コロナ禍の修学旅行 地域連携でリアル体験

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、実施が困難となっている修学旅行。団体での宿泊や移動を伴い、観光地などを巡ることでの感染リスクへの懸念、授業時間数の確保などの理由で、中止を決めた学校も多い。そんな中、さまざまな工夫で実施にこぎ着けた学校もあれば、修学旅行に代わる活動を実施した学校もある。各地の試行錯誤を通じて「修学旅行」の意義や在り方を考える。特集の前半では、行き先や内容を変えながらも、リアルな体験にこだわった事例を取り上げる。(全2回)

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修学旅行はできるだけ実施を

教育新聞が11月9~16日の間に実施した読者投票「Edubate」では、コロナ禍での修学旅行の実施形態について217件の回答が寄せられ、▽従来通り実施する 18%▽行き先を変更する 40%▽日程を短縮する 13%▽オンラインなどの方法で実施する 3%▽別の行事で代替する 12%▽実施すべきでない 15%――との結果となった。意見は分かれたものの、何らかの方法でリアルな修学旅行を求める声が7割を占めた。

修学旅行の実施形態に関する読者の考え

修学旅行の実施を巡っては、文科省も10月2日に「教育的意義や児童生徒の心情等を考慮」して、「近距離での実施」「旅行日程の短縮」などの工夫や感染防止対策を徹底した上で、できるだけ実施するよう求める通知を出している。

また、同日の閣議後会見で萩生田光一文科相は「修学旅行は子供たちにとってかけがえのない思い出であり、教育効果の高い活動。その実施について保護者や教職員など、関係の皆さんのご理解ご協力をいただきたいと考えている」と呼び掛けた。

地元での漁師体験で気付かされた修学旅行の意義
船上で収穫を確認する児童ら(御調中央小提供)

広島県尾道市立御調中央小学校(橫松和義校長、児童217人)は例年、6月の修学旅行で関西方面を訪れている。しかし、今年はコロナ禍の影響で早々に延期が決まった。その後、近隣県への1泊での開催が検討されたが、これも「現地で感染者が出た場合の対応が難しい」との理由で、最終的に中止となった。

そんな中、代替イベントして企画されたのが、地元漁協の協力を得ての漁師体験だった。その理由を橫松校長は「地元であれば万が一、何かあっても対応がしやすいし、地元の良さも再認識できる。また、海洋ごみの問題など、SDGsの勉強にもつながり、学びを深められる」と説明する。

山あいにある同小の児童にとって、同じ地域であっても、漁師の仕事にはほとんどなじみがない。橫松校長が、漁師体験を選択したのはそうしたことも決め手の一つだった。

11月6日に実施された漁師体験では、6年生が底引き網組と定置網組の2班に分かれ、ライフジャケットを装着して漁船で沖合へ。漁師の指導を受けながら網を引き揚げると、たくさんのエビやシャコがかかっていた。子供たちにとってその光景は、映像でしか見たことがないもの。漁の醍醐味(だいごみ)を味わうとともに、網には魚だけでなく大量のプラスチックごみがかかることも知った。

漁師体験は2時間近くに及んだが、船酔いする児童もおらず、船上では最後まで歓喜と興奮が続いたという。体験を終えた児童は「予定していた京阪神に行くのと同じくらい、いい経験ができ、本当に素晴らしい修学旅行でした」と漁師らに感謝の言葉を伝えた。その姿に橫松校長の目は、思わず潤んだという。

学びの集大成ともいわれる修学旅行。それだけに、教育的意義を優先すべきか安全を優先すべきかで、学校関係者は難しい判断を迫られる。

一方で、代替策を考える中で、学校が新たな視点や気付きを得られることもある。無事に漁師体験を終えた橫松校長は、こんな言葉で振り返った。

「子供たちは京阪神に行くことを楽しみにしていたと思う。その意味で申し訳ないという思いもあったが、一方で今回、二転三転して違う形となり、『修学旅行は京阪神に行くもの』ということが当たり前になっていた事実に気付かされた。子供たちにとって本当に必要なことは何か。そういうことも、じっくりと考えないといけない」

地元をより深く知り、郷土愛を密に
地元の鳥取砂丘でサンドボードを体験する生徒(三朝中提供)

鳥取県三朝町の三朝中学校(吉田朋幸校長、生徒169人)が試みた「地元を出ない」修学旅行は、コロナ禍があったからこそ実現したもので、感謝と感動にあふれる思い出深い行事となった。

同校では毎年5月、東京方面への修学旅行を行っていたが、今年度は生徒の安全を優先して県内の観光地を巡る内容に変更した。

鳥取県は感染者が少なく、地元の三朝温泉をはじめ、山陰有数の観光地も多い。代替地として申し分ないはずだったが、この実施案に旅行会社からストップがかかった。地元の温泉旅館に泊まるとなれば、料金的に負担が大きすぎるというのだ。家庭に追加負担を求めるわけにもいかず、いったんは実施を諦めようとしたが、そこに救いの手が差し伸べられた。

なんと、地元の旅館組合が「三朝町の子供たちが泊ってくれるなら」と全面協力を申し出て、当初の予算内で受け入れてくれたのだ。加えて、料理などのグレードも落とさず、一般観光客に提供する懐石料理を出すなど「最大級のおもてなし」をしてくれるという。コロナ禍で苦境に陥っているはずの旅館の粋な計らいによって、同校の修学旅行は晴れて実現することとなった。

9月に2泊3日で実施された修学旅行で、生徒たちは鳥取砂丘や倉吉市、隣県の松江市の観光地などを巡った。その中にはなじみ深いスポットもあったが、各地のコロナ対策を取材したり、砂丘でサンドボードを体験したり、地元のパンフレットを持参してPRをしたりと、単なる旅行にとどまらない活動を織り交ぜることで、新鮮な体験となった。

地元、三朝温泉の旅館では大歓迎を受けた。地元の名湯にゆっくりと浸り、その後は高級肉のしゃぶしゃぶやステーキ、揚げたての天ぷら、刺身など、この日のために料理長が腕を振るったという特別な懐石料理を堪能。夜は体操着でなく浴衣でくつろぎ、仲間と時間の許す限り談笑した。

憧れの東京観光が一転、地元を巡る小旅行に変わったが、生徒たちは「地元なのに意外に知らないことが多く、そのことが知れてよかった」「東京ではなかったが、とても楽しかった」と大満足だったという。地元のケーブルテレビが取材で同行し、その様子がテレビで放映されたことで、保護者にとっても思い出に残る行事となった。

引率した3年生の学年主任である岩成智彦教諭は「行き先が東京から近隣県、地元へと変わっていく中で不安もあった。だが、地元でも行ったことがない場所が多かったようで、終わってみれば生徒たちの満足度は高く、場所は関係ないと思った。実行委員の生徒が中心となって、この行事には『GO TO修学旅行 ソーシャルディスタンスだけど 私たちの郷土愛は密!』とのタイトルが付けられたが、実際の内容も含め、100点満点以上だった」と満足げに振り返る。

この修学旅行について、西田寛司教育長は「私の立場としては、思い出づくりというよりも、教育活動の一環ということを大切にした。ふるさとを知り、鳥取県の皆さんがいかに子供たちのことを大切に思っているかを、肌で感じてもらいたかった。その点でも、大人の覚悟を感じてもらえたのではないか」と述懐する。

その上で、修学旅行の意義について、「今年に限って言えば、生き抜く力を育む活動として、県教委と協力し、修学旅行、運動会、文化祭を実施してきた。実施の可否についていろいろな意見もあるが、中止するなら、教育関係者が教育活動の質を落とさないよう工夫すればそれでいい。修学旅行が万能とは考えていない」と持論を語った。

後半では、オンラインなどを活用し、教室にいながら修学旅行を疑似体験した学校を取り上げる。

(油浅健一、藤井孝良)


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