探究を生み出す学びの場づくり キャリア形成を支援する

VRを使った授業などに挑戦してきた岡山県立瀬戸高校の絹田昌代指導教諭は、同校の「キャリアコンシェルジュ」として、探究学習のカリキュラム開発にも精力的に取り組んでいる。新学習指導要領でも重要視されている探究的な学びをいち早く取り入れ、生徒のキャリア形成につなげるには、何が必要なのか。探究する高校生を生み出す同校の仕掛けに迫る。(全3回の第2回)

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キャリアコンシェルジュになりたい
――キャリアコンシェルジュとは、一体どのような仕事なのでしょうか。

絹田昌代教諭(絹田教諭提供)

私が瀬戸高校に来て最初の年に、校長から「半年間猶予をあげるから、本校の探究学習を変えてほしい」と言われたんです。私は第一印象として本校の生徒はおとなしい子が多いと感じていたので、最初は不遜にも、探究学習を通じて彼らの人格を変えようと思っていました。

でも、そもそも人格なんてそう簡単に変わるわけがありません。本当に必要なのは、人格を変えることではなくて、資質・能力を身に付けさせることです。そこで、本校の生徒に身に付けさせたい力は何かを、校長をはじめ同僚の先生方と話し合い、その結果「伝える力」「受け取る力」「つながる力」「考える力」「見つける力」そして「より良くなろうとする力」の6つが必要だということが見えてきました。

それらの力を身に付けさせて、生徒一人一人が自分自身のキャリアについてグランドデザインを描くには、学びを通じて自分自身の成長を実感し、満足してもらう必要があります。そして、そのための専門的な役割を担う教員が必要だと思ったんです。それで、思い切って校長に「キャリアコンシェルジュになりたい」と伝えたら、本当に4月にはその名称の校務分掌が作られて驚きました。

そうやって私がキャリアコンシェルジュになって、翌年には校内に「キャリア探究室」というチームも発足しました。今年から「キャリアデザイン室」と名前が変わりましたが、進路指導の中でも探究を中心に担当する部署です。

本校の探究活動は、興味関心のあることをいろいろと調べながら課題を発見し、解決に向けて地域にある企業や大学などと一緒に行動していくというものです。これを3年間で4回やるのですが、ずっと同じテーマに取り組んでもいいし、途中でリスタートしても構いません。そうやって「6つの力」を身に付けて、自分のキャリアと結び付けていくのです。

入試の多様化も追い風になり、生徒が探究で学んだことを武器に、第一志望の大学を受けられるようになったのは大きいものがあります。生徒たちは自分が体験した学びを堂々と話します。偏差値やいわゆる受験学力だけではなく、探究でも勝負できる。合否にかかわらず、その進路を自ら選んで挑戦する姿はすがすがしいものがあります。

そうして大学に入った生徒は、やはり大学でも活躍します。プロジェクトの中心メンバーになったという話はよく聞きますし、そのうち起業しようなんて動きも出てくるかもしれません。

ジェネレーターになりたい
――探究の過程で、すぐに企業に電話するなど、生徒のフットワークの軽さにも驚きました。

生徒たちには、何か具体的なアイデアが出てきて、それをビジネスとして手掛けている企業があることが分かったら、私から「今、電話してみたら」と働き掛けます。「今ですか!?」と驚く生徒を実際に電話の前まで連れていくことも珍しくありません。事前に私からその企業に連絡を入れておくといったことはしません。でも、今すぐ動いてみることで生徒たちは、電話をすれば話が進むという実体験をするわけです。

また、私は生徒の伴走者ではなく、「ジェネレーター(生み出す人)」になりたいと思っています。本校の「体験的イノベーションラーニング」によって、急に具体的なアイデアが出てくるわけではありません。そんなときは一緒にうんうん悩んで、気付きがあったらポンと投げ掛けもします。

昨年卒業した生徒に「あなたの探究の転機はいつでしたか」と聞いたことがあります。てっきり、探究を担当している教師とのやり取りが出てくると思ったら、話を聞きにいった農家の方や、研究でお世話になった大学の先生の名前ばかりが挙がってきました。

教師の名前がほとんど出てこなかったことに内心はがっかりしたんですが、その一方で、この学びのデザインは正しかったんだと確信しました。私たち教師がすべきことは、一生懸命にせっせと何かを教えることではなくて、周りの人と出会える環境をつくることなんです。

彼らは入試が一段落すると、実際にお世話になった人たちにあいさつに行っていました。本校の生徒はみんな、すごく優しくて誠実なんですよね。純粋に社会を良くしたいと本気で考えて、行動しようと思っている。そんな素晴らしい人間性を備えた生徒たちが、探究という新しい武器を持ったらどうなるか。きっと、地域のさまざまな人や資源をつないで、新しい価値を生み出してくれるんじゃないかと思っています。

探究の指導案を作る
――学校全体で探究学習を展開するのは、大変ではないですか。

校内で共有されている探究の指導案(絹田教諭提供)

前任校でも4年間、探究学習を中心に取り組んできたのですが、本校に異動してしばらくして、前任校の探究がどうなっているか聞いてみたら「すいぶんトーンダウンしている」と言われてしまいました。

そんなことを学年主任にこぼしたら「そうならないよう指導案を作りなさい」と言われまして、嫌々ながら探究に関する指導案を全部作ったんです。さらに、分かりにくいところは、私が実際に授業して見てもらいました。

よく考えてみると、私たち教師は指導案があれば、その授業を忠実に再現できるんですよね。指導案があれば、どの教師でも安心して取り組める。すると、アレンジもできる。アレンジがうまくいけば、自信も付きます。逆に指導案がないと、探究で何をしていいのか分からないから、図書館で何か調べ物をさせたり、コンピューター教室で情報を検索させたりするだけで終わってしまうわけです。

今では、私だけでなく他の教員も探究の指導案を作っています。探究は結果がどうなるか分からないから、走りながら考えるのですが、指導案は共有しやすいし、案だから変更が前提なわけです。その上で、走りながら考えるのです。

趣味の釣りが高じてナマズをビジネスに

身近なところに探究の種がある――。同校2年生の八代幸也さんは今、ナマズの養殖をビジネスにしようと本気で考えている。釣りが趣味の八代さんは、水産資源の問題に興味を持ち、うなぎの代用食としてのナマズの可能性に着目。ナマズであれば自分で釣ることができ、成育期間も短くて済むと考えたのだ。ところが、実際に釣り上げたナマズを食べてみたところ、うなぎの代用食としてだけでなく「一つのおいしい食材」としての可能性を感じたという。

八代さんが考案したナマズ定食(絹田教諭提供)

そこで八代さんは、地元のうなぎ養殖業者に話を聞きに行き、エサや水質管理などを学んだり、自分たちでナマズのさばき方を調べたりし、今では、釣り上げたナマズを使った定食メニューを考案するまでに至っている。

八代さんは「ナマズを養殖できて、料理にできたら、それなりの値段を付けて販売できるはず。地域でお世話になった人のためにも、海洋系のことを学べる大学で、水産資源のことを学びたい。瀬戸高校で身に付けた力を生かして、みんなの前に立って行動できる人になりたい」と、夢の実現に向けて探究の芽を育てている。

(藤井孝良)

【プロフィール】

絹田昌代(きぬた・まさよ) 岡山県立瀬戸高校指導教諭・キャリアコンシェルジュ。1966年、岡山県岡山市生まれ。教科は国語科。協調的な学びが生まれる授業づくりや探究型学習のカリキュラム開発に取り組む。趣味のクラシックバレエは、コンクールにも出場するなど本格的に取り組んでおり、現在も週2日の練習を欠かさない。座右の銘は「継続は力なり」。


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