【仁禮彩香氏】”振り切った教育”をつくり続ける理由

子供たちが自分の才能や個性を発揮し、生きることに喜びを感じられる社会をつくりたい――。小中高生の「未来を切り拓く力」を育むことを目指す教育プログラム「TimeLeap Academy」の仁禮彩香代表はそう話す。現役の大学生であり、小学校時代から既存の教育を変えるためにアクションを起こし続けてきた仁禮氏に、インタビュー最終回では、学校関係者や今を生きる子供たちに伝えたいことを聞いた。(全3回)

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「格差」を言い訳にしない
――仁禮さんは今の小中高生について、どのように感じていますか。

格差を感じつつも、教育へのアプローチを止めない仁禮代表

教育環境の2極化が起きているように感じます。私たちが運営するアカデミーのように自分に合った教育や質の高い教育を受け、自分の才能に気付いて発揮できる子供も一握りですがいて、そうした子は自己認識も自己表現力も高い状態で、社会に飛び立つでしょう。

一方でそういった教育に触れることなく、ずっと問いと答えを与えられ、テストの回答だけを追い続けてきて、就職活動のタイミングで初めて「あなたはどんな人ですか?」と問われ混乱する人もいます。

後者の方が、日本ではマジョリティーですよね。この教育格差は現時点でも大きいですが、今後どんどん広がっていくように感じています。

――感度の高い子供や教師、保護者はチャレンジングな教育をキャッチできますが、仁禮さんのように自分が受ける教育を自分で選び取れる環境にいない子供も、まだまだ多いと思います。

まさにその通りで、だから分断が起きていると思います。発展途上国の格差に比べれば、日本はまだ恵まれていますが、それでも確実に格差はあります。生まれた時点である程度、その子の可能性が決まってしまうかのように見える社会であることに、とてもむなしさを感じます。本当は個人で変えられることがたくさんあるのに、どんな家庭に生まれたかで、その人の生き方が決まっているかのように思える現状がとても悲しいです。

私たちが提供するような教育をキャッチできるのは、リテラシーの高い層やその価値に気付ける環境にいる層。それはある意味、教育格差を助長することになっているんじゃないかと自問自答をします。実際、「全員が受けられるものをつくってないのに、教育を変えると言うなんて」という批判が、私のもとにもたくさん届きます。

そう批判する彼らも、日本社会の格差に絶望しているんだと思います。だからもちろん、その気持ちにも共感します。そうした状況も踏まえつつ、こういった「振り切った教育」をつくるのが自分の使命だと思って取り組んでいます。

多くの人が受けられる教育をつくり上げるためには、まずはモデルケースをつくらねばなりません。ニーズが高まれば事業としても拡大できるし、段階的に学校にも取り入れられるかもしれない。だから今は批判されてもモデルケースをつくり、成功事例を重ねなければ何も始まらないと考えています。

教育を変えるにはとても時間がかかるし、一つのレイヤーでは解決できません。国の教育にかける予算案の動向、教師の育成プロセス、学校組織の在り方……。いろんな構造が関わっているので、一人で解決するのは無理でしょう。ただタイミングが来たときに、良いものをちゃんと提供できるように準備しておかないと、望む未来は来ません。

時代が来るまで、動き続ける
――改めて、今の学校教育をどう見ていますか。

自分たちの時代が来たとき、最高のものを提供したいと話す

自分のことを理解する時間がなさすぎると思います。先ほども言いましたが、就職活動で初めて自分について質問される社会など、意味が分からないと思いませんか。発達段階的にも中高生というタイミングは自己認識も進み、アイデンティティーを形成していく大切な時期なので、それを助けてくれる大人の役割が不可欠です。

「あなたは自分についてどう思っているの?」「苦手なことは何?」「じゃあ、得意なことは?」「好きなことは?」と、どんどん質問を投げ掛ける。そうして対話してくれる存在が近くにいるかいないかで、子供の未来が変わるといっても過言ではありません。自分のことは、教科書を読んでいるだけでは分かりません。実際に手を動かして何かをやってみて、「努力してみたけど、これには向いてない」「努力しなくても、これなら簡単にできる」などと、初めて気付けるのです。

学校では、自分を知るためのアウトプットの場が少なすぎるように感じます。もっとPBLのような形で自分のことを学べる時間を、全ての学校で増やしてほしいのです。また、教師をはじめとした大人とのコミュニケーションも、子供一人一人の感性や考えを引き出せるように、答えを与えるのではなく、問い掛けるスタンスに意識的に変えなければいけないと思います。

――仁禮さんは教員経験もありませんし、年齢的にもまだ若いです。学校関係者と対話するときに、受け入れてもらえないと感じることはありますか。

正直、あります。先生には先生にしか分からないことがありますし、全てのことを分かり合うのは難しいですが、せっかく対話の機会をもらっても、聞く耳を持ってくれないと残念に思うことはありますね。

――どうやってモチベーションを保っているのでしょうか。

時代が来れば受け入れられる、と割り切っています。私はまだ20代。自分たちの時代が来たときに、ちゃんと良い教育を提供できるようにまい進するだけですね。

私は起業家なので、日頃から理想と現実を行き来しています。現実的な数字や時代の流れを踏襲しつつ、理想を目指しながら、ビジネスを展開しています。現実部分を忘れて熱意や理想だけで突っ走ってしまうとしんどくなるもので、冷静にロジックとしてビジネスを捉えているからこそ、悲観的になりすぎずにモチベーションを保てているように思います。

社会が求めるように生きなくていい
――仁禮さんが言う「時代」が来たとき、どんな教育を提供したいですか。

一人一人が喜びを感じながら生きられる社会をつくりたいと話す

一人一人が自分の才能や個性を発揮して、喜びを感じながら生きられる社会につながる教育が理想です。社会や会社が求める正解に自分を当てはめるのではなく、自分の中にある人生の喜びが何なのかを理解して、それに向かって生きられるようになってほしいんです。そして、その理想にたどり着くためには、一人一人が自分について多角的に理解し、それを喜びとともに社会に発信できる術を学ぶ。そうした教育を構築しなければなりません。

可能性を感じるのは、テクノロジーの力。例えば、オンライン授業中の生徒の表情をAIが読み取り、その子がどこを集中して見ていたのか、どこで大きく反応したのかなどのデータが取れるシステムを今、当社のメンバーが開発しています。データはあくまで傾向の一つとして捉えるべきでしょうが、それを教師がカルテとして活用すれば、「〇〇さんはこの時すごく反応したけど、この分野に興味ある?」などとコミュニケーションのきっかけになり、生徒の才能や趣向を引き出すことにつながると思います。

教育の現場で、もっと個人の個性や才能に寄り添ったサポートができるような環境を整えていきたいと思います。

――教員と交流する機会も多いと思います。何かメッセージはありますか。

若い先生から「私は教師以外の経験がないので、子供たちに社会のことをどう伝えればいいのか分からない」といった声を聞きます。でもそれは、全然心配することではないと思うんです。

例えば、学生時代にしていたバイトの話をするだけでも、子供たちにとっては貴重な社会との接点になります。あるいは自分の異業種の友達から話を聞いて、それを伝えてあげるだけでも、子供たちの視野はぐんと広がります。

有名人や偉業を成し遂げた人とつなげないと、子供にプラスにならないわけではありません。ただ人生を楽しんでワクワクしている大人一人一人が、子供たちにとっては社会を知る一歩になり、自分の才能や個性に気付くきっかけになります。あまり大げさに考えたり、大仰に構えたりせず、子供と社会の接点を少しでも多くつくっていってあげてほしいのです。

(板井海奈)

【プロフィール】

仁禮彩香(にれい・あやか) 1997年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学。 中学2年生の時に㈱GLOPATHを設立。学校コンサル、研修開発、CSR支援など展開。高校1年生の時に自身の母校である湘南インターナショナルスクールを買収し経営を開始。2016年に㈱Hand-C(現TimeLeap)を設立。同年 ハーバード・ビジネス・レビューが選ぶ未来を作るU-40経営者20人に選出。Hand-Cでは企業向け研修や、小中高生向け人材育成プログラムなど、「自らの人生を切り拓く力」を育むさまざまなプログラム開発・運営を行う。


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