緊急事態宣言、35人学級… 初中局長に学校の課題を聞く

新型コロナウイルス感染症対策で11都府県に再び緊急事態宣言が出される中、政府は一斉休校を回避し、学校教育活動を継続する道を選択した。これを受けて、文科省は1月8日付で学校現場に感染症対策の徹底を改めて要請し、総点検すべき項目をチェックリストとして通知した。4月には全国の小中学校で1人1台端末によるGIGAスクール構想がスタートし、小学校全学年で5年計画による35人学級への移行も始まる。インタビューに応じた瀧本寛・文科省初等中等教育局長は「学びを継続するためにも、学校での感染拡大は許されない」と危機感をにじませ、35人学級の実現には「成果を示す責任を負った」と表情を引き締める。多難な年明けとなった2021年。学校教育行政が取り組む課題を聞いた。

(聞き手・教育新聞編集委員 佐野領、秦さわみ)


一斉休校せず 世論の動きに危機感
――緊急事態宣言の再発動を受け、1月8日付の通知では「社会のあらゆる分野で新規の感染者を一人でも減らすことが不可欠であり、学校も例外ではありません」と書き込み、改めて学校現場に感染症対策の徹底を求めています。

学校現場では、関係者が本当に献身的に努力してきて、いまのところ感染レベルが比較的低いものの、それでもそれなりの数が出ています(文科省の集計では、昨年6月から12月までに、小中高で児童生徒6159人、教職員830人が感染)。運動部活動や合唱では、大きなクラスターも出ています。

今回の緊急事態宣言で、国は「学校の一斉休校を求めない」としました。けれども、これだけ高いレベルの感染状況が続いている中で、もしもクラスターがいくつも発生することになると、「やっぱり学校も閉めろ」という世論が高まっていくかもしれない。そこに、私はすごく危機感を持っています。社会全体で新規感染者を減らさなければいけない局面ですから、学校もこれまで以上に感染対策レベルを上げる必要があります。

――学校現場では、最近もクラスターがいくつか発生しています。
「学校でも感染対策レベルを上げる必要がある」と語る瀧本寛・初中局長

ひどい例がありました。部活動で首都圏から飛行機で地方に遠征し、戻ってきてから学校でクラスターが発生しました。高校生たちが遠征先で一緒に泊まれば、やっぱり騒いでしまうでしょう。それを分かっていながら、東京都の新規感染者が1000人を超えているような12月下旬に地方遠征をし、クラスターを起こしてしまったのです。

先生たちにも残念な例がありました。ある地方で教員約10人が年末に忘年会を開き、出席者の半分がコロナで陽性になってしまった。学校の異なる地域の先生たちが集まったそうなので、情報交換の意味もあったのかもしれない。ずっと緊張感を持って取り組んできているのでから、冬休みに入って息抜きをしたい気持ちは分かります。でも、教員は年が明けたらまた30人40人の子供たちの前に立って教えるわけだから、緊張感を持ってもらわなければなりません。

主要先進国では、新型コロナウイルス感染症対策のために、多くの国で学校休校をやっています。その中で日本は、学校を一斉休校せずに、子供たちの学びを保障していくという選択肢をとった。こうなった以上は、学校現場でも感染への警戒レベルをさらに上げていただきたい。1月8日付通知では、チェックリストの冒頭に書いた「子供たちの学びを何としてでも継続するために」というところに思いを込めています。学校現場はいま、安易にクラスターを出してはいけません。医療現場の状況を考えれば、当然のことです。そのために、全校の学校で感染症対策の総点検を行っていただき、さらに強化できるところはどこか考えてほしい。

――昨年3月に一斉休校を始めてから、学校現場にとって新型コロナウイルス感染症と向き合う日々は、すでに10カ月を超えています。1月8日付通知を教育新聞で報道したところ、SNS上では「手洗いや消毒などの対策は、もうやってるよ」という教員のつぶやきもありました。

私は放課後に先生たちが一生懸命消毒して回っているのを、もっと徹底してほしいと言うつもりは毛頭ありません。今回のチェックリストは、手洗いや消毒など基礎的な感染症対策はもうやってくれていると信頼して、そうではない部分を取り上げています。

教科活動の内容によっては、多少リスクの高いものがある。それは感染状況が悪化している地域では一時的に停止したり、より工夫したやり方でやったりと、全ての教科で改めて点検してもらいたい。

冬場の換気については、12月に更新した『衛生管理マニュアル』Ver.5で、寒くても窓開けをするように示しましたが、一部には子供たちが安易に防寒具を着けてはいけないという、ちょっと変わった指導をしている学校もあるようです。窓を30分ごとに開けるとしても、窓際の子供は寒いわけだから、マフラーを着けたまま授業を受けて何が悪いのでしょうか。防寒着を授業中に着けるなんて、弾力的に認めてあげるのは当然だと思います。

登校時の健康観察や体温の提出は、どこの学校もやっています。けれども、児童生徒の感染者は過半数が家庭感染ですから、これだけ感染レベルが高くなってくると、家庭で拾ってきてしまう子供も当然いる。無症状を含めて、学校の中にはすでにウイルスがあると思った方がいい。学校にいる間に急に具合が悪くなる子供もいます。それを少しでも早く見つけてほしい。

私の気持ちは「迷ったら早めに養護教諭と相談」です。先生によっては「あんまり養護教諭に頼ったら、養護教諭がパンクしちゃう」と遠慮することもあると聞きます。でも、先生が子供たちの体調不調の兆しに気付いたら、早めに養護教諭や学校管理職と相談して、医療機関につなぐのか、しばらく保健室で様子を見るのか、そうした相談を養護教諭と早めにやってほしい。

――昨年春に緊急事態宣言が出された時には、学校の一斉休校を世論も支持していたと思います。一転して、国は今回、緊急事態宣言を出しても休校しない道を選びました。

今のところ、学校を開くことに、世論の支持は高いと思っています。看護師や医療スタッフを含めて保護者が小さい子供の面倒を見るために仕事を休まなければいけなくなり、現場が非常に困ったという事態が昨年春の一斉休校では問題になりました。今回は休校しないことにしたので、「良かった」「安心だ」という声が大きいと思います。

私の問題意識は「学校は今まで通り開校です。だけど、感染対策レベルは今まで通りではありません。学校で学びを続けていくためには、ここで今一度総点検して、全ての教職員は感染対策としてやれることをさらに強化していただきたい」ということです。

自分が行っている教育活動、学習活動、学習形態、学習方法を思い起こしながら、リスクの高いものはどこだろうかと改めて振り返り、よりリスクの小さいやり方で子供たちに教えることができないかとか、あるいは当面その方法はやめて、時期をずらして扱うとか、そういうことを校長から教諭まで一人一人の先生がしっかりと考えてほしい。

日本は先進国の中でも例の少ない、学校休校をしないでコロナ禍を乗り切ろうとしている国です。みんなで徹底的に知恵を出して、この難局を乗り越えていきたい。そうした学校現場に対するメッセージは、この通知に詰め込んであります。

35人学級 成果を示す責任を負った
――来年度予算の編成作業では、小学校全学年の「35人学級」という形で40年ぶりに学級編制を引き下げ、教職員定数改善計画をきちんと策定することになりました。

5年かけて小学校の学級編制を計画的に35人にできる意義自体は大きいと思います。しかしながら、正直に言って、小学校の学級で36人を超えているのは全体の8%しかありません。それでも学校基本調査によれば、令和元(2019)年度で1万8000学級ぐらいあり、それが学年進行でいずれ解消されます。そういう意味では、これまで以上に子供たちと向き合う時間がしっかりと確保され、子供たちに対する指導が充実することを期待したいところです。

ただ一方で、教員の質についての課題が指摘されています。ここは本当に、文科省としても注視していかなければなりません。

教職員定数改善計画の策定で、計画的な正規教員の採用が進むことになります。熱意がある方が教員採用に応募してくれるようになり、教育行政サイドも中長期的な人材の育成が、よりやりやすくなるはずです。

そういった取り組みにも期待しつつ、きちんと質の高い教育ができていくかどうかが、今後のポイントになってきます。学校教育の条件整備が一歩進むことに伴って、子供たちにとって、学力と学力以外の面を含めてどういう成果が現れていくのか。このところが勝負です。

教育の成果はなかなか目に見えるのは難しい面があるにしても、やっぱり先生たちが子供たちにしっかりと向き合う時間が増えていくことは大切です。全国学力・学習状況調査の結果をみても、小さい規模の学級で先生がしっかりと子供たちを見てくれると、子供たちの自己肯定感や、学習に向かうやる気の向上などにつながっている。この35人学級も、そうした質の伴った成果を出していけるかが、学校教育に与えられた使命であり課題なのだと思います。

――財務当局との厳しい予算折衝が続く中で、萩生田光一文科相は「30人学級を目指す」と明言していました。

もともと大臣と文科省が考えていた中学校の35人学級や、小中学校の30人学級を段階的に目指すという計画でも、最初の5年間は今回の結果と同じ小学校全学年の35人学級というアイデアでした。その先については、まずは最初の5年間分をやって、本当に「これをやってよかった」というような成果を、それぞれの学校現場が本当に作り出していけるかどうかにかかっていると思います。それを一つの課題として与えられたわけです。

だからこそ、大臣は事前閣僚折衝後の記者会見(昨年12月18日)で「決してこれで終わりではない。第2ステージに向けて努力していきたい」と言ったのだと思います。

これから小学校の35人学級を進めていって、3年目、4年目になって、「やっぱりこれをやって良かった」という成果を、教育関係者ではない人にも分かりやすく説明できるようにしていかないといけない。そういう責任を、われわれは負ったのだと思うのです。そこにまず、真摯(しんし)に取り組んでいきたい。(40年ぶりに学級編制が引き下げられたと言って)浮かれている場合じゃないよ、と思っています。

1人1台端末整備 教員のスキルアップを支援
――学校現場に初めて1人1台のICT環境が整備され、これまでに経験したことのない変化がやってきます。教員に求められる質そのものが変わってくるとの見方もあります。教員の質を高めるために、どう取り組みますか。
「ICT機器はこれから使い慣れていけばいい」と話す瀧本寛・初中局長

短期的にやっていく取り組みと、中長期で考えていくべきことがあり、その両面で進めていきたいと思います。

まず短期的な取り組みとしては、GIGAスクール構想に関わる支援です。小中学校の1人1台端末が年度末までにそろっていく見込みですが、ハードだけがおおむね3年前倒しになっていますから、教員の活用能力などソフトの部分は、残念ながら、若干遅れているところがあると思います。

こうした教員のスキルアップに向けた支援策としては、来年度当初予算で、従来の集合研修だけではなく、オンラインによるICT活用能力の研修を準備しています。今構想しているのは、教科ごとに、しかもレベルを分けたプログラムです。初級基礎レベルの研修が必要な先生にはそういう内容を、そこそこは使えているけど、さらに磨こうという先生には、そのニーズにあわせた内容を作っていきたいと思っています。オンラインによる研修なので、わざわざ研修所に集まっていただく必要もありません。

もう一つ、今年度3次補正予算では、来年度いっぱいかけて使ってもらう予算として、先生たちが外部のさまざまな研修を受けに行くための経費を計上しました。研修のテーマは自由なので、ICT活用能力を高めるために使ってもらうこともできます。もちろん、教科指導力を高めるために使ってもらってもかまいません。コロナ禍の状況次第になるでしょうが、研修する時間を取れるような時期がきたら、活用してほしいと思います。

また、教職員支援機構では、ICT活用能力を高めるためのオンラインプログラムを、すでにいくつか用意しています。

――間もなく1人1台端末が学校現場にやってきますが、教員は、スタートした時点から「完璧に使いこなさないといけない」と思いがちです。一方で、保護者からは「1人1台端末があるのだから、きょうからすぐにオンラインでやってくれ」といった圧力もありそうです。学校現場はどうしても板挟みになってしまうかもしれません。

正直に言うと、完璧に使いこなそうという考えには、あまり固執しすぎない方がいいと思います。ICT端末はあくまでツールの一つですから、先生たちは最大限に効果的に活用していく方向で、だんだんスキルアップしていけばいい。最初から完璧を目指して、いつまでも使うのが遅れてしまうよりは、使える範囲でまず活用を始めてもらうのが大切です。ハードだけが先に前倒しで整備されたという環境は、決して先生たちの責任ではありません。使える機能を使いやすいやり方で、まず始めてもらえばいい。そこはもう、考え方を変えるしかないでしょう。

――使える範囲で始めるのは、大事なところですね。

教育新聞のアンケートにも、自由記述で「もはや考え方を転換していく教員も出てきている」といった答えがあったと思います。全部の学校ではなく、教員全員ではないにしても、そんな雰囲気になりつつある学校もあるのでしょう。学校によって多少の時間差ができるかもしれませんけれども、使える機能、使えるやり方から、まず始めてもらい、だんだん進んでいくしかないと思います。

公立学校の教員で、1人1台端末を使い慣れている先生は、全国でも一握りであって、ほとんどいないぐらいの状況です。今、完璧に使いこなせないことは、別に恥ずかしいことではありません。学校現場にはICTに長(た)けた先生とか、若くて使い慣れている先生もいるでしょうから、そういう方に、積極的に授業を見せてもらったり、教え合ったりして、これからみんなで使い慣れていけばいいのです。ICT環境をより効果的に使うことで、子供たちに対する教育の質の向上が図れるはずです。そういう方向を目指して、学びを続けていくのも、教員の使命だと思います。

教育行政は「事なかれ主義」に陥ってはいけない
――義務教育行政を所掌する初等中等教育局長としての抱負や、学校現場に伝えたいことは何でしょうか。

学校現場の先生たちの多くは、コロナ禍で大変な思いをし、工夫をしながら子供たちに向き合い、より丁寧な対応をしようと最大限努力していると思います。本当に心から感謝を申し上げたい。コロナの影響を考えると、目に見えないところで、子供たちのメンタル面もあります。さらに、もう一つ、教員自身のメンタル面にも大きな影響を与えている、という話が私にも届いています。

先生たちには、ご自身のことも気遣っていただき、早めに声を上げてもらうことが大事だと思います。小中学校の子供たちにとって、もしも大好きな担任の先生が病気で入院したとすれば、それは大変ショックなことになります。ぜひ、ご自愛いただけるようお願いします。

一方で、学校はわが国の未来を支える子供たちを育てていく、すごく大事な現場であることは言うまでもありません。「全ては子供たちのために」と考えて、最大限の工夫や改善に取り組んでほしい。

矛盾しているようで申し訳ありませんが、ご自身の体には十分に気を付けていただきながら、子供たちの未来が懸かっているという期待を申し上げるしかありません。

そうした現場で頑張っている教職員を支えるのが、一義的には教育委員会なのだと思っています。

教育委員会は学校現場の創意工夫をつぶしたり、より無難な方向にハンドルを切ったり、決してしないでいただきたい。例えば、学校現場が「修学旅行はやむなく中止したけれども、社会科見学だけはやろう」と考え、いろいろな感染対策を二重三重に講じて準備したのに、教育委員会が過度に慎重な姿勢をとって「いやいや、子供の健康のために中止しましょう」と、安易にストップをかけるようなことは控えてほしい。

学校現場の努力や工夫を支え、それを実現できる方向に、学校現場と一緒に知恵を出し、物的人的なサポートをしていくのが教育委員会の役割だと思います。そういう教育行政であっていただきたい。

学校現場の側もきちんと自分たちの考えや取り組みを教育委員会側に伝えつつ、学校現場と教育委員会が一緒になって子供たちのために進んでいってもらえたらいい。

文科省は、そうした教育行政に対してしっかりとサポートができるように、予算的な対応や制度の見直しに取り組みたい。最終的には、子供たちのプラスになるような方向で、教育委員会や学校現場の先生たちと広い意味で連携をしながら、よりよい教育が実現できる方向で取り組んでいきたい、と考えています。

教育行政は、学校現場に寄り添い、より子供たちのためになる方向で、前例にとらわれず、事なかれ主義に陥らず、取り組んでいただくことを期待したい。文科省自身も同様に、前例にとらわれずに、よりよい初等中等教育を目指して仕事を進めていきたいと思っています。


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