【先生になる理由】公立校の現場こそが教育の最前線

公立校の現場こそが、教育の最前線――。4月から教員としてスタートを切った東京都東久留米市立南町小学校の小泉志信教諭は、実感を込めてそう話す。教師の仕事は「想像以上に大変だった」と話すが、「公立校だからできない」という壁は乗り越えられるとの手応えも感じているという。(最終回)

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公立校は可能性に満ちている
――これから教員を目指す学生や、若手教員に伝えたいことはどんなことですか。

誰がなんと言おうが、公立校の現場が最前線だということです。

公立校は、子供たちが何か苦しいこと、つらいことがあった時の最初の受け皿であり、子供たちの可能性を広げるきっかけになる場だと僕は思っています。だからこそ、ここが良くならない限り、日本の教育は良くならないと強く感じています。

教員という仕事は、思っていた以上に、きついです。いろんな意味で大変です。社会人になるだけでも大変なのに、いきなりクラスの担任を任されます。普通の会社だったら、1年目からいきなり一事業を任されるなんてことはあり得ないですもんね。そういう意味でも、強い覚悟を持って挑まないと、やっていけないと思います。

――覚悟とは、どういう覚悟でしょうか。

覚悟さえあれば、これほどやりがいのある仕事はない

担任をするということは、目の前の子供たちの人生の1年間に関わることとなります。その1年が良かったり悪かったりすることで、子供たちの人生が大きく変わるかもしれません。

一人一人に未来があって、一人一人に違う人生がある。少なくとも、目の前の子供たちの「今」を自分が受け持っているという覚悟が必要だと思います。

ただ、その覚悟さえあれば、これほどやりがいのある仕事は他にないと思います。

よく「公立校だからできない」と思われがちですが、実際に公立校の教員になってみると、それはちょっと違うなと思います。もちろん、設備面で足りないことはありますが、できることはたくさんあります。

ベテランの先生の子供たちに対する熱意や、中堅の先生たちの教材研究の深さなど、本当にすごくて頭が上がりません。こんなに素晴らしい素材がそろっていて、あとは料理人の腕次第というような職場は、他にないと思うんです。

そんなすごい人たちの思いやスキルをうまく生かす場づくりができれば、公立校の可能性はいくらでも開けると感じています。

外とのつながりを持つ教員に
――未来の教育のために、教員が身に付けるべきことはどんなことだと考えていますか。

自身の活動で知り合った塚本忠行さんが取材当日の様子をグラレコしてくれた

例えば、「看護師になりたい」と思っている子がいるとします。もし、教員が看護師とつながりを持っていれば、授業にZoomで登場してもらい、子供たちに仕事の魅力や実態を話してもらうことが簡単にできます。

これからは、子供たちに実社会のリアルを届けていくことが大事になってきます。その意味で、たくさんのつながりを持っている人間が学校現場にいることの価値が、大きくなっていくと思います。

教員のソフト活用力の必要性を感じることもあります。例えば、本校の全パソコンには、プログラミング言語のScratch(スクラッチ)がデスクトップに入っています。でも、同じ市内の他の学校で使おうとすると、毎回ダウンロードが必要な学校もあるらしいのです。

なぜ、本校だけデスクトップに入っているかというと、以前に在籍していた先生が、がんばって導入してくれたそうです。つまり、最低限のラインはどの学校も同じだけれども、プラスアルファの部分は教員のソフト活用力に依存していることが多いのです。

子供たちの学びの可能性を広げるために、学校にプラスアルファを生む教員のICT活用力を、どうやって高めていくのか。それがカギになってくるのではないでしょうか。

産学官民が交じり合う場所をつくりたい
――これから取り組んでいきたいことはありますか。

産学官民が日常的に交われる場所をつくる計画を進めている

まず一教員として、しっかりと働くこと。その上で、少しでも子供たちの未来のためにできることをやっていきたいです。僕が持っているつながりの中から、子供たちの学びのタネとなるものを、最大限出していこうと思っています。

学校外の活動では、産学官民が交われるような場を立ち上げようとしています。そして、その活動を通して、学校以外とのつながりをたくさん持ったリーダーを育てていきたいという思いがあります。

学校が企業などとコラボレーションができないのは、「当たり前の壁」が立ちはだかっているからです。学校に何か新しいものを入れようとしても、「教員の当たり前」と「企業の当たり前」が違うから、はじかれてしまう。「よく知らない」「どうやって導入されるのか分からない」といった恐怖心が、そうさせているのだと思います。

だったら、最初からお互いの「当たり前」を交ぜられるような場所を作っておけばいいのではないか。お互いをよく知るために、産学官民が日常的に交われる場所を作ろうと、仲間と共に動いているところです。

僕自身は、まだまだ教員としてはスタートを切ったばかりで、悩み、もがく日々です。それでも、若手の立場から学校をボトムアップし、学校以外の場を含めた「教育という場」の可能性を広げていけるよう、諦めることなく挑戦し続けたいと思います。

(松井聡美)

【プロフィール】

小泉志信(こいずみ・しのぶ) 東京都東久留米市立南町小学校教諭。東京学芸大学教職大学院卒。学部時代は特別支援教育を専攻し、教職大学院ではルール教育や道徳を専門に学ぶ。教職大学院在学中に未来の先生と教育を考える団体「せんせいのたまご」を立ち上げ、代表として現在まで運営。文科省の若手官僚やゼロ高等学院とコラボレーションしたイベントなどを行ってきた。今年9月からは教員と教育業界の若手たちの成長を、一歩先を行くメンターたちがプロデュースしていくプロジェクトベースのコミュニティー「Teachers Flag」も立ち上げ、自身もメンティーとして参加しながら運営している。


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