【特別支援×ICT】共生社会をどう創っていくか

障害のある人がいない中で、社会課題をテーマとしたPBLに取り組んでいることに違和感を覚える――。知的障害のある子が通う東京都立石神井特別支援学校の海老沢穣教諭は、現状の学校教育の在り方にそう疑問符を投げ掛ける。ICTを活用しながら、どのように共生社会を創っていくべきかについて聞いた。(全3回の最終回)

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障害のある子と共に学ぶPBL

「SDGsでもダイバーシティを取り上げる実践例が少ない」と指摘する

――新学習指導要領では、学校種を問わず総則に特別支援教育に関する記述が見られるなど、共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの推進がうたわれています。現状について、感じている課題はありますか。

通常学級では、社会課題をテーマにしたプロジェクトベースの学習が展開されていくわけですが、障害のある人がいないところで取り組まれるという現状にすごく違和感を覚えています。本当は世の中に障害がある人が何%もいるのに、いない集団の中で、学校での学びが成立してしまっているわけです。

今はSDGsに熱心に取り組んでいる学校もたくさんあります。それ自体は本当に素晴らしいことですが、テーマとして環境のことはよく取り上げられても、ダイバーシティ(多様性)の実践例はほとんど出てきていないのではと感じます。障害のある子がいない集団の中で考えているから、テーマとして身近に感じられないためだと思います。

そもそも、特別支援学校は、学校に来られなかった子たちの学校として作られた経緯があります。全ての重度・重複障害児が義務教育の対象となったのは、1979年です。それまでは重度・重複の障害がある子供たちは就学猶予・就学免除の対象とされていました。それが同年に養護学校が義務化され、2007年に特別支援学校となりました。

今も教育委員会では就学する際に就学指導というのが行われていて、担当者から「支援学級がいいでしょう」「支援学校の方がいいでしょう」などと言われ、子供たちは分けられてしまいます。一人一人の子供たちに一番適した教育機関はどこかを検討することはもちろん大切ですが、いざ特別支援学校に通うとなると、その子は地域から離れることになり、スクールバスでかなり遠くの学校に通うことになる子がたくさんいるのです。

――障害がある子は地域の学校に通えない現状があるのですね。

「障害のある子と共に学んだ子たちがもっと増えれば」と期待を込める

例えば、特別支援学校に通う子も自分が住む地域の学校に副籍があるので、その学校の音楽や体育などの授業に参加するということも、ないわけではありません。でも、結局その場合は保護者が地域の学校に連れて行くことになるので、かなりハードルが高く、子供たちもお客様的に参加することになってしまいます。

特別支援学校に通っている子供たちは生き生きと楽しそうに過ごしています。でも、社会とはなかなか接点がないんですよね。

一概に、みんなと一緒に学べることがよいとは言えません。何の支援もなく、ただ一緒に授業を受けるだけでは、障害のある子は分からない授業をただ座って聞いているだけになってしまうでしょう。

例えば、プロジェクトベース型の学びだけでも、ICTを活用しながら障害のある子がそこに参加して、「この子ができることは何だろう」とか「この子はこういうことが得意なんだ」などと互いに学び合い、それぞれの強みを生かしながら学んでいくことができないものでしょうか。

現状は、お互いがお互いを知らないだけです。障害のある子と共に学んだ子たちが増えれば、物事を考えるときに必ずその視点が入るようになると思うんです。

障害のある人の生涯学習

「障害のある子の社会参加を変えていきたい」と語る

――これから取り組んでいきたいことはありますか。

今、文科省とNPO法人ピープルデザイン研究所が、障害がある人の生涯学習をテーマに「超福祉の学校」というプロジェクトを立ち上げていて、その活動に私も関わらせてもらっています。

障害のある子供たちの「学校を出て終わりじゃない学び」を保障していくために、ICTをうまく活用できないか、福祉分野の人たちとコラボレーションしながら考えています。

これからGIGAスクール構想が進んでいくと、子供たちは学校にいる間は端末もクラウドのIDもあるけれど、学校を卒業すると、全部引き上げられてしまうという事態が起きると想定されます。今後はもっと「これで自分を表現できる」「いろんなアイデアを作れる」と子供たちが思えるような体験を学校での学びに取り入れ、ICTを使ったアウトプット力を高めることで、卒業後の生活にもちゃんとつなげられるようにしたいのです。

――子供たちの学校のその先を広げていくのですね。

特別支援教育の目標は、自立と社会参加です。「社会参加」と言っても、これまで想定されてきた社会は、与えられたことを正確にこなす「定型業務」が中心の社会でした。だから、私たちもそこに向けて子供たちを指導してきたわけです。

でも、これからの社会は、与えられたことを正確にやるスキルではなく、もっと斬新なアイデアが求められるようになっていきます。そうした社会になったときに、障害のある人たちのアイデアが生かされ、それが彼らの仕事につながったり、新しい職層を開拓したりといったところまでいけないかと考えています。

企業も障害者雇用を進めなければいけませんが、現状は何をすればよいのか分からないのだと思います。企業側にも変わってほしいですが、こちらからもいろいろなアイデアを出して、「実は子供たちにはこんな面白いことができますよ」というものを提案できるようにしたいですね。それが、子供たちの社会参加の可能性を広げることにつながると信じています。

(松井聡美)

【プロフィール】

海老沢穣(えびさわ・ゆたか) 都立石神井特別支援学校指導教諭。知的障害がある子が通う特別支援学校でICTを積極的に活用した授業実践に取り組んでいる。東京都教育委員会2019年度職員表彰受賞。Apple Distinguished Educator Class of 2017、NHK for School番組委員、SDGs for School認定エデュケーター。「ICT」「Creative」「Education」をキーワードに、都内の小学校から高校教員を中心に結成したProfessional Learning Community 「SOZO.Ed」の代表も務める。


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