コロナ禍の修学旅行 オンラインやバーチャルで疑似体験

コロナ禍で実施が困難となっている修学旅行。やむを得ず中止を決めた学校では、オンライン上の仮想空間を活用して、教室にいながら疑似体験をするなどの取り組みが行われている。特集の後半では、そうした事例を取材しながら、ICTによる距離や空間を超えた学びの可能性を探った。(全2回)

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オンラインで訪れた奈良・京都

吉本興業のお笑い芸人が案内するオンライン修学旅行

絶好の行楽日和に恵まれた11月上旬の朝、埼玉県久喜市立鷲宮西中学校(内山真二校長、生徒181人)の3年生54人は、教室にいた。この日は、3年生にとって学校生活最大のイベント、修学旅行への出発予定日。本来なら関西方面へ新幹線で移動しているはずだった。

教室の3年生が見つめているのは、モニター越しの古都の風景。感染リスク回避のために現地へ行くことを諦め、現地とリアルタイムでつながり、双方向で交流しながら奈良・京都を満喫する「リモート修学旅行」だ。実施か延期か中止か、二転三転の末に学校が選択したのが、この形だった。

午前8時50分にプログラムがスタートすると、3年生の目はモニターにくぎ付けとなった。ナビゲート役として吉本興業のお笑い芸人2人が登場すると、関西弁の軽妙なオープニングトークが教室の空気をいい具合に温め、モニター越しであることを忘れさせる。テンポの良い呼び掛けで、生徒たちの緊張も次第にほぐれていった。約500キロに及ぶ埼玉・京都間の物理的な距離はどんどん縮まり、同じ現場にいないというだけで、いつの間にか場は一つになっていた。

途中、リモート特有の時間差にぎこちなくなる場面はあったものの、薬師寺の僧侶による説明や法話が始まる頃には、生徒はすっかり奈良・京都にワープしている感覚になっていた。

中でも盛り上がったのは、京都に関するクイズコーナーだ。生徒同士が班単位で知識を出し合い、修学旅行の事前学習で調べていた情報をもとに回答を探る。問題が仏像の手の形や建立の古い順など、マニアックで難解だったこともあり、正解するとボルテージは一気に高まった。

ホンモノの体験も取り入れる

型友禅染を体験する生徒

伝統工芸の型友禅染は、教室に道具を持ち込んで実際に体験した。リモートで現地の職人から指導を受けながら、生徒たちは6色の色のりを使い、型紙を色ごとに一枚一枚取り替えながら、エコバッグに金閣寺や舞子のイラストを染め込んでいった。

時間は30分程度だったが、その間、教室は一転して静まり返り、全員が体験にのめり込んだ。場所こそいつもの教室だったが、伝統工芸を本物の職人からマンツーマンで学ぶのとそん色のない貴重で濃密な時間となった。

気が付けば、あっという間にプログラムはエンディングへ。トータルでわずか3時間40分のリモート修学旅行だったが、普段はできないことをいつもの教室で体験できたことで、より印象深い思い出として各生徒の胸に刻み込まれた。

同校3年生の野本悠介さんは「実際に現地に行けるのが一番だったけれど、この時世だから仕方ない。事前にいろいろ調べていたことが無駄にならなかった。オンラインでもお坊さんの話が聞けたり、染め物を実際に体験できたり、向こうに行っているような気分を味わえた。芸人さんのトークも聞けたし、普段はできない体験ができ、とても楽しかった」とリモート修学旅行を終えた感想を率直に語った。

この日を迎えるまで、同校では紆余曲折があった。3月に感染が拡大すると、6月に予定されていた修学旅行はいったん、11月に延期となった。ところが、8月に入っても感染拡大が収まらず、正式に中止が決定した。そんな中、「なんとか、思い出づくりはしてほしい」との教員らの思いから、代替案を模索。最終的に形となったのが、この日のリモート修学旅行だった。

決断に至った経緯について、内山校長は次のように明かす。

「中止にしたのは、生徒の健康が第一という判断から。3年生にとって学年最大のイベントであり、本当に悩みに悩んだ。ただ、何か思い出になるワクワクするような機会はつくってあげたいとの思いがある中で、リモート修学旅行があることを知り、意見を聞きながら実施することにした。ホンモノが体験できることと、双方向であること。この二つが重要だった」

感染リスクを回避し、生徒の安全を最優先した校長の決断に、反対する人は保護者も含め一切なかったという。生徒たちは中止決定後も日々の授業に変わらず打ち込み、リモート修学旅行に向けては実行委員会のメンバー4人を中心に教室に地図やポップを貼るなどして、受験勉強の合間を縫いながら気持ちを盛り上げていったという。

内山校長は「今日の生徒の楽しそうな表情を見て安心した」とした上で、「本校は『総合的な学習の時間』で歴史を学ぶ。リモートであってもホンモノを体験したことで、楽しさに加え、教育面での効果もあったと思う。3年生は受験が近づき忙しいが、そうしたことを踏まえても、今日は時間を有効に活用できたのでは」と振り返る。

バーチャル空間に京都を再現

写真を見ながら銀閣寺をバーチャル空間に再現

千葉県柏市にある麗澤中学・高等学校(松本卓三校長、生徒1152人)のバーチャル修学旅行は、生徒たちの喪失感を補って余りある代替イベントになった。

その日、教室では各生徒が真剣な眼差しで、グーグルの学習者用端末「Chromebook(クロームブック)」に向かっていた。取り組んでいるのは、プログラミング教育などでも使用されているゲーム「Minecraft(マインクラフト)」。そのバーチャル空間で、東大寺や銀閣寺など、京都の歴史的建造物を「建立」しようとしているのだ。

例年、同校の中学2年生は修学旅行で関西地方を訪れていたが、新型コロナウイルスの影響で今年度は中止となった。それに代わるイベントとして、マインクラフトで歴史的建造物を作り、アバターになって散策する企画が持ち上がった。

この日のために、同校では2週間ほど前から、マインクラフトを各生徒のクロームブックで使えるようにした。しかし、生徒によってスキルに差があることから、詳しい生徒による有志のプロジェクトチームを立ち上げ、彼らがリーダーシップを取りながら、グループの作業をマネジメントすることにした。

各グループでは、対面での会話だけでなくチャットなども活用し、教え合ったり手伝ったりと役割分担をしながら、マインクラフトのブロックパーツを組み合わせて本物そっくりの歴史的建造物を再現していく。作業を通じて、生徒たちは作ろうとする建造物の画像を検索し、さまざまな向きや角度から観察するなどして、日本の建築物を多面的に理解できる。中には、小型ブロックで有名建築物を再現する解説書を参考にしながら、建設に挑む生徒もいた。

マインクラフトで再現した歴史的建造物を見せてくれた臼井さんと右田さん(左)

小学生の頃からマインクラフトにはまり、プロジェクトチームのメンバーに志願した臼井結愛(ゆい)さんは「私たちが何かを教えるというより、『分からないことがあれば聞いてみて』という感じで、みんなで作業を進めている。普段の学校生活では関わらない人とも話せる。マインクラフトをやったことがない人でも、作品を一つ作り上げて、楽しんでもらえたら」と話す。

同じくメンバーの右田薫さんは、マインクラフトの魅力を「明確な目標がなく、自由に建築したり、動物を育てたりでき、人それぞれの楽しみ方をいつまでも続けることができる」と説明する。このバーチャル修学旅行がうまくいけば、いずれは学校の校舎をマインクラフトで再現し、オンライン上で学校説明会などが開けないかと考えているという。臼井さんも右田さんも「できれば修学旅行に行きたかった」と話すが、マインクラフトで学年全体が一つになって忘れられない思い出ができたことを実感しているようだ。

ゲームや遊びから学んだっていい

マインクラフトを同校が導入したのは5月の休校期間中、オンライン上で生徒に「何かオンラインでやってみたいことはあるか」と問い掛けたところ、ある生徒から提案を受けたことがきっかけだった。しかし、学年部長の秋元誠道(しんじ)教諭は当初、マインクラフトはゲームというイメージが強く、学校の教育活動として使用することには難色を示したという。

ところが、実際に調べてみると、さまざまな可能性が見えてきた。夏ごろに修学旅行の中止が正式に決まり、その代替となる活動を検討していたとき、マインクラフトを活用したバーチャル修学旅行のアイデアを思いつき、周囲を説得して実施に漕ぎつけたと振り返る。

秋元教諭は「この2週間、生徒の目の輝きやリーダーシップが格段に違っている。マインクラフトは生徒の方が詳しいので、『そんなやり方があるのか』『他の人にも伝えて』『どんどんやりなさい』と、教師は何かを教えるというよりも、ファシリテーションをするようになった。ゲームだから遊びだと思っていたが、そもそも遊びながら学んだっていい」と手応えを感じている。

同校では、例年は修学旅行の事前指導に充てていた時間を、バーチャル修学旅行の準備だけでなく、キャリア教育にも充てている。具体的に、コロナ禍で苦しむ企業経営者とオンラインでやり取りしながら、与えられた課題を解決する新商品の開発を提案するといった、新たな試みを始めている。

「デジタルを使えば、さまざまな交流ができる。こんなときだからこそ、生徒や学校は閉じられた世界にとどまらず、外の世界とつながり、世の中のためになる行動をしようとする意識を持つべきだ」と秋元教諭は語る。

どんな形であれば感染リスクを避けられるのか。修学旅行で子供たちにどんな学びや思い出をつくってほしいのか。学校現場の模索は続く。

(油浅健一、藤井孝良)


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