ピンチを改革のチャンスに コロナ禍で変わるPTA活動

コロナ禍は学校の在り方を問い直す契機にもなったが、これまでもたびたび改革が叫ばれてきたPTA活動も同様だ。家庭と学校の連携が一層重要となる中、保護者が負担を感じることなく、前向きに学校に関わる活動に変えようと模索する現場を取材した。

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PTA活動をダイエット

「いずれこの形は限界が来ると思った。変えるなら今しかない」

さいたま市南区にある市立大谷場東小学校(内山一幸校長、児童535人)でPTA会長をしている福戸美帆さんはそう語る。

同校PTAは今年、コロナ禍で従来の活動ができなくなったのをきっかけに、「大谷場東小学校PTA活動ダイエット企画」と題する大胆な見直しを行った。具体的には、ベルマークの回収や講演会を企画していた文化委員会、本部役員を選ぶ選考委員会、広報誌を発行していた広報委員会を廃止。さらに保護者の負担軽減につなげるため、さいたま市PTA協議会などからの退会も決めた。

これらの改革が実現できた背景には、もともと同校では「猫の手・親の手」活動と呼ばれる、保護者によるボランティアの取り組みが根付いていたことも大きい。「共働きをする保護者が増えて役員の負担が大きくなる一方で、ちょっと学校で人手がほしいときにボランティアを呼び掛けると、父親も参加してくれるようになってきた。それならば、ボランティアでやりたい人がやれるようにした方がいい」と福戸さん。広報誌を廃止した代わりに、PTAのホームページを充実させたことで、ボランティアの募集をはじめ、さまざまな情報発信をしているという。

その一方で、子供の集団登校を見守る地区委員会は残すことに決めた。通学中の交通事故は集団登校の方が確実に減らせることや、保護者の負担にならない範囲で、何らかの形で子供と学校に関わってもらう機会が必要と考えたためだ。

PTAの本部役員として4年目になる福戸さんは「以前からPTA活動を見直すべきだとは思っていたが、廃止までは考えなかった。時代に合った形に変えながら、保護者と先生がつながり、安心できるツールとしてアピールしていきたい」と話す。

アウトソーシング先をマッチング

11月から首都圏限定のβ版がスタートする予定の「PTA’S(ピータス)」のウェブサイト(さかせる提供)

PTA活動の保護者負担を減らす方法の一つとして、思い切って民間に外注する動きも出ている。だが、保護者や学校が外注先を探すのはひと手間だ。

そんな悩みを解決する新サービスを立ち上げようとしているのが、「さかせる」の増島佐和子代表だ。増島代表が11月から首都圏を中心に展開する予定の「PTA’S(ピータス)」は、印刷や警備、出張授業、IT導入支援、行事の撮影など、これまでPTA活動の一環で保護者らが人海戦術や数少ない「つて」を頼って何とかこなしてきた業務について、カテゴリー、地域別に対応可能な企業を検索できるマッチングサイトだ。

例えば、保護者や教員が交代で行っている学校も多い、運動会での誘導や警備。もしこの業務を警備会社に委託できれば、保護者も教員も、運動会の応援や指導に集中でき、制服を着た専門の警備員が巡回することで肝心の安全面も向上する。サービスを提供する企業側にとっても、PTAは窓口が分かりにくく、数年で役員が替わるなどしてアプローチが難しかったが、マッチングサイトを使えばその問題も解決する。

現在も子供が通う小学校のPTA副会長をしているという増島代表は「PTA活動に携わるようになって、あまりに非効率で保護者の負担が大きいことが分かった。特に、今では共働き家庭も多いのに参加するのは母親が中心。平日の昼間に有給休暇を取らないといけない上に、父親が参加しないのが当たり前というPTA活動のままでは、ネガティブな印象が払拭されず、保護者の参加意欲は上がらない」と危機感を覚えていたという。

ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大で、PTAも学校に集まって活動することが困難になっていた。このピンチをビジネスチャンスと捉え、PTA業務を支援するサービスの創業を決意。サイトでは企業の検索以外に、PTA活動に関するさまざまな疑問に答えるコーナーも設け、PTA活動に役立つ総合情報サイトにしていく予定だ。

「PTA活動を、就労の有無や父親・母親に関係なく、無理なく参加できる形にしたい。保護者が義務感ではなく、積極的に学校の活動に参加したいと思ってもらえるようにすることが目標だ」と増島代表。サービス開始を前に各地のPTAからの問い合わせも増えているといい、現在もサイトを充実させるべく、企業の開拓に奔走している。

本質に立ち返る、教職員とPTAによる合同学習会

本番開始まで1時間を切り、空き教室を活用した保護者控室では、10人ほどの保護者が慌ただしく準備をしていた。机には照明用のライトが置かれ、背後には学校名の入ったインタビューボード。さらには最新の高性能スピーカーまで置かれ、さながら撮影スタジオのようだ。

オンラインでも分かりやすく伝えようと、演習も交えて行われている教職員とPTAによる合同学習会

特別支援学校の都立光明学園(田村康二朗校長、児童生徒225人)では、9月から毎月1回のペースで、PTAと教職員による合同学習会をオンラインで配信する活動を始めた。同校の外部専門員で、筑波大学附属大塚特別支援学校校長を務める川間健之介同学教授が講師となり、保護者からの希望を踏まえ、「衣服の着脱」や「時間と時計」など、家庭でできる生活や学習に関する指導方法を1時間で解説。毎回、平均して30人程度の保護者が参加しているという。

この日のプログラムは川間教授による「文字と書字」の習得。「絵カード」と呼ばれる、絵に描かれた単語を構成する平仮名を認識させる教材を使い、どのような順番で文字を意識させればいいのかや、文字を書くために必要な線を引く運動のアドバイスなどの講義を受けた。それだけでなく、その場にいる保護者が子供役となって川間教授が実演する様子を、別の保護者が頭上からタブレット端末で撮影する演習も組み込まれていた。

どうしてこうした合同学習会を始めたのか。同校PTAの澤村愛会長はそのきっかけを「コロナによる臨時休校で、子供が学校に行くことがどれだけ大切かを痛感させられた。保護者と先生で同じ学びの方法を知り、学校と家庭で実践することが大切だと思って提案した」と振り返る。

提案を快諾した田村校長をはじめ、ICTに詳しい同校教員のサポートもあり、テレビ会議の利用経験もほとんどなかった保護者らも、今ではすっかり手慣れた様子で、急なトラブルにも臨機応変に対応できるようになった。

また、この日の学習会で初めて本格導入したスピーカーは、思い切ってPTAの予算で購入した。その理由を全国肢体不自由特別支援学校PTA連合会の会長でもある澤村会長は2点挙げる。

一つは「PTA活動は、学内の共生社会を実現するための手段だと考えているから。特に本校PTAの会員の半分は教職員なので、授業などで活用してもらい、学校教育に還元してもらいたい」ということ。もう一つの理由については「肢体不自由をはじめ、特別支援学校の子供たちは、GIGAスクール構想でパソコンが入った際、わずかな指先の動きで操作したり、視線で入出力を補ったりする専用の機器や、タブレット端末を支える器具などが必要になることも多い。どんな機器が効果的なのか、保護者もしっかり勉強して、エビデンスをつくっていかないと、充実していかない」と説明する。

合同学習会の動画は研修教材としても活用されることから、教員にとってもメリットが大きい。田村校長は「保護者と教員が教育について理解を深める。コロナ禍で保護者が学校に集まれない中で、子供の学びをもっと知りたいと思ってくれたからこそ、PTAの本質に立ち返る活動ができるようになった」と評価する。

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新型コロナウイルスによって問い直されるPTA活動。次回は、日本PTA全国協議会の清水敬介会長に、これからのPTA活動はどうあるべきなのかをインタビューする。

(藤井孝良)


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