【星山麻木教授】 「自分は多数派」と思い込むのをやめる

私たちは誰しも、支援される必要性を抱えて生きている――。特別支援教育の推進に尽力する明星大学教育学部の星山麻木教授は、教師にこうメッセージを送る。進んでいるとは言い切れない日本の特別支援教育を変えるためには、まず教師や保護者など大人たちが「自分は多数派」との思い込みを捨てる必要があるという。(全3回の第2回)

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自分を多数派だと思い込んでいないか
――特別支援教育の現状をどう見ていますか。

オンラインで取材に応じる星山教授

どこから話せばいいのか分からないぐらい、特別支援教育は課題に溢れています。発達障害という言葉がよく使われますが、私は「障害」という言葉を使うのがあまり好きではないので、「発達少数派」と言い換えます。

そういった発達少数派の子供をどうやって標準化しようか、普通に近づけようかといった視点の教育が、そもそもおかしいと思っています。訓練させたり、何かを克服させたりと、今の特別支援教育は少数派を多数派に近づけるための練習をしているように見えてなりません。自分たちと同じようにさせたい、普通に近づけたいと思ってしまう教育を、私たち自身が受けてきた反動でしょうね。

発達少数派とされる人は、それぞれに脳の機能が違います。だから本来、特別支援教育はそうした脳の機能の違いをどうやって生かすかという視点を持って行うべきなのです。

それを踏まえて、今最も強く問いたいのは、自分が多数派だと思い込んだり、発達少数派に対して「障害がある」とレッテルを貼ったりする人の心の中に、障害があるのではないかということです。そこに気付けば、多くの課題を解決できると思います。

――自分を多数派と思い込んでいないか。まさにそうですね。

私たちは誰もが少数派の部分を抱えながら生きていますが、多くの教師や保護者がそこに気付けていません。子供の問題ではなく、実は自分自身の問題なのです。自分の常識が強すぎたり、「こうあるべき」という考え方の枠が狭かったりして、子供を苦しめているのではないかと振り返れない人が多いように思います。

発達少数派の子供たちには、それぞれの役割があります。特別支援教育は、彼らをいかに温められるかが大切です。その子を引っ張り上げるのではなく、もともとあるものをいかに発見するかという教育です。この部分の解釈ができていない大人が多いですよね。

30年以上、特別支援教育に携わってきて、さまざまな子供を見てきました。今、私のもとに寄せられる相談で多いのが、「勉強はよくできるんだけど、クラスメートと同じことができない子供がいる」という内容です。なぜそれが問題になるかと言えば、そもそもの原因は、「多数派であることは良い」と思い込んでいる人の心の中にあるのです。「多数派が正しい」「社会のためにこうあるべきだ」といった考え方です。もし、そんな悩みを抱えている先生がいたら、「なぜ同じでなければ困るのか」と考えてみてください。

共生社会をつくるためには、心のバリアフリーが必要不可欠だと言われます。でも、本当は人の心の中にバリアがたくさんあるのでしょうね。

自分を理解するための教育
――バリアだらけの学校を変えるヒントは、どこにあるのでしょうか。

私たちは全員、虹色と考えてみたらどうでしょう。多くの人は「障害がない=白」で、自分は真っ白だと思っていることでしょう。だから少しでも違う色が混ざると不安に感じて、その色を隠そうとしてしまいます。

私たちの多くは、児童生徒全員が同じになるための教育を受けてきました。でも本当は、人間はみんな同じではありません。行動を変えられたとしても、その子の脳の機能を変えることはできないのです。教師も保護者も子供たちも「みんなと同じでありたい、それが安心だ」と感じているので、「自分の違い」を駄目なものと見なしてしまいます。多様性を尊重するための教育の課題の根幹は、ここにあると見ています。

解決するためには、自分を理解するための教育を進めたいところです。自分と他人の違いを認めて、大人も子供も「自分はみんなと違う部分があって、すてきだ」と思える時間を大切にするのです。

――多様性を理解できる『虹色のこどもたち』という星山教授の著書は、授業や教員研修など学校現場で活用されているようですね。

虹は環境によって、赤色が濃く出たり、紫色が濃く出たりと変容していきます。それと同時に、さまざまな色の連続体です。人間も、白い光のように生きているけれど、環境が変わって水滴を通したら、それぞれ違う色に見えると考えてみたらいかがでしょう。そういった考え方を書籍にまとめています。子供たちを「虹色の子」と称し、好奇心旺盛でおてんばなレッド君、心優しくて慌てんぼうのオレンジちゃん、ゆっくりおおらかなブルー君など7つの色に分け、彼らの良いところや苦手なこと、理解するために必要なことなどを解説しています。

ワークショップや授業ではそれぞれのカラーになりきって会話したり、自分のカラーの組み合わせを探ったりします。一番盛り上がるのが、先生や保護者のワークショップです。「わあ、私はこの色だ」「〇〇先生はこの色だね」などと、みんな楽しそうに取り組んでくれます。

実は虹色の子には、それぞれ自閉スペクトラム症(ASD)傾向や注意欠如・多動症(ADHD)傾向などの特性があります。ワークの最後に「レッド君はASD傾向が高いんですよ」と言うと、彼らの特性を自分事として受け止められているから素直に理解できます。逆に最初に「ASDとは」と話し始めると、みんな「私は違う」と否定から入ります。少数派と見なされることが、怖いと思い込んでいるのです。

でも「こんな自分いない?」と内省していって、「あれ? この行動、私にもあるよね」と気付けた後は、すんなり少数派である自分を受け入れられる人が多いように思います。自分のことを理解して、みんな違うブレンドの虹色を持っていると気付けたら、発達少数派を区別する視点を持ちにくくなるはずです。

私たち誰しも、支援が必要
――当事者意識を持って、特別支援教育に触れるということでしょうか。

みんな支援される必要性を抱えて生きていると話す

特別支援教育は「あなたは大丈夫な人だから、助けてあげて」でも、「このかわいそうな子を理解してあげて」でもないんです。私たちみんなが当事者で、もともと特別支援教育が必要な人。だから「今、大丈夫であれば助ければいいし、助けてほしいときはSOSを出せるあなたであってね」というメッセージを含んでいるものです。

でも、今はそこが伝わっていなくて、「障害があるか、ないか」「ASDか、そうじゃないか」「そうじゃないなら自力でやりなさい」といった、0か100で捉えられている気がします。私たちはそれぞれ、パーセンテージは違えども、支援される必要性を抱えて生きています。それを否定すると、助けを求められなくなってしまいます。

私の特別支援教育に対する考え方はユニークかもしれませんが、自分に支援は関係ないと思っている先生が「私のこと」「私の家族のこと」と当事者意識を持って捉えてくれれば、理解や推進につながっていくものと感じます。

(板井海奈)

【プロフィール】

星山麻木(ほしやま・あさぎ) 明星大学教育学部教育学科教授。保健学博士。(一社)星と虹色なこどもたち設立。(一社)こども家族早期発達支援学会会長。日本音楽療法学会認定音楽療法士。クリエイティブ音楽ムーブメント研究会代表。映画『星の国から孫ふたり』監修。東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻(母子保健学)博士課程修了。行政や教育委員会と連携しながら、さまざまな地域の子育て支援、サポーター育成、早期発達支援、子育て支援ワークショップの開発、療育や特別支援教育の実践を行っている。著書に『星と虹色なこどもたち 「自分に合った学び方」「自分らしい生き方」を見つけよう』(学苑社)。https://hoshiyama-lab.com/


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