【カタリバ今村久美氏】学校の先生に教育を丸投げしない

子供たちをリアルな社会の出来事に触れさせたり、外へ連れ出したりしたいという思いはずっと変わらない――。そう語る認定NPO法人カタリバの今村久美代表理事。日本中の10代の意欲と創造性を引き出せる社会を目指し、大学時代に立ち上げた組織は、もうすぐ20年を迎える。インタビューの最終回は、これまでの活動を振り返りながら、子供たちを取り巻く環境の変化や、子供たちを誘い出すための仕掛けについて聞いた。(全3回)

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スクールカーストを24時間持ち歩く子供たち
――カタリバを立ち上げてから20年がたとうとしていますが、時代とともに学校や子供たちへの関わり方は変わってきましたか。

探究の経験を全国の高校生に届ける探究型学習プログラム「マイプロジェクト」

創業した2001年から2010年までは「学校に社会を運ぶ」を、2011年から今年までは「学校を社会に開き、10代の日常に伴走する」をテーマに活動を続けてきました。

最初の10年は、今よりもずっと学校が社会と隔離されていて、先生以外の人が授業の中に入ることはほとんどありませんでした。それを変えたくて、「出張授業カタリ場」など、いろんな人を学校に連れていくような活動を中心にやっていました。

その後、カタリバの活動は、2011年の東日本大震災を機に大きく変化します。震災があったから夢を諦めたと、子供たちに思ってほしくない。イベント的なものよりも、もっと子供たちの日常を支える居場所をつくろうと考えました。そして、「被災地の放課後学校 コラボ・スクール」を立ち上げるなど、地域連携型の取り組みや高校・行政支援の実験的な活動がスタートしました。

さらに今年からは、コロナ禍で大きな社会的変化が起きたことを受け、「日本の教育のシステムチェンジに寄与する」をテーマに活動を続けています。

20年続けてきたことで、いろいろな拠点もでき、スタッフも増え、組織基盤も整いました。今後はその基盤をもっと生かしていこうとしています。私たちが直接関わっている子供たちへの支援は、その子を救うことのみならず、その子を通じて世の中の同じような状況にある子供たちに貢献する機会と捉え、取り組んでいきたいと考えています。

――子供たちを取り巻く環境は、どのように変化してきたと見ていますか。

例えば、私が中高生の頃は、授業中に手紙を書いて回して、友達と「恋バナ」をしたり、いろいろな情報交換をしたりしていました。それがいつしかプロフになり、LINEをはじめとするSNSが使われるようになっていきました。

そうした世界に大人は介入できませんし、学校の先生が子供たちの中で何が起きているのかに気付くのは非常に難しいでしょう。

そもそも、今の子供たちは難易度の高いツールを与えられています。SNSで常につながっているような状況の中、そこで交わされていることにずっと注意を払わなければいけない。昔は学校の中で完結していたはずのスクールカーストを、24時間持ち歩いているようなものです。

こうした状況は、子供たちが内にこもっていく原因にもなっていて、子供の自殺率にも影響を及ぼしていると思います。

子供たちを誘い出す仕掛け
――カタリバには多彩なプロジェクトや拠点がありますが、さまざまな境遇や立場の子供たちに活動を届けるため、どのような工夫をされていますか。

高校生と将来について考える授業「カタリ場」

とにかく、いろんなチャネルから子供たちに関わっていくことです。

例えば、「いつでもなんでも挑戦できる中高生の秘密基地」というコンセプトで、都内で運営している「文京区青少年プラザb-lab」という施設があります。

いわゆる児童館の一種ですが、ただ来場者を待っているだけでなく、文京区内の中学校で出張授業「出張b-lab」を行っています。そうしてキャリア教育を学校に届けながら、「こんなスタッフがいるよ」と子供たちに伝え、b-labに誘い出すような取り組みをしています。

また、困難を抱える子供たちの心の安全基地として生まれた放課後施設は、経済的事情を抱えるなど家庭環境に課題を持つ子供に来てもらう場所です。

カタリバだけではそうした家庭に直接アプローチできないため、行政の福祉チームと連携して放課後施設の情報を届け、子供たちが外に出るきっかけづくりをしています。

また、コロナ禍以降は生活困窮世帯など、さまざまな困難を背負った家庭の子供たちを対象に、パソコンやWi-Fiの無償貸与をしているほか、オンラインの学習支援をする「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクトなどに新たに取り組んでいます。

このプロジェクトでは、ひとり親家庭などネット上の困っている親や子供たちを直接見つけては、「こういうプログラムがありますよ」と誘い出しのメッセージをひたすら届けてきました。

いろいろな人が学校に参画できる仕組みを
――今後、カタリバが取り組もうとしていることについて教えてください。

「教育に関わる人を増やしていきたい」と今村氏

SNSが子供たちの主なコミュニケーションツールとなっていく中で、匿名性を好む子供たちが増えてきました。顔も見せず、名前もニックネームで参加できる方がよいという子供が数多くいるという前提に立ち、今後は特にオンラインツールの開発を進めていく予定です。

ただ、手段は変わっても、子供たちをリアルな社会の出来事に触れさせたい、外へ連れ出したいという思いは、ずっと変わっていません。

スクールカーストや友達や先生とのトラブルは、子供たちからしたら地球規模の悩みかもしれません。でも、現実社会には「そんなものはどうでもいい」と気付けるようないろんな課題があるし、面白いこともたくさんあります。

そして、そのことを教えてくれる人は、別に学校の先生でなくてもいいわけです。大学生のお兄ちゃん、お姉ちゃんが「楽しいよ」と誘うことで、届くようなこともたくさんあると思うんです。

とにかく子供たちを「同質性の高い世界」から「自分の枠組みの外」に誘い出すことが大事なのです。すごく良いプログラムを作っても、子供に届かなければ意味がありません。素晴らしいプログラムでも、いわゆる「意識高い系」の一部の子供にしか届いていないようではもったいない。

カタリバの役割は、自分に自信が持てない子供や、日々ただボンヤリと過ごしているような若者を、ちょっとでも外の世界に引っ張り出すことです。その上で、その子が「何を語っても大丈夫だ」と思える安心安全な場所を提供することです。

そして、子供たちが主体性を持って「私はこれをやる!」と行動を起こし、自走して学ぶようになったら、それを側面から支援していきます。

一番重要なことは、学校がもっと社会に開いて、子供たちを社会とつなぐことです。そのためには、いろんな人が学校に参画できる仕組みが必要です。

私はこれからも「教育行為に関わる人」自体を増やしていきたい。もっとたくさんの人が教育に関わることで、社会が活性化するかもしれませんし、子供たちにとっても、それが自分たちの未来を思い描くきっかけになるのではないでしょうか。

教育を学校の先生だけの役割にも、学校の先生に丸投げするような状況にも、したくありません。良い意味での「ゆるい関わり」も含めて、共に子供たちを支えていくような教育の在り方を、みんなで一緒に模索していきたいと思っています。

(松井聡美)

【プロフィール】

今村久美(いまむら・くみ) 1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。認定NPO法人カタリバ代表理事。中央教育審議会委員、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会文化・教育委員会メンバー。教育再生実行会議専門調査会ワーキング・グループ有識者。2001年、大学在学中に任意団体カタリバを創設。06年にNPO法人化。09年には日本を代表する社会起業家として米『TIME』誌の表紙を飾る。カタリバでは、高校生の探究心に火をともす「出張授業カタリ場」や、探究の経験を全国の高校生に届ける「全国高校生マイプロジェクト」、不登校の子供たちに安心と自信を与える島根県雲南市の「おんせんキャンパス」、地域課題解決型プロジェクト学習の充実をサポートする「ふたば未来学園高校支援」、経済的事情を抱える家庭にPCとWi-Fiを無償貸与し学習支援を行う「キッカケプログラム」など、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。


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