新型コロナウイルスに社会が翻弄(ほんろう)された2020年。コロナ禍は世界中の学校教育に大きな打撃を与えたが、一方では学校の持つ社会的役割が再評価され、新しい技術を活用した学びの可能性も広がった。教育新聞が12月7~14日に実施した読者投票「Edubate」の結果(グラフ参照)を踏まえ、教育のターニングポイントとなったこの1年を振り返る。
突然の一斉休校で大混乱した学校現場
全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、来週3月2日から春休みまで臨時休業を行うよう要請する――。各地で新型コロナウイルス感染拡大への懸念が広がりつつあった2月27日夕方、安倍晋三首相(当時)は記者会見を開き、こう呼び掛けた。週明けからの突然の「一斉休校」に、「休み中の課題はどうするのか」「急に子供が家にいることになっても仕事を休めない」「卒業式はどうなるのか」など、学校も保護者も大混乱に陥った。
さらに感染拡大は続き、春休みが明けようとしていた4月7日には緊急事態宣言が7都府県で出され、16日には全国に拡大された。結果的に多くの地域で5月下旬まで休校が続き、その間は外出自粛も要請され、子供たちの行動も大きく制限された。
そうした厳しい状況の中、子供たちがいない学校では「学びの保障」に向けた教師たちの奮闘が始まった。多くの学校が、直接の対面を極力避けるために電話などで家庭に連絡し、子供の様子を把握しようと努めた。さらにはZoomなどのテレビ会議システムを活用した「朝の会」や、動画配信による「オンライン授業」などの取り組みも広まっていった。
こうして3カ月にわたり子供が学校に行けなくなったことで、多くの人が学校の存在意義や学びの重要性をかみしめることとなった。
感染防止対策で疲弊する学校現場
学校再開後は、別の問題が学校現場に重くのしかかった。マスクの着用や換気の徹底に加え、放課後に校舎の至るところを消毒するなどの「感染防止対策」が各地の学校で行われ、教職員の大きな負担となった。さらに、休校中の授業の遅れを取り戻そうと、土曜授業を行ったり、学校行事を減らしたりするなど、学校現場はゆとりを失っていった。
そんな中、こうした授業の遅れを帳消しにする秘策として、にわかに盛り上がったのが「9月入学」を巡る議論だった。しかし、収束の見通しが立たない中で入学時期を半年遅らせることのデメリットの大きさを指摘する声も上がり、中長期的な課題として教育再生実行会議で検討されることとなり、実質的に見送りとなった。
そして、学校の働き方改革が本格化しようとしていた矢先の非常事態に、学校現場からは悲鳴が上がった。
NPO法人「共育の杜」が7都府県の教職員に行った調査では、持ち帰り時間も含めて、月当たり80時間超の過労死ラインに相当する時間外勤務をしていた割合は▽小学校(公立のみ) 57.0.%▽中学校(公立のみ) 62.8%▽高校 40.7%▽特別支援学校 40.8%――と、全体で56.2%を占め、学習の遅れの回復や校内の消毒作業、感染拡大防止のための指導など、新型コロナウイルスによって増えた業務が負担になっている様子が示された。
また、コロナ禍は子供たちの心身にも暗い影を落とした。国立成育医療研究センターが継続的に行っている「コロナ×こどもアンケート」の第3回では、学校再開後も小中高校生の3人に1人が「学校に行きたくないことがある」と回答。生活リズムなどにも影響を与えていることが分かった。
さらに、コロナ禍による経済状況の悪化は、ひとり親家庭をはじめとする経済的に厳しい家庭を追い詰め、「教育格差」の拡大、子供の貧困の深刻化などを招いたことがさまざまなデータから指摘されている。就職や進学の進路変更や中退を余儀なくされる高校生や大学生の増加も懸念され、中長期的な視点に立った対策や支援が求められている。
GIGAスクール構想で世界最先端のICT環境が実現する
休校中にオンライン授業を実施する上で課題となったのが、学校や家庭のICT環境だった。日本の学校は、先進国の中でもICT化が遅れており、政府の「GIGAスクール構想」で段階的に整備されることが決まっていたものの、「もっと早くに実現していれば、休校中のオンライン授業ができていたのに」というのが多くの関係者の本音でもあった。
そうした状況を受け、政府は4月7日に2020年度第1次補正予算案を閣議決定し、2020年度中に各自治体が小中学校の全学年に学習者用コンピューターを配備し、高速インターネット環境を整備するようにする方針を固めた。GIGAスクール構想の前倒しによって、1人1台環境の実現が一気に加速した。
しかし、1人1台環境が整ったところで、教員が授業で使いこなせなければ意味がない。「新学習指導要領の全面実施」が進む中、「ハイブリッド指導」など、1人1台でこれまでにできなかった資質・能力ベースの学びが本当に展開できるのか、教員へのICT活用能力の向上も含め、課題は山積している。
さらに政府は、今年度第3次補正予算案で、高校の1人1台環境の実現に向けた取り組みも進める方針を掲げた。菅義偉首相が力を入れるデジタル庁創設と連動しながら、学校のICT化を巡る動きは今後、教育ビッグデータの活用や学習者用の「デジタル教科書」の導入など、世界最先端を目指した施策が展開されることになる。
一方、感染防止対策を理由に検討されていた「少人数学級」は、大臣折衝という最終段階まで財務省との交渉が平行線をたどり、何とか小学校についてのみ、21年度以降、5年間をかけて段階的に35人学級が実現することになった。しかし、仮に35人学級となってもOECD加盟各国の中で突出して多い状況に変わりはない。
また、感染者数が多い中学生や高校生が40人学級のままというのも、感染防止対策という目的とは矛盾している。中教審が提言している小学校高学年での「教科担任制」の導入と、どう整合性を取るのかも明確ではない。これらの課題は、エビデンスを基に今後も国民的な議論を継続していく必要があるだろう。
ピンチをチャンスに、チャンスをカタチに
コロナ禍によって、これまでの学校の「当たり前」が大きく変わらざるを得なかった2020年。この危機によって、分かったことも多くあった。例えば、オンライン授業を実施したことで、学校にいなくてもさまざまな学びができることが分かった。その一方で、リアルでしか学べないことは何かを考える機会にもなった。不登校の子供たちが、オンライン授業ならば参加できるケースがあることも報告された。
コロナ禍によって、ライフスタイルも大きく変わった。テレワークが普及し、働き方も変わった。一方で、公立学校の教員には、21年4月から1年単位の「変形労働時間制」の導入が可能となり、一部の自治体で関連する条例の整備などが進んでいる。こうしたコロナ以前の議論は、果たしてアフターコロナでも有効なのかどうか、検討し直しを求める声もある。
21年最初の大きな変革は、第1回目の「大学入学共通テスト」の実施だ。昨年の今ごろは、英語民間試験の活用延期や国語と数学の記述式問題の導入見送りなどが決まり、文科省内に設置された「大学入試のあり方に関する検討会議」では現在も、仕切り直しに向けた議論が進められている。そして夏。2020年は延期された東京五輪・パラリンピックがどうなるかも、学校現場に影響を与えそうだ。
(藤井孝良)
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