【北欧の教育最前線】平和の担い手を育てる体系的な取り組み

日本財団が2019年に行った「18歳意識調査」 では、日本の若者は未来への期待感が著しく低いという結果がでた。特に「自分で国や社会を変えられると思う」と感じる若者はわずか18.3%だった。教育先進国と言われるフィンランドでも、若者が将来に希望を持てないことが問題視され、対策が行われている。14歳を対象に行われている「Gutsy Go」(勇気を出して行こう、の意)という取り組みを紹介し、解決の糸口を考えたい。

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1週間、街の課題に取り組む
活動を動画で記録する(写真提供:Gutsy Go)

「Gutsy Go」のキャッチフレーズは、「学校を止(と)めて、平和の生み出し手になろう!」だ。参加校の8年生(14歳)全員が1週間、普段の授業や学校での活動を中断し、街の課題解決に取り組む。数人でチームを作って、自分たちの身の回りにある街の課題を取り上げ、解決策を検討し、教師や法律関係者、社会福祉事業者、民間企業など、さまざまな職種の大人に協力を依頼し、実行する。そして、その過程を動画で記録する。

生徒たちは、必要に応じてGutsy Goのスタッフや教員と相談し、取り組む課題を決め、役割を分担する。課題解決に必要な物や人を特定し、協力を要請するのも生徒たち自身だ。そして毎日、チームで振り返りを行う。最終日には、プロジェクトを通して自分たちがどう変わったか話し合う。

ホームレス、高齢者、幼児を支援

プロジェクトの内容はさまざまだ。例えば、「ホームレスの人をサウナに連れていく」「外出が難しい高齢者をアイスホッケーの試合に連れていく」「コロナ禍で制約が多く、思い切り遊べなかった幼児と一緒に遊ぶ」「外国から来ていてコロナ禍で帰れなくなり、ホームシックになっている人たちをサポートする」などだ。

「独りで住んでいる高齢者の家の庭を大勢で掃除する」という課題に取り組んだチームは、メンバーの隣人が一人暮らしのおじいさんだったことから、この課題を思い付いたという。時折、おじいさんの息子たちが顔を見せるが、お茶をして帰る程度のようで、庭は荒れ放題だった。以前はこのおじいさんがよく庭を手入れしていたので、今でもきっと庭をきれいにしたいだろうと、メンバーはずっと気になっていたという。

高齢者を対象に課題解決を行ったチーム(写真提供:Gutsy Go。なお、事例に出てくるチームではない)

課題を決めた翌日、そのお宅や近所で似たような人がいないか訪ねて歩き、状況について調査した。必要な掃除道具がない場合は、どこから借りるかメンバーで相談した。

コロナ禍により屋内活動や訪問が制約される困難があったが、参加した生徒たちは、やってみたいこと、習ってみたいこと、経験してみたいことに挑戦できるのが、とても面白かったと振り返る。計画を立てる際に、休憩や楽しむ時間を設定したのも良かったという。「やらなければならない」ではなく、どうしたら全員がモチベーションを保ったまま取り組めるかを考え、工夫したのだそうだ。

平和の担い手を育成したい

Gutsy Goは、若者が「何かしたい」と考えているのに、それを生み出すきっかけがない、という状況を打破するために創設された。世界の190カ国のうち9割は、徴兵制による若者のトレーニングを行っているが、平和の担い手を育てるために体系的な取り組みをしている国はどこにもない。Gusty Goは、政治的・経済的な交渉で平和を生み出すのではなく、自分たちの身近な街で人々に前向きな交流を生み出していくことが重要という考えのもとで、2016年から活動を開始した。

設立者は、TVジャーナリスト、プロデューサー、そして代表取締役の経歴をもち、フィンランドや戦地を含む海外で20年以上活動してきたアラム・アフラトゥニ氏と、ジャーナリスト、プロデューサー、そして脚本家としてメディア業界で20年間活躍してきたヴェーラ・イコネン氏である。Gutsy Goのチームには教員経験者、国際映画や文化イベントの主催者、音楽映画の研究者、メディア関係者、写真家などもいる。Gutsy Goの特徴の一つは、プロセスを全て動画などで記録することだが、こうした映像は何千もの人に発信され、さらに影響を広く与えることができる。

Gutsy Goは、17年にフィンランド最大のイノベーションコンペティション「Builders of the Century」で賞をとった。受賞により、国の助成金を獲得するとともに、大企業による支援にもつながった。現在、Gutsy Goは15都市以上で開催され、毎年何百もの課題解決策が実行されている。数年後には国内の14歳全員(約5万人)が参加することを目標としている。

「必要とされている」と感じる経験

Gutsy Goの効果に関する調査では、参加者が「自分は必要とされている、貢献できる」と感じられたと報告している。このプログラムは、街の課題発見や解決について、あくまでも、若者の興味や自主性が重視されている。

大人目線ではなく、若者が自分たちのこととして実際に活動し、体験しながら理解を深める。このように自分たちで取り組むことを通して、自分自身を価値がある存在であり、社会に対して影響を与えられると考える、前向きな思考が育っていくのだろう。

(田中潤子=たなか・じゅんこ オウル大学教育学部修士課程、たなか家教育研究所主宰。専門は、小学生向けアントレプレナーシップ教育)


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