“複業先生”が教員の多忙化を救う 外部人材活用とワークシェア

学校が抱える教員不足や多忙化の問題は根深く、一朝一夕に解決できるものではない。文科省は外部人材の活用による「社会に開かれた教育課程」の実現や、学校の働き方改革を推進しているが、実情はどうなのか。今年6月からスタートした、外部人材をオンライン紹介する「複業先生」の活用事例から、その可能性について考えていく。


学校と民間人材をつなぐプラットフォーム

教育系スタートアップ企業のLX DESIGNが開始したサービス「複業先生」は、人手が欲しい学校と、学校の仕事に興味がある人をつなぐプラットフォームだ。

最近ではキャリア教育をはじめ、外部人材を登用したい学校が増えているが、学校側が特定分野の最先端で働く人を探すのは難しいという課題があった。そこで、学校と経験豊富な民間人材をマッチングするサービスをスタートさせた。

スタート直後から大手企業に勤める人やスポーツ選手、フリーランス人材など、ICTや英語など各分野で強みを持つ多様な人材が複業先生として登録しており、現在の登録者数は300人ほどに上る。

学校側は、学年やテーマ、期間、要望など募集案件情報を登録することで、応募してきた複業先生にアプローチできる。もしくはデータベースから条件に合う複業先生を検索し、学校側からオファーを出すことも可能で、初期費用や掲載料は無料。

これまで起業家教育やキャリア教育の講師、高校でのIT/プログラミング教育を通じたPBLの推進・伴走、英語科の非常勤講師など、スポット的なものから中長期的なものまで、さまざまな募集案件が学校から寄せられている。

公立校での教員経験もある同社の金谷智代表は「民間で活躍する人材が学校に入りやすい仕組みを作り、誰もが関わりたい形で教育に関われるようにしていきたい。そうすることで、学校のオープン化とアップデートを図っていけるのではないか」と、サービスを立ち上げた背景と狙いについて話した。

教育格差、機会格差を解消

これまで地元富山県を中心にICT活用・オンライン教育支援などを行ってきた金谷代表は「地方では出会える人のバラエティーも少ないので、学校の中に多様性を確保することが難しい」と、地方の実情について指摘。学校に関わる人を増やすことが、子供たちの可能性を広げ、地方と都市部の教育格差、機会格差を埋めることにもつながると考えている。

下田東中で行われているプロジェクト型探究学習の様子。手前は複業先生の藤井さん

例えば11月からは静岡県下田市と連携し、同市立下田東中学校のプロジェクト型探究学習・キャリア教育に複業先生が活用されている。

同校では中学1年生30人が、総合的な学習の時間の授業で「下田を変えてみない?-中学生の君たちだからできること-」をテーマに探究学習に取り組んでいる。

11月5日に行われた授業には、長野県塩尻市役所企画政策部地方創生推進課に勤務する山田崇さんがオンラインで、下田を好きになる人を増やす会社「しもズブ」を設立した藤井瑛里奈さんが現地で、複業先生として登壇。「下田市を変えていくために、どのように発信したらよいのか」について、講義やグループワークを行った。

山田さんは、塩尻市役所で地方創生のためのユニークな施策を次々と成功させ、今や同市は地方創生のロールモデルとして周知されている。オフィシャルでもプライベートでも情報を発信することで周りを巻き込んできたが、情報を発信する際には「例えば、『東京の人に届けたい』ではなく、東京のどういう人に届けたいのかを決めたほうがいい」とアドバイスを送った。

11月5日に行われた下田東中での複業先生の授業の様子。生徒も活発に質問していた

また、他県出身ながら下田市のワーケーション施設を活用するうちに、同市の魅力に取りつかれたという藤井さんは、10月に会社を立ち上げたばかり。これから下田を好きになってもらう人を増やすために、SNSメディアを作って発信していくという。「自分が発信したいことを発信するだけでなく、誰に向けて発信したいかを明確にしておくことが重要」と生徒に語り掛けていた。

こうして生徒たちは「発信」に関して具体的なイメージを持った上で、その後も複業先生に自分たちが考えている「下田の発信したいこと」「発信の方法」について相談しながら、グループワークを行った。

今後はオンラインで複業先生のメンタリングを受けながら授業は進み、来年1月にはそれぞれの生徒が好きな形で探究学習の成果を発信する予定となっている。

外部人材の中長期的な関わりの可能性

「現場での実感や、複業先生への募集案件からも、キャリア教育以外にも民間人材・外部人材に関わってもらいたいという学校側の需要の高まりを感じる」と金谷代表は指摘する。

学校には教員免許がなくてもできる仕事がたくさんあり、例えばICT推進など、中長期的に外部人材が学校現場に入ることでワークシェアができれば、学校の働き方改革にも寄与できると考えている。

富山県の私立高岡向陵高校に7月から9月末までの約3カ月間、現地に住みながら週3回のペースで複業先生として関わった中薗優輝さんのケースは、その一つ。

高岡向陵高校で3カ月間、複業先生として関わった中薗さん(上)とLX DESIGNの金谷代表

中薗さんは、もともと大手個別指導学習塾で校長を務めるなど、子供の教育に携わる仕事に就いてきたが、「一度は学校現場で働いてみたい」との思いで複業先生に登録した。

主に同校で中薗さんがやっていたことは、▽ICT教育の拡充▽うまく機能していなかった「学び直しプログラム」の再構築▽他校と連携した活動の企画・運営。これに加えて、ダンス経験を生かして今年度から創設されたダンス部の顧問としても活動していた。

「学校の中に入って、本当の意味で先生の多忙さを実感した。仕事が多岐にわたっているため、先生たちは新しいことに取り組みたくても、なかなか難しい現状がある。自分のように少しだけ手伝えるような人が入るだけでも、多様な教育活動を展開することが可能になるのでは」と振り返る。

例えば、同校と同県立滑川高校がコラボレーションした授業やイベントも企画して取り組んできたが、固定化した関係性が課題としてある地方において、「他校と連携していくことには大きな価値があった」と手応えを感じている。「県内に留まらず、いろんな自治体と連携して取り組めば、今までなかった教育の新しい価値を作り出せるのではないか」と強調した。

学校の関係人口を増やしていく

10月から中薗さんは教育系IT企業で勤務しているが、今後も複業先生を続けていく予定だ。複業先生の登録者からは、スポット的な関わりだけでなく、中長期的に学校や子供たちに関わりたいといった希望も増えているという。

ワークシェア以外にも、中長期的に外部人材が学校と関わることのメリットとして、中薗さんは「目の前の生徒に合わせたオーダーメイドの授業や提案ができるようになる」ことを挙げる。

金谷代表も「例えば、ICTツールについても、営業マンがきて『これいいですよ』と言われるのと、複業先生のような立場の人から『ここの生徒なら、このツールがいいと思います』と勧められるのとでは、大きく違う」と指摘する。

「複業先生のような外部人材を学校が活用していくことで、学校の関係人口は増えていく。そうすることで、学校に新しい発想や便利なツールといった選択肢が増え、もっと学校の先生の希望をかなえられるようになる」と力を込めた。

(松井聡美)


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