持続性も考慮して2日間に延ばした。プログラムの中では、コロナ禍でどんなことを感じているかを参加者同士が話し合う場も設けられた。以前も全国各地から応募があったものの、今年は海外からも参加申し込みがあったという。

同社で新卒採用を担当し、高校生インターンシップの運営も行っているヒューマンリソースHRスペシャリストの秋山真梨奈さんは「最初はオンラインでやることに不安があったが、チャット上では活発な書き込みがあり、少人数グループでの意見交換も活発に行われるなど、インタラクティブなやり取りができた。『コロナ禍で社員がどんな働き方をしているか』といった質問も多数寄せられた。参加者はコロナで将来が不安というよりも、前向きに自身のキャリアを考えているようだった」と振り返る。

さらに、インターンシップ終了後、同社でフェイスブックのコミュニティーをつくり、任意で参加できるようにしたところ、感想や質問、いま自分が取り組んでいることなどを自発的に発信し、活発な意見交換が生まれたことも大きな成果だったという。

秋山さんは「コミュニティーによる自発的な横のつながりは、以前からできたらいいなと思っていた。来年以降も発展していけるように応援していきたい」と、参加者の今後の活動にも期待を寄せる。

(藤井孝良)


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