【北欧の教育最前線】探究学習でウィキペディア執筆

日本の新しい高校学習指導要領では「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」となり、「理数探究」「古典探究」「地理探究」など、「探究」を重視する方針が打ち出されている。スウェーデンの高校でも探究的な学習は行われており、学習を生徒の進路や社会と結びつける重要な機会になっている。

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次の進路に直結する学習
北方民族博物館

探究的な学習は、全学科必修の「高校活動(gymnasiearbete)」という科目で行われる。高校での学習を締めくくる卒業論文・卒業制作のような活動だ。

教科横断的な学習は以前から行われていたが、高校活動は2011年のシラバス改訂で、各学科の専門教育を重視し、進路に結びつく学習を行う科目として設定された。この科目では、高校卒業後の就職や進学の準備ができたことを示すことが狙いとされ、生徒は高校で得た知識やスキルを総動員して、専門分野の作品づくりや課題解決、論文執筆に取り組む。

職業系の学科では、15週間の職場実習の延長で、各職場で作品作りや課題解決に取り組むことが多い。例えば、顧客の自動車を実際に整備したり、商品を開発したりする。進学系の学科では、各専門分野の研究に取り組んで論文を書いたり、芸術分野では作品を作ったりする。

学校教育庁のウェブサイトには各学科の取り組み例が示されており、人文学科で「歴史映画と専門書における、ローマの剣闘士の描かれ方の比較検討」を行ったり、社会科学学科で国際交流を踏まえて「スウェーデンと英国の高校における生徒民主主義の違い」を調査したりと、大学の卒論のようなテーマが並ぶ。

分野や課題による差異が大きいため、全国共通のシラバスや共通の評価基準はない。しかし、芸術作品の制作以外では、課題設定、探究活動の実施、まとめと報告および議論を行うことは共通していて、論文にまとめる際には、英語かその他外国語での要旨をつけることが求められる。

授業は合計100時間以上、つまり、半年なら毎週1日程度と、多くの時間を充てることになる。実際には、発表会や校外活動も含むため、毎週の時間割に設定される時間数はこれより少ないが、最終学年の重要な科目として位置付けられている。

こうした学習をサポートする教師は、探究活動の作法や要点を深く理解している必要がある。成績は合格か不合格で付けられるが、担当教師に加えて、専門分野に詳しい教師や実習先の指導者などの判断も参考に、専門的に検証することになっている。

実社会とつながる学習

高校活動での学習を、学校と実社会とがかかわる機会としてとらえている事例もある。
北欧の歴史と文化を展示している北方民族博物館は、文化史分野における高校活動を支援している。「ウィキペディアに文化史を書き込もう」という学校向けプログラムだ。北方民族博物館に所蔵されている資料やアーカイブを利用して、高校生がテーマを決めて、ウィキペディアの記事を作る。この活動は2016年に始まり、毎年2~5校が参加している。

テーマ設定から記事公開に至るまでには、文献調査、引用する資料や写真の収集・選定、記事の構成、執筆と編集などのステップで必要な学習や支援が準備されている。とくに本連載の11月28日付の記事でも取り上げた「史料批判」――情報の信頼性や妥当性を批判的に検討すること――は、公開される記事の信頼性を左右する重要な学習内容だ。

ウィキペディアの運営に関わるウィキメディア財団の国別協会である「ウィキメディア・スウェーデン」の協力を得て、記事作成や編集の方法などの学習動画も用意されている。

新しく作成された記事は、スウェーデンのさまざまな文化人や事件から、「1920年代のスウェーデンの服装と流行」「スウェーデンの児童労働」といった文化・社会的事項まで、50項目にものぼる。

これに加えて、既存の60以上の記事が加筆された。各記事には多くの引用・参考資料が明記されており、アーカイブからの引用のほか、研究論文、小説・随筆などの出版物、ウェブサイトなど、多様な資料が利用されていることが分かる。すべてウィキペディアのページで見ることができ、いくつかの記事については執筆した高校生がYouTubeでも紹介している。

身近なリソースを活用し、それを専門的に深め、発展させながら、高校生の探究スキルを磨く機会は、私たちの周りにもあるかもしれない。

(本所恵=ほんじょ・めぐみ 金沢大学人間社会研究域准教授。専門は教育方法学)


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