【ソロモン諸島編】 ソロモンタイムと「ノーワリ!」

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周りに対する優しさ

ソロモン諸島に行くまでの私は、働くこと、自立して生きることが人生の喜びだと考えていた。しかし現地に行って、私の価値観は180度変わった。

ソロモンの人々は、周りの人に頼って生きている。よく言えば、助け合って生きている。ワントク(OneTalk)制度=同じ言葉を話す人々(同じ故郷の人々)は仲間、という考え方がある。だから、親戚の中でお金持ちの人がいれば、みんなその人のところに集まって一緒に生活している。

心温かいソロモンの人々

ソロモン諸島ではそれが当たり前。親戚一同が共に暮らしている。そして、それぞれができることをする。仕事に行く人、ご飯を準備する人、畑を耕す人、兄弟の面倒を見る人、洗濯や掃除をする人が、小さい家の中にひしめき合って生活している。そんな現地の人々の良いところは、周りに困っている人がいれば、すぐに手を差し伸べて助けることだ。周りの人を気遣う心の余裕があり、優しさが満ち溢れている。例えば子供たちは、一つのマンゴーを決して一人で食べようとはしない。必ず周りにいる子供たちとシェアする。

そうすることで、みんなが笑顔になる。お金がなくても、スマホや電化製品がなくて不便な生活でも、みんな幸せそうに暮らしている。どうしてだろうと私は不思議に感じていた。そして、彼らと過ごすうちに、彼らの周りに対する優しさを理解することができた。

私はソロモンの人々に本当に助けられた。住んでいる家の庭の雑草が伸びすぎているとき、生徒たちがナタで雑草を刈ってくれた。料理で使うガスがなくなって探し回ってやっと見つけたとき、たまたまそこが生徒の家で、暑い中、4Lのガス缶を家まで運んでくれた。私の家の軒下にハチの巣ができて慌てているとき、隣に住んでいる生徒がほうきで退治してくれたり、ココナッツの実が硬くて割れなかったときは、見事に割ってくれたりした。

同僚のエリザベスは、何かあると家に呼んで料理を振る舞ってくれた。エリザベスの息子のワーレンも屈託のない笑顔で私を癒やした。どうしようもなく寂しくなった時は、いつもソロモンの人々がそばにいてくれた。

ソロモンタイムと呼ばれる文化

そんな優しいソロモン人たちであったが、私が最初に戸惑ったことがある。同僚の先生たちにピクニックに行こうと誘われ、「明日の何時に出発?」と聞くと「8時くらいかな」という答え。次の日、午前7時半には集合場所の学校に行った。しかし、一向に先生方は集まらない。トラックの荷台に乗って出発したのは結局、午前10時半くらいだった。

その後もさまざまな約束をしたが、ソロモン人は必ず30分~1時間は遅れてやってくる。家族の事情だったり、天候だったりにもよるが、とにかく時間を守るという意識はあまりないようだ。それが「ソロモンタイム」と呼ばれる文化。現地では時間が本当にゆっくり流れている。

即席タープの下でランチ

そして彼らの口癖は「ノーワリ(=Don’tWorry)」「問題ない、気にするな」である。この国ではせかせか動く必要がない。暑い気候だから、素早く動くのがきついこともある。大雨が降ると学校に生徒が来ないから、すぐに休校になる。それでも、「ノーワリ。あまり気にしない。仕方がないことだから」。

大雨が降ると、通学路の川が増水して渡れない。道がぐちゃぐちゃになるから、生徒送迎用のトラックが走れない。傘を持っていないから、登校できない。床下浸水で家から出られない。だからたびたび授業ができなくなる。授業を継続できないから、学力も伸びない。だけど、「ノーワリ」。ソロモンの人々は何も気にしていない。

最初はちょっとイライラしていた私も、半年がたつころには、すっかり現地ののんびりさに染まってしまった。心地よく感じる自分がいた。細かいことを気にしても仕方がない、と。

家族と過ごす大切さ

ソロモンで生活して半年がたったころ、生徒たちと一緒にピクニックに出かけた。学年末の一大イベントである。朝から学校の敷地内にある担任のエリザベス先生の家にみんなで集まって、肉や野菜を切ったり、釣ってきた魚をさばいたり、料理をする。

送迎用のトラックにみんなで乗り込み、向かった先は大きな川。実は、そのとき大雨警報が出ていて、日本だったら「中止」になるところだったが、ソロモンの人々は誰一人として気にしなかった。大雨の中、ピクニックに出発した。

到着すると、ナタを持った男の子たちが林の中へ入っていき、何本かの木を調達してきて、ブルーシートを使って、あっという間に即席タープを作った。この子たちは本当に生きる力があるなあと感じた。そしてみんなで持ち寄った料理をお皿に均等に分けた。ケーキカットをして盛り上がった。そして生徒たちは川に飛び込んで遊んでいた。雨が降っていて寒くて私はそれどころではなかったが。迎えのトラックがなかなか来なくて、みんなで2時間は待った。それでも誰も何も気にしない。ノーワリ!

ソロモンの人々はなぜ幸せなのか。それは、彼らにはかけがえのない家族が、親戚がいるから。一緒にいるだけで幸せなのだ。お互い助け合って、生きている喜びを感じている。

また、家の中に必ず自分の役割があり、「誰かのために自分は役立っている、大切な存在なんだ」と日々感じることができるからなんだと気付いた。

私は日本に帰ってきてから、今までの分を埋め合わせるかのように、両親と過ごした。いつもなら友人と過ごすことが楽しかったのだが、家族で過ごす大切さをソロモンの人々から学んだ。すると、私の心も自然と満たされるのを感じた。

私の人生を変えたソロモン。大事なことを教えてくれたソロモン。ありがとう、ソロモン…。本当にありがとう。

(奥山美沙=おくやま・みさ 青森県出身。大学卒業後、数学の教員として青森県の中学校に勤務。現在は専業主婦)


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