共通テストで「情報」出題へ 2025年までの期待と課題

初実施された大学入学共通テストだが、4年後の2025年には新たな教科として、新学習指導要領で必履修となった「情報Ⅰ」に対応した科目「情報」が加わろうとしている。大学入試センターが昨年末に「試作問題」を作成するなど、着々と準備が進んでいる。情報の基礎的な能力を大学入試で問うことに、関係者からは歓迎の声が上がる一方、高校現場や大学側には懸念もある。幅広い関係者の声を聞きながら、期待される成果や課題を検証していく。


幅広い受験者を想定した試作問題

情報科はこれまで、「社会と情報」「情報の科学」のいずれかを必ず履修する「選択必履修」だったが、22年度の入学生から順次実施される高校の新学習指導要領では、「情報Ⅰ」が「必履修」となり、選択科目として「情報Ⅱ」が設置され、高校では全ての生徒がプログラミングのほか、情報セキュリティーを含むネットワークやデータベースの基礎などを学習することになった。また、今回の学習指導要領の改訂で、小学校・中学校・高校でプログラミング教育も充実。問題の発見・解決におけるデータの利活用が盛り込まれるなど、AI人材の育成を掲げる政府方針の要となる教科と位置付けられている。

こうした学習指導要領の改訂を受けて、政府は18年6月に、「情報Ⅰ」に対応した科目を共通テストに出題する考えを明記した「未来投資戦略2018」を閣議決定。新学習指導要領で学んだ最初の学年が受験する25年1月実施の共通テストに照準を合わせ、検討がスタートした。

大学入試センターが公表した試作問題の一部

この高校の新教育課程に対応した共通テストの出題教科・科目については、大学入試センターで検討が行われており、昨年中に大学や高校団体から意見が寄せられ、これを踏まえて年度末の取りまとめに向けた検討が進んでいる。中でも「情報Ⅰ」に対応した科目「情報」については、「試作問題」を11月上旬に作成し、大学や高校、関連学会などの関係者に示した。

この試作問題の作成について、大学入試センターの白井俊試験・研究統括補佐官・試験企画部長は「『情報』の出題の内容のイメージがつかないという大学・高校関係者の声があり、先行的に『情報』について試作問題を用意し、関係団体に提供することにした」と説明する。

この試作問題は「情報Ⅰ」の学習内容である▽情報社会の問題解決▽コミュニケーションと情報デザイン▽コンピューターとプログラミング▽情報通信ネットワークとデータの活用――の4領域から出題されており、一部の問題は大学入試センター試験の「情報関係基礎」の問題を改題して利用されている。

試作問題の作成に関わった大学入試センターの水野修治試験問題調査官は「理系・文系にかかわらず、幅広い受験者を想定し、必履修科目である『情報Ⅰ』で学ぶ内容を踏まえ、学習場面や身近な題材をベースにじっくり考えさせ、思考力や判断力、問題解決能力を見ることができる問題を作るよう意識した」と話す。

実際に、試作問題では、教師と生徒の会話から情報モラルに関連する用語を答えるなど、基礎的な知識や論理的な思考力を問うものから、交通渋滞のシミュレーション、学校内のネットワークを想定したトラブルの特定、ウェブサーバのアクセスログの解析など、身近な情報に関する問題解決を扱ったものまで、多様な問題が例示されている。その一方で、情報について高度な知識を求められている印象はあまりない。

「情報」の出題に対する期待

この試作問題について、情報関連学会はおおむね好意的に受け止めている。例えば情報処理学会は、昨年12月2日に発表した声明の中で「試作問題は、個別に見れば実際の出題に向け様々な推敲・洗練を要するにしても、セットとして見たとき、カバーする範囲・難易度ともに極めて適切に設定されている」と評価している。

同学会理事の中山泰一電気通信大学教授は「文理を問わず、高校段階で『情報Ⅰ』の内容は勉強してきてほしい。IT技術者を育てるのではなく、文系や医療系など大学の幅広い学問分野で、情報の科学的な理解が求められる時代になっている」と、「情報Ⅰ」の重要性を語る。

また、日本教育工学会も試作問題に対する意見書の中で「試作問題の方向性は、共通教科情報科で学ぶ知識・技能・思考・判断・表現の資質・能力が、日常の問題解決や、大学における様々な学問分野における学修、そして現在・未来の社会生活と深く結びついているということを示すことにつながる」と期待を示している。

「情報Ⅰ」の出題に期待を寄せる堀田教授

同学会副会長で中教審委員なども務める堀田龍也東北大学大学院教授は「日本では学習でのデジタル活用が進んでおらず、大学生や社会人の情報リテラシーも低い状態にあった。これからの社会にとって情報は欠かせない。この試作問題を解けるだけの力を持った学生が入ってくれば、大学の初年次教育での情報に関する内容もかなり変わるのではないか」と指摘する。

さらに、国立の東京大学、東京工業大学、京都大学などで構成される「8大学情報系研究科長会議」は、共通テストへの「情報」の追加を支持する要望書を文科省などに提出。「情報」を独立した科目として全員が受験できるようにし、各大学が入試に活用することで、高度な情報人材の育成充実につなげられるとし、将来的には「情報Ⅱ」を含む科目設定も望ましいと言及している。

情報科の格差に懸念の声も

一方、高校現場からは実施に向けた懸念の声も上がっている。

東京都高等学校情報教育研究会(都高情研)では、「情報」の共通テストへの出題についての要望書を大学入試センターに提出。文理を問わず全員が受験できるように配慮することや、大学が「情報」を入試科目として採用することを促すような作問とすることなどを求めた。

都高情研事務局を務める都立石神井高校の小松一智指導教諭は「試作問題は実習で身に付けるような内容も盛り込まれており、情報科が育成すべき本来の力が問われていて、非常に面白いと感じた。高校では新しい教育課程の編成に向けた検討が始まっている段階で、『情報』をどのくらいの大学が採用し、どれくらいの受験生が受けるかで、その位置付けも変わってくる。国立大学や有名私立大学が採用してくれれば、かなり大きなインパクトになる」と今後の展望を話す。

また、昨年、全国高等学校長協会が大学入試センターに対して回答した「平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した大学入学共通テストの出題教科・科目等の検討状況に対する意見」では、「情報」の試作問題についても言及し、「情報に関する知識の理解の質を問う問題や、思考力、判断力、表現力等を発揮して解くことが求められる問題としての的確性や妥当性については、現段階では判断できない」と慎重な見方を示している。

さらにこの意見書では「学校設置者側に起因する課題として、情報科を指導する教員の配置が十分でない地域があり、こうした地域からは『情報』が出題科目となることに懸念の声がある」とし、これらの課題を解決した上で実施すべきだとした。

都内のある私立高校の情報科担当教員は「情報科は、先進的な取り組みをしている教員もいれば、文書作成・表計算・プレゼンテーションといったパソコンスキルの習得を中心に教えている教員もいる。専任の教員がいる学校もある一方で、臨時免許状を出して対応している学校もあり、現状では格差が大きく出るのではないか」と指摘する。このように現場レベルでは、情報教育の学校間・地域間格差に対する懸念が根強い。

高校現場の底上げが鍵
文科省が作成した「情報Ⅰ」の教員研修教材

こうした課題に対し、文科省も対応に本腰を入れている。

同省では、新学習指導要領の全面実施を前に、全国的な教員のスキルアップを図るべく、「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の教員研修用教材を作成し、都道府県教委などにこれらの教材を活用した研修の実施を促している。また、情報科の教員の採用を進めるよう都道府県に通知するなど、採用状況の改善に向けて積極的な働きかけを行っている。

同省の鹿野利春教科調査官は「1つの科目でこれだけ充実した研修教材を作成したのは、文科省としても異例だ。今年の夏までに教科書も選定することになるので、『情報Ⅰ』の内容をしっかり理解して、教員同士で情報交換などをしながら、授業イメージを固めてほしい」と強調する。

さらに大学側に対しても、「共通テストで『情報』を採用すると受験生から敬遠されるのではないかという短期的な視点ではなく、高校の段階における基礎的な学習の達成の程度を判定し、大学教育を受けるために必要な能力について把握するという共通テストの目的も踏まえ、大学での学びやこれからの社会で必須の力として、試験科目として採用することの意義について十分に理解し、検討してほしい」と注文を付ける。

また、中山教授は「高校1年生で『情報Ⅰ』を学ぶ生徒に、2年後に共通テストで『情報』を受けるイメージを持たせないといけない。『情報』の入試問題のイメージを授業で示すなど、共通テストを見据えた指導をする必要がある」と指摘する。

都高情研の小松指導教諭も「都道府県によっては、まだ研究会がない地域もある。新学習指導要領の実施に向けて、都高情研としてそうした地域のサポートもしていきたいので、困っていることがあれば相談してほしい」と呼び掛ける。

共通テストでの出題に向けては、「情報Ⅰ」を専門的に指導できる教員の採用を増やすとともに、さまざまな関係者が連携して高校現場の全体的な底上げを図ることが急務となっている。

CBTも中長期的な検討課題に

「情報Ⅰ」の共通テストでの出題を巡っては、もう一つ、CBT(コンピューター使用型調査、Computer Based Testing)での実施も検討課題に挙げられている。大学入試センターでは、従来通りの紙での出題と並行して、CBT化の可能性についても検討を進めている。

ただ、CBT化については試験会場への端末の設置をどうするかといったことや、膨大なコストがかかるなどの問題があり、中長期的な課題と言えそうだ。

大学入試センターでは、今年度中に共通テストへのCBTの活用についての検討状況をまとめた報告書と、「情報」を含めた新教育課程に対応した共通テストの出題教科・科目についての取りまとめを出す予定で、一部の科目については、より具体的な問題の例も示される見込みとなっている。そして、今年夏ごろには、文科省から25年の共通テストの実施大綱も公表される。そこに「情報Ⅰ」が予定通り盛り込まれれば、高校での試行調査の実施なども視野に入ってくる。

共通テストへの「情報」の採用に関する報道の保護者の認知度(GMOメディアの調査を基に作成)

プログラミング教育のポータルサイトを運営するGMOメディアが、小学生の子供を持つ保護者1005人に実施したインターネット調査によると、昨年11月の時点で共通テストに「情報」が採用される動きがあることを知っていると答えた人は、全体の24.3%にとどまっている。今後、試行調査などを通じて高校教員や高校生、その保護者などに、正確なメッセージを届けていくことも、「離陸」に向けて不可欠なポイントと言えそうだ。

(藤井孝良)


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