【北欧の教育最前線】皇太子妃も取り組むデンマークのいじめ対策

幸福度の高いデンマークにも、いじめ問題は存在する。件数は減少傾向にあるが、SNS上でのいじめなど、問題は複雑化している。デンマークにおけるいじめの動向と対策を報告する。

この連載の一覧

オンライン上でのいじめが深刻化

「いじめフリー」プログラムで回ってきたぬいぐるみ

デンマークで「最近いじめを受けた」と回答した11歳の割合は、1998年に30%程度だったが、2014年には11%、18年には5%と、劇的に減っている。

一方で、デジタルデバイスを利用したいじめは増えている。9年生(14~15歳)では男子の約10%、女子の約20%が、過去1年間にデジタルデバイス上のいじめを経験した。女子の間ではSNSでのトラブルが友達関係に影響したり、学校での無視に発展したりすることが多いという。

匿名での嫌がらせは特に深刻だ。匿名であるが故に過激化するのが特徴で、誰が嫌がらせをしているのか分からないため、被害者に強い不安感を引き起こす。被害に遭った13歳の男子は「匿名で、殺してやるって連絡が来たりする。反応をしたら、もっとひどくなる。向こうはこっちの反応を楽しんでいるんだ。最低だ」と語る。15歳の女子生徒は「もう誰を信じていいか分からない。いつも、この人は信頼できる人なのかということばかり考えてしまう」と言う。

このようなデジタルデバイスを利用した悪質な嫌がらせは、子供にとって大きな精神的負担で、授業への集中力や登校意欲を著しく低下させ、体調不良も引き起こしていると言われる。

子供たちは予防策を求めている

デンマーク教育環境センターDCUMの調査によれば、こうしたいじめ問題に対して、多くの子供たちは、トラブルへの対処だけではなく予防策を求めている。

例えば、「自分たちがSNSを使い始める年齢になる前から、デジタル機器の適切な使い方やコミュニケーションマナーを教えてほしい」という意見や、「デジタルデバイスを使ったいじめに遭ったことのある大人の体験談を聞きたい 」という意見も多い。

小さいころから親がSNSの使い方などを指導している家庭では、子供が適切な付き合い方を身に付けている傾向がある。DCUMは早期のデジタルリテラシー教育の必要性を訴え、家庭でも学校でも早い段階で子供にデジタルデバイスの使い方やマナーを指導するように推奨している。

メアリー皇太子妃による活動

他にも、いじめ相談所、子供電話、女の子のための悩み相談所、年齢別相談所、自殺関連の悩み相談所、ネット上でのトラブルに対するITサポート など、デンマークにはさまざまな子供向けの相談機関があり、電話・メール・チャット・対面など多様な方法で相談できる。2017年には、行政のいじめ対応に不満がある場合の相談窓口として、子供と保護者向けのオンブズマンも導入された。

「いじめフリー」プログラムの一環で、子供たちと走る皇太子妃(メアリー財団提供)

特に注目すべき大きな動きは、国民的に人気があるメアリー皇太子妃による積極的ないじめ防止活動だろう。

「メアリー財団」を運営するメアリー皇太子妃は、取り組むべき3大プロジェクトの1つにいじめ防止活動を掲げている。この一環として、専門団体と協力し、保育園や幼稚園に「いじめフリー」プログラムの導入を行ってきた。

同プログラムでは、「良い友達」としてぬいぐるみが大きな役割を果たす。ぬいぐるみを使って他の子や自分を慰めたり、みんなで順番にぬいぐるみの世話をしたり、ぬいぐるみが体験したことを朝の会で報告したりする。

筆者の自宅にも幼稚園からぬいぐるみが回ってきた。子供は一緒に遊び、世話をして、後日その様子を筆者がレポートにまとめた。それを幼稚園の先生が朝の会で読み上げてくれたそうだ。プログラムに参加した子は、他の子への共感力が高まったと報告されている。

メアリー財団は19年から、小中学校でのいじめ防止強化プロジェクトにも取り組んでいる。「安心と連帯」「平等」「生徒の声」「いじめ防止」を軸にしたプロジェクトで、各学校に合わせた取り組みを目指している。まずは生徒の声を拾い上げ、学級委員と教員間で課題を共有し、最適なアクションプランを作成して取り組む。さらに、その結果をもとに、再び課題共有やアクションプランの作成といったプロセスを繰り返す。

同プロジェクトはいくつかの学校で試験的に実施された後、21年には希望する全ての小中学校で実施される。多くの学校の参加が予想され、その効果が期待されている。

(針貝有佳=はりかい・ゆか。デンマーク在住ライター・翻訳家・リサーチャー。
佐藤裕紀=さとう・ひろき。新潟医療福祉大学健康科学部講師。専門は比較教育学、生涯学習論)


関連
この連載の一覧

あなたへのお薦め

 
特集