違うからこそプラスに ダイバーシティは弱者救済ではない

マスクで隠れる表情、給食は黙って、体を近づける遊びや、握手も不可…。コロナ禍によって子供たちの日常生活も大きく変わっている。でも、どんな制約があってもコミュニケーションは可能だ。視覚や聴覚に障害のある人たちと一緒にエンターテインメントを楽しむダイアログ・ミュージアム「対話の森」(東京都港区海岸)を運営する(一社)ダイアローグ ・ジャパン・ソサエティ代表理事、志村季世恵さんは「見えないからこそ、聞こえないからこそ、できることがある。前を向くことを教えることができる」と話す。閉塞感に包まれたいまこそ、ダイバーシティを考える好機かもしれない。

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視覚障害者の「地図」を共有
――暗闇のエンターテインメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(以下DID)のアテンド(案内人)を務めている視覚障害者による、オンライン講座を拝見しました。面白い取り組みですね。

東京・竹芝に今年オープンした常設のダイアログ・ミュージアム「対話の森」

学校が臨時休校になり、これは大変なことになったと思いました。私たちも子供たちのために何かできればと、オンラインで子供たちと関わることを試みました。私は視覚や聴覚に障害のあるアテンドスタッフ(案内人)と20年以上一緒に仕事をしていますが、彼らの能力には常に驚かされています。暗算がすごくはやいとか。何月何日は何曜日か聞くと即答し、目では見たことはない星や月の動きを私以上に詳しく説明してくれるのです。

ダイアログのアテンドたちは大学を卒業した人が多く、中には教員もいますし、盲目の弁護士もいました。全てのアテンドではありませんが、多くは特別支援学校を卒業しています。一般校と学習方法が異なることも多く、子供たちとアテンドでその違いを互いに伝え合い、知らないことを教え合えたら、自然とダイバーシティにもつながるのではないかと考えました。

――オンライン講座では「視覚障害者の地図」を、健常者の子供たちが作ってみるという体験がありました。

「感覚マップ」と名付けたものですね。目の見えない人の頭の中にある「地図」を、子供たちに知ってほしいと思ったのです。じつは私は方向音痴なのですね。でもアテンドたちは、目が見えている人が道に迷うはずはないと思っているのです。それで私を信じて一緒に街を歩くのですが、彼らのその予想は外れるわけです。迷って2回3回と同じところを歩いたりする。彼らは「ねぇ、同じ道を歩いているでしょ!」って驚くのです。今度は私がそのことにびっくりします。なんで分かったの?」と。

彼らの「地図」は、たとえば地下鉄は大江戸線が一番下で、その上が何々線で車道はどこを走っていてと三次元なのです。その地図の中に加えているのが感覚的なものです。音とか、匂いとか、交通量が多いとか、ビル風が強いとか。中華料理の匂いがする街角を「台湾エリア」と勝手に命名していたり。

すごく面白いので、そんな楽しい地図作りを子供たちにも伝えたいと思ったのです。それが大人気で今では、N高校さんやNPO法人カタリバさんとも一緒にやるようになりました。

東日本大震災から学んだものを……
――緊急事態宣言が出てから、オンラインで何をするかを考えたんですか。

「東日本大震災のときの経験が生かせると思った」と志村さん

そうです。三日徹夜をして作りました。いまこの時期だからこそやれることがあるはずだと。それは9年前の経験があったからでした。

東日本大震災の後、DIDを福島に持ってきてほしいと、福島の子供たちからリクエストがありました。その際、不登校のお子さんが通っていた通信制サポート校の教室をご提供いただき(現おおぞら高等学院)、そこでDIDを数日間開催したのです。通常ですと、その際の会場施工は私たちが行いますが、生徒さんと目の見えないアテンドが準備の段階から交流できるように会場作りも一緒にしました。

通っていた学校が異なるため制服も別々。普段は生徒同士の会話はなかったそうですが、アテンドが加わることで会話は促進されます。またミーティングにも参加してもらい、後半は子供たちが先頭を切って動いてくれました。

いよいよ本番となり、一般のお客様が一筋の光も見えない漆黒の暗闇にやってきました。視覚障害者に案内されながら、さまざまなシーンで遊び、対話をするエンターテインメント。見えないことで、見た目の偏見から解放され、対等に出会うことができます。

ご体験者は福島市内や郡山に暮らす方が多かったのですが、原発事故の緊張感があり、常に緊張していると仰っていました。けれど暗闇の中、声を掛け合い、協力し、助け、楽しむことで、その気持ちが緩まったと仰っていたのです。

後日談としてですが、開催後、半数以上の生徒が自分の学校に戻ったとうれしいご連絡をいただきました。震災という苦しかった時期の開催でしたが、このような経験はコロナ禍でも生かされると感じての、オンラインでの取り組みだったのです。

子供たちに体験してほしい
――これまでの「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は大人向けのエンタメというイメージでしたが、教育として取り組んでいくということですね。

DID開催国は世界50カ国ありますが、日本以外の海外諸国では、ダイアログの体験者は60%が子供たちです。学校教育の一環としても使われていますが、日本では佐賀県で3年間、学校教育の一環としてDIDを実施しました。その際、海外同様に高い効果があることが分かり、ダイバーシティはもとより自己肯定感が上がる、他者理解が深まる、という結果も出ました。非常時だからというのではなくて、海外のように日本中の子供たちに体験してほしいと願っています。

――学校におけるダイバーシティ教育について、どんな風に考えていますか。

ダイバーシティとは、多様性を理解すること

障害者は何もできないかわいそうな人ではありませんが、伝え方によってはそう捉える子供もいると思います。ダイバーシティというのは、弱者を受け入れることではなく、多様性を理解するというものです。もちろん協力し、困っている時には声を掛け、助けるのは大切なことです。でも弱い強いではありません。私は毎日のように障害者のスタッフから助けられながら仕事をしています。

世の中にはさまざまな人がいる。そしてそこには独自の知恵や文化があることを知るのが重要なのです。いろいろな人がいることを知って、互いに工夫すれば、もっと豊かな世の中になるでしょう。それを子供のうちに理解できたなら、素晴らしい気付きを得ることができますよね。

(篠原知存)

【プロフィール】

志村季世恵(しむら・きよえ) 20代からセラピストとして活動。ドイツが発祥の「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を知り、日本での普及に尽力。現在はダイアローグ ・ジャパン・ソサエティ代表理事。著書に『さよならの先』『いのちのバトン』など。4児の母。


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