未来の教育を担う若手教員は、周囲とどのように協働しながら、学校現場に新しい風を吹き込んでいくべきか――。この4月から教員としてスタートを切った東京都東久留米市立南町小学校の小泉志信教諭は、緊急事態宣言解除後にZoomを用いた全校集会を行うなど、奮闘を続けている。インタビュー第2回は、学校現場に新しいものを取り入れるために、小泉教諭が行っている場づくりの工夫などを聞いた。(全3回)
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子供たちとルールづくり
――コロナ禍において、初任というのは難しさがあったと思います。

何をしたらいいのか分からない日々が、一番きつかったですね。担任するクラスの子供たちには、入学式で一瞬、会えただけです。教材研究をしようにも、子供たちのことを知らない、分からないから、雲をつかむような感覚でした。
子供たちは休校期間があった分、今も苦しんでいます。あの空白の時間分、子供たちの学びの進度は落ちていると感じます。
特に僕が担任をしている1年生は、学ぶこと自体が初めての経験です。今も学校では交流が制限されるなどしており、2年生など身近な上級生の背中を見て学ぶことができないのは、今後、少なからず影響が出てくるのではないかと思っています。
――学校再開後は子供たちとどのように過ごしていますか。
例えば、子供たちと一緒にルールづくりをしています。
ある日、クラスの一人が「先生、教室に入り口と出口があったら、ぶつからなくていいと思う」と言いだしました。
そこからクラスで話し合いの場を持ちました。まず、「入り口と出口をつくる」ことに関しては、みんなが賛成でした。その後、前と後ろのドアのどちらを入り口もしくは出口にしたらいいのかを話し合いました。いろいろな意見が出て、その都度、メリットとデメリットを考えたりしながら話し合いは進んでいきました。
誰かが自分の意見を通そうとしたり、話がそれたりしたら、その都度、論点を整理するようなサポートはしましたが、子供たちはみんなでアイデアを出しながら、一つずつ、納得がいくようにルールを考えていきました。
こうしていったんは教室に入り口と出口をつくってみたのですが、最近、また子供たちと話し合って、そのルールはなくしています。
そもそもルールは、使ってみて良くなければ変えられるものです。大事なのは、みんなで話し合いながらルールを作ったり、変えたりするような経験を積ませていくことだと思っています。
1年目で学校にZoomを取り入れられたわけ
――6月にはZoomを使った全校集会をされたそうですね。コロナ禍においては、Zoomの活用やオンライン授業などを取り入れようとしたものの、途中で頓挫する学校も多かったようですが、どのように進めていったのですか。

初任で配属後、すぐ休校になったのですが、その前に本校の若手の先生たち何人かとZoomでつながることができました。その先生たちと、休校中にオンラインでの研修会を数回行いました。Zoomで他の先生と関係を深められたことは、とても大きかったです。
休校中は週1回の出勤で、それ以外は在宅勤務だったのですが、出勤日に学年主任や管理職を巻き込んでZoomの体験会のようなことをやってみました。そういう手段があることを多くの先生に知っていただけたこともよかったですし、僕がICTにある程度強いことも、校内の先生たちに知ってもらえました。
――「Zoomを取り入れたい」と思って、行動したということですか。
もともとZoomに関しては、休校になったから取り入れようとは考えていませんでした。ただ、もしこのままコロナが長引いて「オンライン授業をやります」となったときに、周りの先生が困るのは嫌だなとは思っていました。
それで、在宅勤務の時間を使いながら、「もしZoomを学校で導入するなら」といったような資料を作ってみたんです。僕がそうした資料を作ったことを知ったある先生が校長先生に伝えてくれて、他の先生にも配布することになりました。
すると、集会委員会の先生から「三密を避けながらどうやって集会をするか悩んでいる」と相談をいただき、Zoomを用いての開催を提案しました。
それから約2週間、集会を担当している子供たちと一緒に、内容を詰めていきました。学校のパソコンには使えない機能や制限も多かったのですが、書画カメラを用いて他のクラスとつなぎ、ビンゴ集会のようなことをやろうということになりました。
そして、6月末にZoomのブレイクアウトセッションの機能を活用した「リモート交流集会」を実施し、それ以降、これまでに3回開催しています。
場の価値を最大限高める
――子供たちや周りの教員の様子はどうでしたか。

学校再開後も、全校では集まれない日々が続いていたので、初めてのZoom集会は子供たちのテンションも高く、笑顔であふれていました。
当日までZoomを使ったことのない先生がほとんどだったので、やり方を書いたレジュメを渡し、一人一人に説明しました。当日は、パソコンの電源が落ちたり、書画カメラが使えなかったりするなどのトラブルがあり、校舎内を何往復したか分かりませんが、たくさんの先生に助けていただきながら、やり遂げることができました。
この準備に加えて通常の担任業務もあったので、体力的にはかなりきつかったですが、先生や子供たちの達成感に満ちあふれた表情を見て、本当にやってよかったと思っています。
――周りの理解を得ながら進めるためのポイントは、どんなことでしょうか。
「自分はこれをやりたいからやる!」という方法もあると思いますが、コロナ禍のZoomに関しては、そのやり方ではうまくいかないと思っていました。
いきなり自分が知らないことや、やりたくないことを提案されたら、誰だって拒否反応を示します。だからこそ、やりたいことがあるときも、新しいツールを取り入れるときも、他の人が受け入れられるよう事前に働き掛けたり、それを使いたくなるような場を整えたりすべきだと思います。
一番大事なのは、子供たちの幸せのために「学校という場の価値を最大限高めること」だと思っています。今回は、そのために自分が持っている幾つかの手札の中に「Zoom」というものがあって、それを使うべきタイミングがあったからこそ、提案できました。
1年目で分からないことも、役に立てないこともたくさんあるけれども、「これからも自分にできることに全力で取り組んでいきたい」と、強く思いました。
(松井聡美)
【プロフィール】
小泉志信(こいずみ・しのぶ) 東京都東久留米市立南町小学校教諭。東京学芸大学教職大学院卒。学部時代は特別支援教育を専攻し、教職大学院ではルール教育や道徳を専門に学ぶ。教職大学院在学中に未来の先生と教育を考える団体「せんせいのたまご」を立ち上げ、代表として現在まで運営。文科省の若手官僚やゼロ高等学院とコラボレーションしたイベントなどを行ってきた。今年9月からは教員と教育業界の若手たちの成長を、一歩先を行くメンターたちがプロデュースしていくプロジェクトベースのコミュニティー「Teachers Flag」も立ち上げ、自身もメンティーとして参加しながら運営している。