教育観は「みんな違って、みんないい」 伊藤羊一氏に聞く

来年度に新設される武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の、学部長に就任する伊藤羊一氏。これまで「Yahoo!アカデミア」やグロービス経営大学院などで社会人教育に力を注いできたが、大学生には何を伝えたいのか。インタビュー後編は、伊藤氏自身の教育観を聞いた。(聞き手・教育新聞編集部長 小木曽浩介)

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みんな違って、みんないい
――伊藤さんの教育観を教えてください。

「人は変われる」と教育観を語る伊藤羊一氏(右)

まず、大前提として「みんな違って、みんないい」ということ。そしてもう一つ、「人は変われる」ということです。これが私の教育観であり、ビジネス観であり、人生観でもあります。

私自身、あくまで大学は社会に出るまでの通過点にしか過ぎず、何を学びたいかよりも、偏差値や世間の目を基準に人生を選んでしまっていました。大学での日々を振り返っても、「あの4年間はなんだったっけ?」と思うほど、「無」に近いものだったのです。

そうして社会に出た私は、3年でメンタルをやられました。非常につらい時期を過ごしたのですが、その経験が私を教育に向かわせる原動力になっています。

本来、一人一人、みんな違います。「Lead the self」。つまり、自分の人生は自分でリードしていくべきなのです。これはリーダーにも求められることです。

また、「みんな違って、みんないい」とは、みんなをリスペクトするということです。全ての人がこのことを理解したら、世の中からはジェンダーギャップやさまざまな差別、分断もなくなるでしょう。

こうしたことを学べる場所を「Yahoo!アカデミア」や「グロービス経営大学院」でつくってきました。今後は、これまでの私の経験の全てを投入し、武蔵野大学で学生に向けた学びを展開していく決意です。

――学部に入ってくる学生に、まずどんなことを伝えたいですか。

「自分の頭で考えろ」ということです。

義務教育や高校までは、多くの学校でカリキュラム的にも似通ったところがあると思いますが、大学になると違います。

ここから先は「自分の頭で考える」「自分で決断する」ということが重要です。そうでないと、保護者や先生など、他人が敷いたレールの上を進むだけの大人になってしまいます。

本学部では、自分の頭で考え、チャレンジを恐れず、どんどん行動に移していってほしいと思います。

教室はもっとカオスになっていい
――これまで教えてきたのは社会人でしたが、今度は大学生です。意識している違いはありますか。

現在、中学生から大学院生まで30人ほどが参加する私塾をやっているのですが、社会人相手と基本的には同じだと思っています。

ただ、より本質が問われるということは感じています。彼らは大人のように忖度することもないし、本物でなかったら、すぐ見透かされてしまいます。そういう「本物を見分ける力」のようなものは、学生の方が優れているのではないでしょうか。だから、私もより気合が入っています。

よく「まだ子供なのに」などと枕詞がつくことも多いけれども、子供たちと向き合っていると、大人か子供かなんてことは全く関係ないと感じています。

何もやっていない大人と、自分の頭で考えて一歩踏み出した子供の、どちらが優れていると思いますか。大事なのは年齢ではなく、自分の頭で考えて、踏み出したかどうかなのです。

――日本の教育全体についても聞かせてください。義務教育はどう見ていますか。

「学校はもっと自由で、もっとフラットな空間に」と語る

全体の印象としては、自分が学生の頃とあまり変わっていないと感じます。学校教育の根本的な枠組みが変わっていないからでしょうか。

もちろん、素晴らしい志を持った先生もいるし、頑張っている学校もあります。授業も、例えばアクティブ・ラーニングへ変わろうとする動きは感じますが、全体としては、いわゆる暗記型の教育からまだ脱却できているとは言えないように見えます。

学校教育の中で「そもそもあなたは何がしたいの?」と子供たちに自分自身と対話させ、自分の意思を明確にしたり、「自分たちでやってごらん」と子供たちに委ねたりするようなことが、まだまだ足りないのではないでしょうか。

学校は、もっと自由で、もっとフラットな空間をつくっていくべきだと考えています。みんなが座って先生の話を静かに聞いているのではなくて、もっと教室がカオスな状態になっていいと思うんです。

教育の目指すゴールとは?
――教育関係者に伝えたいことはありますか。

教育を通じて、国が変わる可能性があります。一方で、日本は経済成長率が低下し、人口も減少の一途をたどるなど、かなり厳しい状況に追い込まれてきています。

これまでの日本は、経済成長を目指してがむしゃらに働き、稼ぐことが「豊かになる」という価値観でした。しかし、もはやそうではありません。世界のリーダーが集まるとある会議においても、今年の内容はサスティナビリティー一色だったそうです。

経済成長すればいい、人口が増えればいいということではなく、「どうすればこの国がもっとハッピーになるのか」「どうすればみんなが笑顔になれるのか」、そうしたことをみんなで考えるべきタイミングにきているのではないでしょうか。

教育も、生徒・学生はこうあるべき、先生はこうあるべき、保護者はこうあるべき、ということではなく、「そもそも教育の目指すゴールとは?」といった大上段の話から、みんなで一緒になって話し合っていきたいですね。

(構成 松井聡美)

【プロフィール】

伊藤羊一(いとう・よういち) ヤフー㈱コーポレートエバンジェリスト/Yahoo!アカデミア学長/武蔵野大学アントレプレナーシップ学部・学部長(来年4月就任予定)。1990年、日本興業銀行に入行し、企業金融・企業再生支援などに従事。2003年にプラス㈱に転じ、流通カンパニーにて物流再編・マーケティング・事業再編・事業再生を担当。12年に執行役員ヴァイスプレジデントとして、事業全般を統括。15年にヤフー㈱に転じ、企業内大学Yahoo!アカデミア学長として、次世代リーダーの育成を行う。またグロービス経営大学院客員教授として、リーダーシップ系科目の教壇に立つほか、「考えて話す」トレーニングを指導。『1分で話せ』『0秒で動け』(共にSBクリエイティブ)、『やりたいことなんて、なくていい。』(PHP研究所)など著書多数。


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