違うからこそプラスに ディズニーランドよりも行きたい場所に

ダイアログ・ミュージアム「対話の森」(東京都港区海岸)には、3つのアトラクションがある。視覚障害者がアテンドする「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(現在はコロナ対策でダイアログ・イン・ザ・ライトとして開催)、音が聞こえない世界を体験する「ダイアログ・イン・サイレンス」、そして高齢者と一緒に楽しむ「ダイアログ・ウィズ・タイム」だ。(一社)ダイアローグ ・ジャパン・ソサエティの代表理事、志村季世恵さんは「修学旅行はディズニーランドにする? ダイアログにする?」と選んでもらえる存在になりたい」と話す。(全3回の第2回)

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こういう状況で大事なことは
――聴覚障害者に音のない世界をアテンドしてもらう「サイレンス」を体験しましたが、ウィズコロナ時代のコミュニケーションの在り方を考える機会になりました。

音のない世界を楽しむ「ダイアログ・イン・サイレンス」

コロナ感染防止のためにマスクは必需品になりましたが、マスクをしていても笑顔までなくしてしまうなんて、もったいないと思います。表情やジェスチャーで気持ちを伝えることだってできます。それに「おはよう」「こんにちは」「ありがとう」「いいね」「困ってる」……。そんな当たり前にあった大切なことを言ってはいけないなんて、誰も伝えてはいないはず。だけど日本人は雰囲気に流されやすく、空気を読むので、抑制が強くなってしまう傾向がありますよね。

いま、こういう状況だからこそ、声を掛けること、目をかけることが、家庭でも学校でもとても大事だと思っています。「サイレンス」は、言葉を使わなくても相手とコミュニケーションがとれる、そんなエンターテインメントです。身振り手振りを使い、気持ちを乗せ、相手の目を見て伝えると、少し難しくてもちゃんと通じる。そして、少しでも手話ができれば、もっとたくさん伝わるということが分かる。

「サイレンス」で学べるコミュニケーションの手法は、ウィズコロナの状況に役立つはずですし、コロナが収束した後も、この状況で培ったものを伸ばしていけると信じています。ダイバーシティについても、実際に聞こえない人と出会って意思疎通ができたという体験を通じて理解ができる。ここで体験した子供たちは、聞こえない人と友達になれます。エンターテインメントを通し、簡単な手話もいくつか覚えることもできるのです。

外国語教育のように、自分たちの国の中でも違う言語を使っている人がいるということを、知れたらいいですよね。自分のクラスに外国から来た転校生を受け入れることも出来やすいですし、聴覚障害者の友達を理解することもできます。知っていた方がいい。置いてきぼりになる人を、自分たちの働き掛けで減らすことができるということが分かる。例えばクラスの中に、言葉が聞き取りにくい子がいる。どうしたらいいだろうという工夫が生まれてくる。そういう子供が増えれば、すごくすてきなことが起きますよね。

不便さに対する工夫を伝えたい
――ウィズコロナの状況では、なおさら大切さが実感できますね。

「きっとすてきなことが起きる」と、いつもブラス思考

サイレンスのアテンドスタッフ(案内人)の中には、一般校に通っていた人も多くいますが、耳が聞こえないために相手が何を話しているのか分からない。言葉が通じない。クラスに大勢の人はいても、自分だけ孤立していた。そんな経験を持っているので、コロナ禍で孤独を抱えている人がいることに胸を痛めています。だからこそ、いま何か大切なことを発信できるかもしれないと、アテンドたちも思っているようですね。

――前を向こうと思えば向けるということですね。

はい、そう思います。以前、いじめにあっているお子さんが「サイレント」を体験してくれました。最後の部屋で、遮音ヘッドセットを外して対話するんですが、彼は自分には友達がいないと明かして、「ここで大人とも子供とも友達になれたのがうれしい。おしゃべりもしていないのに不思議」と話してくれました。

アテンドが「私も学校に行っているころは一人ぼっちだったよ」と応じたら、その子は「そんなに明るいのに?」とびっくりしたそうです。学校でやることがないと思っていたそうで、アテンドが「私は本をいっぱい読んで世界を広げた。友達がいなくてもやれることはいっぱいあるよ」と伝えると、「僕も読書をする!」と言ってくれたそうです。

アテンドが経験したことを、対話を通じて伝えられる。それが役に立ち笑顔を見せてくれたり、元気になってくれたりするから、アテンドの方も子供たちに積極的にかかわりたいと願っている。とくにいま、コロナ禍の中でみんな不便さを抱えている。その不便さに対する工夫は、自分たちが一番知っている、とアテンドたちは言うのです。私も彼らを見ていて、それを実感しています。

体験した文科相からも好評価
――今年8月にオープンさせた「対話の森」が、今後は拠点になるのですか。

ダイアログは2017年の夏に、東京・外苑前の常設施設を手放した経験があります。東京オリンピック・パラリンピックが決定したことで、地価が高騰したのが理由でした。それから3年の準備を経て、学校単位で来てもらえる施設をやっと作れました。バスの駐車スペースもありますので、遠足あるいは修学旅行の候補にしてほしい。海外のように学校教育の一環に位置付けてもらいたいと思っています。「修学旅行はディズニーランドにする? それともダイアログにする?」なんて選んでもらえるようになったらと、心から願っています。

日本の子供たちが孤独を感じているという統計データを見るたびに、「大人が子供のことを考えている時間はその国の民度と比例する」というユニセフの言葉を思い出します。今、全ての大人が子供の心の声に耳を傾ける必要があるのだと感じています。

ですので、オープン前に萩生田光一文科相が来てくださったのはとてもうれしかったです。「コロナ禍のいま、黙って教室で過ごすのではなくて、ちょっとした身振り手振りとか、できることがたくさんあるのを体験できるのがいい」と仰っていただきました。コロナ禍で教育現場の皆さんは本当に苦労されていると思いますが、「できることがある」とアピールしていきたいです。

――「ダイアログ・ウィズ・タイム」は他の二つとは違った印象も。

「対話の森」はコミュニケーションの多様性を学べる場所

「タイム」は75歳以上の後期高齢者がアテンドです。生きるのは素敵なことだと共有するのがコンセプト。歳を取るのはなんとなくネガティブに思われがちです。でも一方で、長老を尊ぶ文化もある。「タイム」はいのちの尊さを感じ、意識を変えれば、いくつになっても自分を成長させることができ、その培われた経験や知恵を生かせることができることを、エンターテインメントを通し感じることができるのです。

じつはアトラクションの中でこの「タイム」が一番リアル。「サイレント」の聞こえない世界、「ダーク」の見えない世界とは少し違った出会いです。だって必ず自分にも同じことが起きるのですから。歳を取ってできないこともあるけれど、できることだってたくさんある。挑戦する力が湧いてくる。「タイム」の世界観に感動して、大人でも泣く参加者が多いんです。アテンドたちも元気になるし。高齢者の雇用促進にもなり、三方良しですね。

(篠原知存)

【プロフィール】

志村季世恵(しむら・きよえ) 20代からセラピストとして活動。ドイツが発祥の「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を知り、日本での普及に尽力。現在はダイアローグ ・ジャパン・ソサエティ代表理事。著書に『さよならの先』『いのちのバトン』など。4児の母。


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