【デジタル教科書革命】 実証進む小学校の現場から

GIGAスクール構想による1人1台環境の整備が前倒しとなり、次のステップとして注目を集めているのが学習者用デジタル教科書。文科省では、次に小学校の教科書が改訂される2024年度に、学習者用デジタル教科書の本格導入を目指す工程表を作成した。すでに一部の教科では学習者用デジタル教科書が発行され、学習効果の検証が進んでいる。学習者用デジタル教科書で、子供の学びや授業はどう変わるのか。実証校を取材した。

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紙とデジタルの双方の良さを生かす

白黒反転機能を活用する児童(東汲沢小)

机の上には紙の教科書とノート、そして、タブレット端末に映し出されたデジタル教科書が並んでいる。

横浜市立東汲沢小学校(丹羽正昇校長、児童437人)では、6年生の国語でデジタル教科書を使った授業を試験的に実施している。この日の授業の教材は、光村図書の教科書に収録されている「『鳥獣戯画』を読む」(作・高畑勲)。単元の目標は、文章の構成に着目して読み取り、最終的に相手に伝わるように文章表現を工夫して書くことだ。

この日の授業は全9時間構成のうちの3時間目。丹羽校長自らが授業者となり、各段落の内容を踏まえ、文章の構成を児童らに考えさせる活動が主に行われた。子供たちがデジタル教科書を使い始めて間もないこともあり、丹羽校長はスクリーンショットによる画面の保存方法を説明したり、発表時に発表者以外はタブレット端末を操作せずにしっかり話を聞くように伝えたりしていた。

導入して間もないにもかかわらず、子供たちはタッチペンを使って考えをメモしたり、白黒反転機能や音声読み上げ機能を活用したりしていた。授業を参観していた保護者も、「思っていたよりもクオリティーが高い」「子供は自分から触りそう。親も使い方が分かれば、一緒に学べる」「音声読み上げ機能やルビ振り機能などが便利。少しずつそういう補助を外していって、自分で読めるようになればいい」と感想を述べるなど、驚きの表情を浮かべながら子供たちの様子を見ていた。

子供たちも「自由に付箋を貼ったり、線を引けたりできるし、読み上げてくれる機能もあって便利。算数や社会にもあったらうれしい。この方が勉強もやる気が出る」と話すなど好評だ。

授業では、全ての活動をデジタル端末で行うのではなく、黒板に子供たちの発言を板書したり、ノートに自分の考えをまとめさせたりするなど、これまでの授業と変わらない場面も見られた。その理由について丹羽校長は「子供が思考したことをまとめていくには、紙に自分で書く行為が大切だ。デジタル端末は情報を集めるには便利だが、それらの情報を基に自分の考えを表現するためには紙の方がよく、紙とデジタルを行ったり来たりするのが理想だ」と説明する。

一方で、学習者用デジタル教科書の良さについてはこう指摘する。

「これまでの紙の教科書であれば、かなりの時間を読解に費やしていたが、デジタル教科書のさまざまな機能を使うことで、読む時間が圧縮され、その分、子供たちが思考する時間を確保できるようになった。教師の授業準備でも、デジタル教科書を実際に操作しながらシミュレーションができるので、負担が減るのではないか」

児童が注目した部分を電子黒板で共有

子供が注目したデジタル教科書の部分を電子黒板ですぐに共有(第一日暮里小)

他の自治体よりも一足早く1人1台環境の整備を進めたのが、東京都荒川区だ。区立第一日暮里小学校(白井一之校長、児童183人)では今年度、学校予算を使って2年生以上の国語、算数、社会の3教科で学習者用デジタル教科書を購入した。紙の教科書は基本的に机の中に閉まっているものの、ノートはまとめなどの活動で用いるよう、教員間で徹底している。

その背景には「学習者用デジタル教科書は、子供が自力で解決する力や発表する力を身に付けるのに適している。一方で、授業でデジタル端末を使いすぎると、ノートや板書をする場面が減り、子供が何となく『分かったつもり』になって授業が終わってしまいかねない」(白井校長)という問題意識がある。

この日、5年生の算数の授業では、デジタル教科書の画面上のひし形の図形に、子供たちがタッチペンで補助線を引くなどして、その面積を求める学習が行われていた。教師用端末からは、各児童の画面をリアルタイムで確認できるようになっている。全児童が一通り面積を求められた後、児童が一人ずつ自分の端末の画面を電子黒板に映し出して、面積の求め方を説明。さまざまな求め方があることを確認し、最終的にひし形の面積を求める公式にたどり着いた。

また、同じく5年生の社会科では「日本の工業生産の課題」をテーマに、デジタル教科書を活用した授業が行われていた。子供たちは、教科書にあるグラフを拡大したり、重要な記述に線を引いたりしながら、具体的な課題を挙げたり、隣同士で意見交流をしたりしていた。担任の葛城貴代教諭は、子供たちの画面を確認したり、つぶやきを拾ったりしながら教室を回り、ポイントとなる発言をしていた児童を指名。その児童が自分の端末の画面を電子黒板に映し出して説明すると、チョークを使ってその内容を板書にまとめていった。

葛城教諭は「今までは紙の教科書を実物投影機で映していたが、デジタル教科書と電子黒板を使えばそれがすぐにできる。一番良いのは写真が拡大できること。紙の教科書のときよりも、子供たちが気付いたことをたくさん書き込むようになった」と話す。

同校では、国語は光村図書、算数と社会科は東京書籍のデジタル教科書を使用しているが、オプションとなるコンテンツは付けていない。予算的な事情もあるが、白井校長は「あまりコンテンツがあり過ぎると、かえって使いにくい。シンプルな方が授業研究のやりがいもある。教科書が、内容の良さではなくコンテンツの充実ぶりで選ばれてしまうのも困る」と指摘する。

思考を深めるツール

「マイ黒板」を使って思考を整理する児童(戸田東小)

数年前からデジタル教科書の実証研究に取り組んでいるのは、埼玉県戸田市立戸田東小学校(小髙美惠子校長、児童1060人)だ。5年生の教室では、光村図書の教科書に収録されている説明文「固有種が教えてくれること」(作・今泉忠明)を教材に、「日本に固有種が多い理由」や「ずっと固有種が生き続けてこられた理由」の根拠を本文から抜き出し、説明する活動が行われていた。

授業では、同社の国語の学習者用デジタル教科書に搭載されている「マイ黒板」という機能を活用。本文の抜き出したい部分を選択するとカードのようになり、「マイ黒板」に貼り付けられる。

子供たちはこの機能を使いながら、吹き出しや線を使って考えを整理していく。集中して何度も教科書を読み返しながら作業を進め、考えがまとまった段階でスクリーンショットを撮って保存。その後はペアになって考えを説明し合ったり、代表者が全体発表をしたりした。そうして友達の意見を聞きながら、子供たちはもう一度、自分の「マイ黒板」を見直し、理解を深めていった。

授業を行った有泉(ありいずみ)孝一郎教諭は「学習者用デジタル教科書を使うようになって、自分が話す時間が減り、子供たちが自走するようになった。インプットよりもアウトプットを重視するようになり、子供たち同士で考えを伝え合い、深め合うようになっている。デジタル教科書を使うようになってから、学びが子供主体になっていると感じる」と振り返る。

もともと5年生以上で教科担任制を実施している同校。小髙校長は、マイ黒板の機能について、同校が力を入れている「自ら思考・表現をし、他者と学び合い合いながら思考を深める授業」との相性の良さを実感しているという。同校は来年度から新校舎になり、そこでは公立学校では国内でも最先端のICT環境が整う予定だ。

「学習者用デジタル教科書にいろいろなログが残れば、教師だけでなく子供自身が学びの評価に活用できるようになる。学習者用デジタル教科書が当たり前になれば、学びは全く別のフェーズに移行する。本当の意味で学びの主役が子供になり、教員は教える人ではなく伴走する役になるだろう」と語る。

学びを大きく変える可能性のある学習者用デジタル教科書。後編では2024年度の本格導入に向けた課題を掘り下げる。

(藤井孝良)


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