TIMSS2019を深読み 算数・数学の学力推移を国際比較

国際教育到達度評価学会(IEA)が12月8日に公表した「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS2019)の結果によると、調査対象となった小学4年生の算数・理科、中学2年生の数学・理科で、日本は中2数学の平均得点が有意に上昇した一方、小4理科の平均得点が有意に低下した。中2理科と小4算数の得点に有意な変化はなかった。調査全体をみると、日本を含めたアジア諸国がベスト5のほとんどを占め、その中でもシンガポールの高得点ぶりが目立つ。シンガポールは前回の2015年調査に続き、4教科全てでトップの座を占めたが、特に算数・数学では、小4と中2ともに、50%超の児童生徒が625点以上という最上位層に位置している。こうした国際比較のデータから、TIMSS2019を深読みしてみたい。

(教育新聞編集委員 佐野領)


アジア5カ国・地域が上位集団

TIMSSでは、算数・数学と理科が調査対象となっているが、「算数・数学は児童生徒の発達段階に応じた比較がしやすい一方、理科の出題には一定の地域性がある」(国立教育政策研究所)との指摘もあり、ここでは小4の算数と中2の数学について、国別の平均得点の推移をみていく。調査結果は、初回となった1995年の国際平均を500点として基準値に設定し、変化を比較できるように調整されている。

まず、国別の平均得点の推移をみると、小4の算数と中2の数学ともに、シンガポール、香港、韓国、台湾、日本のアジア5カ国・地域が上位集団を形成している。その次にはロシアが平均得点を伸ばしており、小4算数ではイングランド、中2数学ではアメリカも平均得点を伸ばしている=グラフ1グラフ2参照上位5カ国・地域をみると、シンガポールが他の4カ国地域よりも高いレベルを維持している。経済協力開発機構(OECD)が中学3年生を対象に実施している生徒の学習到達度調査(PISA)の2018年調査では、北京・上海・江蘇・浙江の中国4都市が平均得点で1位となり、シンガポールは2位だった。TIMSS2019には中国が参加していないため、シンガポールの児童生徒が算数・数学の学力で世界トップかどうかは判断できない。それでも、シンガポールは小4算数で毎回平均得点を伸ばすなど、トップ級に位置しながらも、さらに学力を着実に高めているようにみえる。

シンガポール 50%超の児童生徒が最上位625点以上に

シンガポールについて、もうひとつ注目すべきことは、最上位層にあたる625点以上の水準に位置する児童生徒が、小4算数で54%、中2数学で51%となり、いずれも過半数を占めていることだ。

TIMSS2019の調査結果には、得点分布をみるため、625点、550点、475点、400点と75点刻みで4つの国際標識水準が設定され、参加国ごとにその水準に達した児童生徒の割合が示されている。この結果に基づいて、上位5カ国・地域について習熟度別の児童生徒の割合をグラフ化してみた=グラフ3グラフ4参照。これをみると、625点以上の児童生徒が過半数を占めたのは、TIMSS2019の参加国・地域(小4=58カ国・地域、中2=39カ国・地域)のうち、シンガポールだけだったことが一目で分かる。

国立教育政策研究所によれば、625点以上を得点した児童生徒は「より高い水準」とされる。児童生徒の特徴は、小4算数の場合、「比較的複雑な場面において理解したことや知識を応用でき、自身の行った推論を表現できる」。中2数学では、「さまざまな場面で推論し、一次方程式を解いたり、一般化を行ったりすることができる」と説明されている。

TIMSS2019の結果をみると、こうした難易度の高い問題に正答できる児童生徒が、シンガポールの小中学校では50%以上を占めていることになる。これに対して、日本の場合、625点以上を得点した児童生徒は、小4算数で33%、中2数学で37%だった。

学習者の適性に応じた指導が奏功か

シンガポールが好結果を残した背景について、浅原寛子・文科省総合教育政策局学力調査室長は「シンガポールは、小中学校全ての児童生徒について、レベルが高い数字になっている。この理由は、何かひとつは難しいが、シンガポールでは教育は常に一貫して政策上の優先課題になっており、教育費は国家予算の16%を占めるなど多くの予算が投じられている」と説明。その上で「小学校卒業試験(PSLE、Primary School Leaving Examination) の成績に基づいて、中学校では将来の進路が異なる3つの課程に振り分けられる、という推薦型のカリキュラムが設けられ、より学習者の適性に応じた指導が行われている。こういったことも影響しているのではないか」と指摘し、それぞれの学習者に最適化された学びの効果が出ているとの見方を示した。

デジタル化が進み、データ分析に基づいた意思決定が求められるデータドリブン社会の到来が指摘される中、論理的思考能力を育む算数・数学の能力向上がますます重要になってきていることは多くの識者が指摘しており、新学習指導要領の方向性にもなっている。日本の児童生徒がTIMSS2019で示した算数・数学の学力は「引き続き高い水準を維持している」(文科省)と評価されているが、児童生徒たちが社会人となったとき、いまよりも数学的リテラシーが求められる時代になっている公算は大きい。TIMSS2019の結果から日本の教育関係者が学ぶべきものは多そうだ。


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