【仁禮彩香氏】人生を切り拓く力をつける学校

起業家やアーティストとの対話や、起業家実践などの仕組みを学ぶ教育プログラムを小中高生に提供する「TimeLeap Academy(タイムリープアカデミー)」。現役の大学生である代表の仁禮(にれい)彩香氏は「生きることのワクワク感を感じられる教育を、子供たちに届けたい」と語る。そんな彼女が理想とする学校教育とは、どのようなものなのか。インタビュー第2回では、子供たちの「自己認識」や「自己表現」というキーワードからひも解いていく。(全3回)

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自己認識と自己表現できる新しい学校
――大学生になって立ち上げたタイムリープでは、小中高生に起業家教育など多様なプログラムを届けるオンラインスクールを運営されています。
オンラインを主軸に運営するタイムリープアカデミー

起業家教育は、それ自体を届けることが目的ではなく、あくまで手段の一つだと捉えています。アカデミーの学びを通して、子供たちが自分自身を知り、表現し、才能を発揮できる力を身に付けていくことが狙いです。

私自身、小中高校時代を学習者目線で振り返ると、日本の学校教育では、子供たちが自己認識や自己表現をする機会が圧倒的に少ないことに課題を感じていました。

「起業家を輩出するのが目的なの?」とよく聞かれるのですが、こちらも本来の目的ではありません。起業家は社会や自分自身の課題と向き合って、物やサービスを生み出し、社会にアウトプットしていきます。その過程で周囲からフィードバックを得ながら、「自分はこういう人間なのか」「社会とはこんな場所なのか」と、自身や社会のことを知っていきます。今の学校教育には、そうした経験や思考をする機会がありません。

アカデミーに通う生徒は、起業家的な経験や思考を重ねながら、実社会に価値を届けるアウトプットを目指して学びを深めます。その過程で自己認識や自己表現をして、自分の人生を切り拓(ひら)く力を身に付けてほしいと思います。

――大学生起業家が提供する起業家プログラムという切り口で、ネットやSNSで話題を呼んでいますね。

誤解を恐れずに言うと、教育は地味だし、成果もすぐには表れづらいものがあります。本質的に価値があるものはなかなか目に見えず、すぐに忘れてしまいがちです。「教育はとても重要だ」とみんな分かっているはずなのに、社会的に見ても十分に予算をかけてもらえず、後回しにされがちです。

そうしたことはタイムリープを立ち上げてから、常に感じています。だから提供する側も工夫していかなければなりません。実を言うと、設立当初は「自己認識を育む学校」と、本来の狙いに近い呼び方をしていました。でも、それだけだと世間の人たちは「自己認識って大事だよね」で終わってしまいます。

「起業家教育」を前面に打ち出したのは、良い教育を届けたい人に届けるための、一種の作戦です。「起業家実践を通して社会に価値を発揮していく学校」と言うと、何だか面白そうですよね。「小学5年生で起業?」「社長は大学生?」とキャッチ―に捉えてもらって間口を広げ、私たちの一番の狙いである自己認識や自己表現ができる教育の価値に触れてもらいたいんです。

人生を変える質問をする子供たち
――アカデミーでは、具体的にどのような学びを実践されていますか。
仁禮さんのもとには多様な子供たちが集う

まず、起業家や研究者、アーティストなど、いろいろな分野の最前線で活躍する人と、子供との接点をつくっています。授業にそのメンターを招き、どんな仕事をしているのか、社会の中でどんな役割を担っているのか、どんな生き方をしているのかなど、ご自身のマインドセットを含めて話をしてもらいます。また、一方的に話を聞くだけでなく、子供たちが彼らに質問をする時間も設けています。

ゲストを招く前には、子供たちの質問力を高めるための授業をしています。

質問する力はコミュニケーション力につながる、大切な能力の一つです。相手の話を聞いて、そこにあるものを捉えられないと質問は生まれませんし、自分が何を理解し、何を理解できていないかを把握することも必要です。

子供たちには「質問には人生を変える質問と、時間をむだにする質問の2種類しかないんだよ」と伝え、事前に相手のことをよく調べることの大切さを強調しています。ネットで検索して分かるようなことに時間を割くのではなく、相手の考えを深掘りして、本質に迫る質問を投げ掛けてほしいんです。

また、自分の中にたくさんある疑問の中でも、「自分たちや相手の人生を変えられるような、相手の新しい考えや今までアウトプットしてこなかった感情を引き出せるような質問を投げ掛けよう」とも伝えています。毎回、メンターを迎える授業の前に、そうしたワークをしているので、子供たちの質問力はどんどん高まっていますね。

――メンターとの関わりを通じて、子供たちは自分や社会と向き合う力を育んでいるんですね。

これから突入する後期は、ワークショップを中心に進めていく予定です。生徒同士でディスカッションをしたり、スライドを作って発表したりするなど、さまざまなアクティビティーをします。

前期のゲストを招くワークでは、社会に対する視野を広げ、自分の興味・関心を探り、自己認識する過程を大切に設計していました。そうした活動を経て、後期は自分がどうアウトプットして世界に関わっていくかを考えるフェーズに入っていきます。

具体的には、自分が掲げる課題を解決するためにクラウドファンディングに挑戦してみたり、商品・サービスのプロトタイプを作ってみたり、外部に発信するためにメディアを立ち上げたりといった活動です。多種多様なアウトプットが出てきそうで、今からわくわくしています。

――面白そうですね、どんな子供が在籍しているのでしょうか。

小学5年生から高校3年生まで、およそ30人の子供が在籍しています。アカデミーは今年6月から始めましたが、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、現在も完全オンラインで実施しています。

在籍する子供たちの多くが、学校に対して何らかの不満や不信感を抱えているように見受けられます。自分の能力を発揮できない環境に息苦しさを感じ、学べる場所や能力を生かせる環境を外部に求め、ここにたどり着いたようです。

みんな好奇心がとにかく旺盛で、もっと新しいことを知りたい、挑戦したいと意欲に満ち溢れています。それぞれ、自分が探究するテーマをすでに決めています。例えば「気候変動」がテーマの子は、社会全体に課題を投げ掛けたいと話しています。テーマはさまざまですが、みんなそれぞれに専門性があり、起業という手法を通じて新しい価値を生み出したいという思いが原動力になっています。

「自らの人生を切り拓く力」とは
――社会とつながったり、生徒個別の能力を大切にしたりするなど、新たなスタイルの学校が増えています。そうした中でタイムリープの強みはどこにあるのでしょうか。

子供たちが本人の意思を曲げることなく、自己認識や自己表現をできる環境づくりについては徹底しています。新たな試みをする教育機関は、外向けに何かしらの成果を見せていかねばならないプレッシャーが、どうしても付きまといます。でも、そこに固執しすぎると、子供自身が望んでいることではなく、大人がさせたいことをさせてしまうようになります。

私たちは絶対にそうしたくないので、子供たちから純粋に出てくるものだけを受け止めて、それを伸ばせるようにしています。インプットやアウトプットの場は数多く提供しますが、「こんなアウトプットをすればいいよ」といった押し付けはしないように心掛けています。

例えば、とにかく子供とひたすら質疑をしてコミュニケーションをとる。時間も手間もかかりますが、その繰り返しができる環境と人材がそろっているのは強みだと思います。

――質問を繰り返しながらコミュニケーションをとることは、学校の教員をはじめ、子供と関わる全ての大人に必要なことなのかもしれませんね。
子供たちに自分の人生を切り拓く力をつけてほしいと話す

はい、本当に大切なことだと思います。大人は知識もありますし、言ってしまった方が早いので、やはり忍耐が必要なのですが、そこを耐えて待ってみてほしいと思います。

例えば、何か問題が起きたとき、先生はその原因を知っていたとしても、子供たちに「なんで問題が起きたと思う?」と聞いてあげてほしいのです。そうすることで、彼らは「なんでだろう」と考えます。その時間は正直、手間に思うかもしれませんが、子供たちは自分で考えて導いた答えは忘れません。そうした経験が自信になったり、今後何かと向き合うときに自分で問いを立てる力になったりして、未来につながっていくはずです。

これは、今の日本の教育にとって最も大切な要素の一つだと感じます。

――仁禮さんは先ほど「自らの人生を切り拓く力」を付けてほしいとおっしゃっていました。その力をもう少し分解してみると、何が必要なのでしょうか。

「自らの人生を切り拓く力」というのは複合的なものですが、一つは先ほどから触れている自己認識や自己表現が当てはまるのではないでしょうか。自分を知る方法は、自分で問いを立てること、そして社会を知ることでも可能です。

当たり前ですが、人間は一人で生きていけません。周囲の人とコミュニケーションをとり、社会の構造を理解した上で、初めて生きていけます。だから自分のことを理解するだけではだめで、他人や社会を知ることが生きるために必要不可欠です。

例えば「学校が嫌い」と言っただけでは、何も解決しない。学校のどんなところが嫌いで、どうしてそうなっているのかをしっかり理解できないと、解決に結び付かないばかりか、助けを求めることすらできません。その意味でも、自分の置かれている環境、生きている社会を理解した上で、自分を知って自分を表現する力を子供たちには身に付けてほしいと願っています。

(板井海奈)

【プロフィール】

仁禮彩香(にれい・あやか) 1997年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学。 中学2年生の時に㈱GLOPATHを設立。学校コンサル、研修開発、CSR支援など展開。高校1年生の時に自身の母校である湘南インターナショナルスクールを買収し経営を開始。2016年に㈱Hand-C(現TimeLeap)を設立。同年 ハーバード・ビジネス・レビューが選ぶ未来を作るU-40経営者20人に選出。Hand-Cでは企業向け研修や、小中高生向け人材育成プログラムなど、「自らの人生を切り拓く力」を育むさまざまなプログラム開発・運営を行う。


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