探究を生み出す学びの場づくり 鍵はミドルリーダー

自分自身も探究者として、学びを深め続けている岡山県立瀬戸高校の絹田昌代指導教諭。今、同校では絹田教諭だけでなく、さまざまな教員がミドルリーダーとなり、学校を活性化させている。「授業が大好き」と語る絹田教諭が行き着いた学びの現在地と、これから目指す学校組織の在り方を浮き彫りにする。(全3回の最終回)

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「心に沁(し)みたものが美意識だったんだね」
――外部の方との関係づくりなど、とてもアクティブですが、元々そうだったのですか。
絹田昌代教諭(絹田教諭提供)

どちらかと言えば、小学生の頃は引っ込み思案で、授業中はなるべく先生に当てられないようにとびくびくしていました。そんな私が、岡山大学でたまたま入った研究室の先生が、偶然その年に岡山大学に着任したばかりで、専門が協同学習だったのです。協同的な学びなら、私のようにおとなしい生徒でも楽しく授業が受けられるのではないかと考え、大学院まで進みました。

その後、国語の教師になってすぐに、芥川龍之介の「羅生門」でグループでの話し合い活動を取り入れました。周りの先生方も「好きにやってごらん」と言ってくださり、教師になりたての頃から対話を取り入れた授業を実践できたのはありがたいことでした。

でも、グループで話し合いをすると、結局おとなしい子はあまり話せないという課題も見えていて、それがずっと悩みでした。そんなとき、東京大学の高大連携ユニットである「CoREF」が開発した「知識構成型ジグソー法」(※)と出合いました。実際にやってみると、おとなしい子も国語が苦手な子も生き生きと発言するし、「自分とは異なる意見が聞けてよかった」「もう1回やってほしい」などの感想も生徒たちから聞けました。それ以来、私の授業は知識構成型ジグソー法がベースになっています。

――シルキィ先生の授業では、「美意識」をテーマにしていましたが、国語で美意識を扱ったのはなぜですか。

実は「美意識」をテーマにした授業は、岡山県立倉敷南高校にいたときから実践していた、私のライフワークのような授業です。

倉敷南高校で実践した美意識の授業(絹田教諭提供)

倉敷市には、全国的にも有名な大原美術館があり、そこの館長をされている高階秀爾先生の評論は、教科書や入試問題でもよく取り上げられています。そんなこともあって、地元で高階先生の講演会があれば夜な夜な通っていたんですが、それがきっかけで、私の授業に高階先生が入っていただく機会がありました。

その授業は、生徒がいろいろな評論を読んで、最後に自分の美意識について発表するというものでした。たくさん評論を読んだのだから、さぞや知的な意見が出ると思ったら、ある男子生徒が「僕が美しいと感じるのはギターです」と言い出したんです。ちょっと唖然としつつ、次の生徒を指したら「私はファッションが大好きで、流行の服を着ることが私の美です」と。さらに「僕は田んぼです。僕の家は農家なので」と続いてしまい、さんざん評論で現代の消費や尾形光琳の作品などについて考えてきたのに、自分のことばかりの発表が続くので、私自身がどうしていいのか分からなくなりました。

すると最後に、高階先生がゆっくりとした口調で「みんなの心に沁みたものが、美意識だったんだね」とまとめてくださいました。すると、それを聞いた女子生徒が突然手を挙げて、自分の心に沁みたものについて泣きながら語り出したんです。その子は卒業するとき、3年間の思い出で一番印象に残っているのは、この美意識の授業だったと話していました。

それぞれの生徒の内面にある、大切にしている日や価値を、その生徒の言葉で伝えさせることができた授業だったのかなと思っています。生徒が、生徒自身そのものを大切にできる「一生モノの授業」を、これからもずっとしていこうと決めたんです。

生徒も教師も探究する学校
――授業の根幹は変えずに、どんどん新しいものを採り入れるのがスタイルなんですね。

今でも、いろいろな研究会や学会に足を運んで、発表させてもらうことがあります。そうやってさまざまな人とつながり、刺激を受けています。新しい授業のビジョンが見えたら、「本校でもやりませんか」と提案します。

特に、知識構成型ジグソー法はもっと仲間を増やしたいと思い、若手教師を中心に地域の中学校や他の高校も巻き込む形で、「Seto Blue Waves」というコンソーシアムを立ち上げました。

それから、コロナ禍を受けて、昨年3月には校内で「オンライン推進チーム」も立ち上げました。まだICT環境すらも十分に整っていない状態だったので、ICT先進校から資料をもらい、ICTが得意な先生に具体策を考えてもらいました。そうやってすぐに動き出せる組織文化が本校にはあります。

このときに重要なのはミドルリーダーグループの存在だと思うんですが、専門的な知識や人間関係調整力、ビジョンなど、ミドルリーダーに必要とされる資質を全て兼ね備えている人なんてそうそういません。だから、本校の場合はそれぞれが得意なことでリーダーシップを発揮し、グループで学校の課題を解決しています。「ミドル」とは年齢ではなくて「ミッションのど真ん中」という意味だと解釈しています。

今はもう、私自身はオンライン推進チームには関わっていません。現在は若手の教師を中心に、オンライン学習の研究を熱心に進めています。中心メンバーがいて、ビジョンも共有できているのだから、後は彼らが自ら動けばいいと考えています。

――これから挑戦したいことは何ですか。

ちょうど3年目の教師がいるんですけど、彼を中心に新しい授業研究の在り方を模索したいと思っています。授業研究会は、何カ月も前から指導案をせっせと書いて、それに対して他の教師が意見を言ったり直したりしながら行われますよね。

そうではなくて、実際に教師が授業をしながら直して、研究授業の場でも生徒の学びの様子を見て、その場で変えていったり、後で振り返って修正したりしていくことを重視したいんです。指導案を作るための研究会ではなくて、授業をやりながらもっといい学びをもたらす授業を探して、試行錯誤していくような研究会です。

そうすると、教師も指導案づくりに必要以上に時間を掛けなくて済むし、気軽に授業改善ができます。そうした研究会を、知識構成型ジグソー法を共通言語に展開できればと思っています。

これらは、生徒が取り組んでいる探究の学びと同じなんです。教師も取りあえず、まず動く。動きながら気付いて、学んで、イノベーションを生み出していく。それを一人じゃなくてグループで、得意なことを生かしながら、そして何より楽しみながら行っていく。生徒も教師も、そうやって変化し続ける学校にしていきたいですね。

探究学習をやりたくて瀬戸高へ
高原さんが新たな岡山土産として考えている、地元木材を使用したジェンガ(絹田教諭提供)

「ここでしかできない学びがあります」

そう話す同校2年生の高原歩夢さんは、探究学習をやりたくて同校に入学した一人だ。現在は岡山市東区が主催している「We Love 東区ハートおみやげ開発プロジェクト」に参加し、地元のヒノキを使ったジェンガを新たな特産品にできないかと考え、活動している。

果物をはじめ、魅力的な特産品がたくさんある岡山市で、なぜ木材なのか。その理由を高原さんは「コロナ禍で家にいる時間が増えたので、ジェンガなど大人も子供も楽しめる玩具はいいかもしれないと思いました。それから、ヒノキにはリラックス効果や抗菌性もあるので、ストレス解消にもなります」と説明する。

高原さんは1年生の頃、別の商品開発に取り組んでいたが、途中で挫折してしまい、昨年7月からこのプロジェクトに参加することになったという。「このまま立ち止まってはいられない」と焦る高原さんに、同プロジェクトを紹介したのが絹田教諭だ。

「絹田先生は、面白そうなことにどんどん挑戦させてくれて、そこで新しい世界や価値観を知り、自分の世界が広がります。自分にとって欠かせない先生です」と高原さん。将来は地元の岡山に貢献したいと考えているそうだ。

生徒が地域や社会を変えた経験は、自分の人生を切り開いて前に進む原動力になる。地方の県立高校が、キャリア教育を通じて地域にイノベーションを起こす未来がすぐそこまで来ている。

(藤井孝良)

※ある設定されたテーマに関して、まず、それぞれ視点の異なる資料をグループで読み解く。次に、他の資料を読み込んでいた人とグループを組み直し、前の活動で得た知識や解釈を説明し合うことで、テーマに関してより深い理解につなげる学習活動。

【プロフィール】

絹田昌代(きぬた・まさよ) 岡山県立瀬戸高校指導教諭・キャリアコンシェルジュ。1966年、岡山県岡山市生まれ。教科は国語科。協調的な学びが生まれる授業づくりや探究型学習のカリキュラム開発に取り組む。趣味のクラシックバレエは、コンクールにも出場するなど本格的に取り組んでおり、現在も週2日の練習を欠かさない。座右の銘は「継続は力なり」。


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