【特別支援×ICT】学びをカスタマイズする

2014年からiPadを使って、さまざまな実践を積み重ねてきた東京都立石神井特別支援学校の海老沢穣教諭は「授業スタイルを変えなければ、 ICTが持つ本来の可能性を発揮できない」と指摘する。ICTを活用して、子供の実態に合った実践を行うためのポイントとは――。(全3回の第2回)

この特集の一覧

自分から発信すれば情報は集まる
――現在は知的障害がある子供たちを指導されていますが、障害の種類によってICTの効果的な使い方は違うのでしょうか。
自分がやってみたICTの実践は積極的に発信している

私は以前、肢体不自由のある子供たちが通う特別支援学校に勤務したことがあります。肢体不自由の子の場合、例えば視線で文字を入力するなど、身体のハンデを補完するツールとしての役割が大きく、その分野は非常に発展しています。

また、発達障害で読み書きに困難のある子は、自分が「文字の読み書きが苦手だ」ということをよく理解しています。そうしたケースの場合、タブレット端末は鉛筆や消しゴムと同じ文具です。自分が苦手なことをうまく補完してくれるので、どんどん使っていくとよいでしょう。

しかし、本校のような中重度の知的障害のある子供たちは、身体のハンデはなくても、自分がどういうところに困っているかについて理解するのが難しい。例えば、「タブレット端末を使えば、どの子も文字が読める」ということにはならないので、ICTを「障害を克服するためのツール」としてのみ捉えてしまうと、活用の可能性が狭まってしまいます。

あるいは「文字がうまく書けないから、文字を練習するためのアプリをやる」という使い方もあるのですが、私は子供たちの言語じゃない部分の面白さをうまく引き出すツールとして使った方が可能性も広がるし、ワクワクできると思っています。

――そうしたワクワクできるようなICTの実践は、どのように思いつくのですか。

ICTに精通している先生方の実践はよく見るようにしています。私が代表を務めている「SOZO.Ed(ソウゾウエド)」にはICTの実践を楽しんでいる先生がたくさんいて、刺激を受けています。そうした実践の中から、目の前の子供たちの実態に合って、使えそうだなと思ったものを参考にしています。

また、知的障害の子が通う特別支援学校の、ICT教育に興味がある先生たちのメッセンジャーグループも作っています。現在、北海道から沖縄まで30人前後がつながって、実践などについて情報交換をしています。

ICTは日々進化していくので、知らないこともたくさんあるし、全ての情報は追いきれません。アンテナを張ることも大切ですが、自分から「こんなことやってみた」などと発信をしていると、いろいろな情報が集まってくるようになります。

最近は、若手の教員を中心に、SNSなどで自分から発信する人が増えています。発信を続けることで、いろんなことにチャレンジするようにもなりますし、学校外のつながりもできます。その結果、受け取るものも大きくなるので、ぜひ続けてほしいですね。

自分の学びをカスタマイズできる
――コロナ禍でGIGAスクール構想が大きく前進し、年度内には多くの学校で1人1台の環境が整う予定です。
ICTをうまく活用すれば子供はもっと学びに集中できる

先日、東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹先生がおっしゃっていたのですが、1人1台端末があると、子供たちはテキストの色を変えたり、フォントを変えたり、自分が一番見やすい設定にするんだそうです。

黒板の字はどれだけ先生がきれいに書いても、読みにくい子にとっては読みにくい。でも、ICTを活用すれば、自分が一番読みやすい表示にカスタマイズできるのです。

本校の子供たちを見ていても、文字入力の仕方一つとってもさまざまです。音声で入力する子もいれば、スマホのようにフリック入力する子、かなで一文字ずつ入力する子もいます。子供によって、自分のやりやすいように設定や使い方を変えています。

「文字で表現する」ということが目的ならば、そのやり方はいろいろあっていいはずです。それが端末ならできるけれども、紙と鉛筆だととめやはね、はらいが気になり、マスからはみ出るとダメだと指導してしまう。でも、そういうことが本質ではないはずです。

子供は、やり方を問われることがなければ、自分のやりやすい方法を探して、もっと学びそのものに集中できるのではないでしょうか。そのためにもICTをうまく活用していってほしいと思います。

もっとICTを学びに使おう
――1人1台が実現後、ICT化を推進していく上で、注意すべき点や心配していることはありますか。
「今の授業スタイルではICTが持つ本来の可能性を発揮できない」と指摘

おそらく、どの学校でも教員が一番心配しているのは、「1人1台になると子供たちは動画ばかり見てしまうのではないか」ということでしょう。そうならないように、動画視聴を制限したり、変なものを撮られては困るから端末のカメラ機能は使えないようにしたりするのではないかと危惧しています。

実際、子供たちを見ていると、まだまだ「iPad=YouTube」と感じるところもあります。大人もパソコンやタブレット端末でやることが、ゲームやSNS、動画視聴がメインになっていて、遊び道具としてしか使えていないのが現状です。

私は、もっと大人も学びとしてのテクノロジーの面白さを体感すべきだと思います。大人がそれを知らないから、先回りして規制しようとするのです。

一方で、ICTに関しては、大人よりも子供の方が長けている部分がたくさんあります。「大人が全部知っておかないと使えない」となってしまうと、全く前に進まないので、ある程度は子供たちを信頼して任せることも必要だと思います。

端末が入ると、教室は今よりずっとカオスな状態になるでしょう。教員がそれに耐えて、乗り越えられるかが、ICTの活用を推進していく上で一つの鍵になると思います。

また、一斉授業の中でICTを無理やり使おうとしても、多分難しいでしょう。授業スタイルが変わらないと、ICTが持つ本来の可能性を発揮できないのではないでしょうか。

1人1台になると、子供たちは自分で主体的に調べたり、まとめたりということができるようになり、教師の指示を待つこともなくなります。それぞれが調べて、それを持ち寄って、一つのものを完成させるような授業であれば、ICTはとても生きると思います。

(松井聡美)

【プロフィール】

海老沢穣(えびさわ・ゆたか) 都立石神井特別支援学校指導教諭。知的障害がある子が通う特別支援学校でICTを積極的に活用した授業実践に取り組んでいる。東京都教育委員会2019年度職員表彰受賞。Apple Distinguished Educator Class of 2017、NHK for School番組委員、SDGs for School認定エデュケーター。「ICT」「Creative」「Education」をキーワードに、都内の小学校から高校教員を中心に結成したProfessional Learning Community 「SOZO.Ed」の代表も務める。


この特集の一覧
関連