木村泰子氏×宮口幸治氏 配慮と言いつつ排除していないか

「配慮という名目の排除をして、障害をつくりだしていないか」――。長年全国の学校現場を飛び回り多くの子供と向き合ってきた木村泰子氏と、児童精神科医として認知能力に着目した子供の支援ツール「コグトレ(認知機能強化トレーニング)」を開発した宮口幸治立命館大学教授は、学校現場にそう問い掛ける。

教師と医師という違う立場の二人を迎え、「学校でしか救えない子供たち」をテーマに、教師ができる支援の本質について対談してもらった。第2回では子供の困り感に対して、どのような支援が必要かそれぞれの視点で考えつつ、子供本人の成長を止めない関わり方について考える。全3回。

(司会・教育新聞記者 板井海奈)

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「合理的排除」になっていないか
――お二人は教師と医師、立場が違いますが、ここまで対話してみていかがでしょうか。
木村泰子氏

木村 私は大空小学校に、校長として9年間勤務しました。そこでは、以前通っていた学校から突き放されて、「義務教育から排除された」と駆け込んでくる子供と保護者に、数多く出会ってきました。その数は、9年間で50組以上に上ると思います。この50人の子供たちの多くには、小児科や精神科の主治医がついていました。さらに教委や福祉機関などでケース会議の対象となっている子もいて、その支援には多くの専門家が関わっていました。

きっと宮口先生をはじめとする医療現場の方が「学校がもう少しフォローすればいいのに」と思っているのと同じように、学校現場にも「専門家の先生が子供をダメにしてどうするんだ」という偏った見方があるように感じます。ですから学校現場と医療の専門家が相互理解を深めるためにも、宮口先生と対話できるのは非常にありがたいことです。

「みんなに迷惑を掛けるから、特別な部屋で」――。今の特別支援教育は、この構図にどんどんはまっているように思います。文科省が「インクルーシブ教育」をうたい始めてから、その傾向はさらに強まったようにさえ感じます。「通級」や「交流」という言葉は、本来の意味をしっかりと理解して、その目的を教員や保護者が共有し続けながら使う、「生きる言葉」であるべきです。でも、そうした作業がどんどんおろそかになって、「合理的配慮」と言いながら「合理的排除」をしているような状況に陥っていると思わないでしょうか。学校現場で使う全ての言葉は、子供の事実から問い直さなければならないと思います。

宮口 医療への不信や限界は、私も感じています。病院で外来対応もしてきましたが、医師の診察だけで解決するとは正直思えません。それが『コグトレ』を生み出すきっかけになりました。

少年院に勤務していた頃、大空小学校が舞台のドキュメンタリー映画『みんなの学校』を拝見しました。「今の教育に必要なものはこれだ」と衝撃を受けたことを、今でも覚えています。大空小学校の学級運営は、特に通常学級の子供たちにとってプラスになっていると感じました。

教育相談もやっているのですが、先日、発達障害のある子供のお母さんから「教師から『もっと頑張りなさい』と言われた。全然配慮してくれない」と怒りながら相談を受けました。でも、話を聞いていくうちに「社会に出たら息子のことを理解してくれる人ばかりではないし、就職する会社は選べても上司は選べない。上司から『頑張れ』と言われることだってある。どんな状況でも、自分一人で生きていく力を付けさせる方が大切ですね」と、おっしゃったのです。

さらに「障害があって頑張れないことが分かっていても、『頑張れ』と言ってしまう先生がいてもいいじゃないか」とまで話されて、なるほどと感心しました。支援が必要な子供の将来を考えたとき、いつかは大人になって独り立ちすることを念頭に置く必要があります。そのためにいろいろな人たちと柔軟に関わって、対応できる力を付けさせなければいけません。ですから『みんなの学校』のように、どんな環境の子供も同じ教室で学ぶ姿は、とても良いモデルだなと思いました。

自ら助けを求められる力を育む

木村 学校生活の中で宿題を毎回やってこない子、忘れ物をいっぱいしてしまう子、先生が何か言ったときに「はい」と言えない子。そんな子供たちが教師からターゲットにされて、厳しく指導され続けた結果、学校に行けなくなるケースをよく見てきました。

大空小学校でも、友達と遊べる休み時間だけ学校に来ている子がいました。彼は3年生のころに校区内の学校に行けなくなって、大空小学校に転校してきたのです。教師には悪態をつくし、暴力的な行為も目立つ子でした。

ある日、休み時間に私が校内を歩いていると、「休み時間が命」の彼が一人で机に向かって頭を抱え、宿題をしていました。話を聞いてみると、1週間続けて宿題を忘れたので、前日に担当の教師から「明日忘れたらどうするの?」と聞かれ、「休み時間なしで宿題をやる」と約束したというのです。彼はその日も宿題を提出できなかったので、休み時間に一人でやっているとのことでした。

でも、ノートをのぞいてみると、答えが全然書かれていません。「どれか分かる問題ある? 学校でできないのに、家で一人でできないんやない?」と聞いたら、「自分でできる問題があったら、家でやってくるわ」との答えが返ってきました。彼は宿題を「やらない」んじゃなくて「したくてもできなかった」んです。教師は子供がどこでつまずいているのか、気付けていない場合が多いのだと改めて思い知りました。それ以降は、学校全体で宿題について見直しました。

忘れ物だってそうです。例えば、体操服を忘れた児童がいたとき、先生方はどう言葉を掛けますか。忘れたという行為に対して、「それなら、体育はできません、見学です」「取りに帰りなさい」などと、叱ったり、指示したりすることが多いですよね。

大空小では、「じゃあどうする?」と本人に尋ねます。私は方向音痴なんですけど、それを直すなんて絶対に無理です。子供たちも同じで、忘れるという行為を忘れさせないようにするなんて、教師には不可能です。それよりも道に迷ったとき周りに助けを求めるように、忘れ物をしたときに「貸して」と自分から周囲に助けを求められる力や、自分で解決策を導ける力を育む方が大切だと、考え方をチェンジしていきました。

子供の困り感、認知能力支援で軽減も
――今のお話について、医師の視点からどのように感じますか。
宮口幸治教授

宮口 木村先生の取り組みは、子供にとって安心・安全な環境をつくるという点ですごく良い手法ですよね。今回はいろいろな価値観に触れるということで、専門家としての意見を述べます。

例えば、忘れ物をしないに越したことがないのは明らかだと思います。忘れ物を繰り返す子は、周りと比べて注意力が散漫だったり、記憶することが苦手だったりするので、忘れ物自体を少しでも減らせる支援ができればいいのではないでしょうか。

実際に学校現場で活用されている「コグトレ」の一つに、記号探しというワークがあります。さまざまな記号が交ざっている中に、50個ほどある★マークを数えるのです。小学5~6年生の子にやらせてみると、実は4割くらいの子が全部を数え切れません。集中力が続かないのです。その中には学校生活でも先生の話を聞き続けることや、じっと座っていることに苦しさを感じている子供が多くいます。

でも、毎週1回5分で10回ほど、このトレーニングを繰り返すと、8割くらいまで正答率が上がっていきます。すると「授業中に座っていられるようになった」「人の話を聞けるようになった」などと、日常生活での変化も見られます。

「コグトレ」を学校現場で取り入れてもらうようになって、学校がもっと認知能力に着目すれば、多くの子供が救われるのではないかと可能性を感じるようになりました。既存の学校教育では最初から教科学習ありきで、それ以前に必要な「見る力」や「聞く力」など、学習の基礎体力ともいえる認知能力の支援がないがしろにされています。認知能力のつまずきに気付いてもらえず、苦しんでいる子供たちがたくさんいるのです。さまざまなケースを見てきて、彼らはこちらの介入の方法次第でぐーんと伸びる可能性を持っていると感じています。

だから木村先生のおっしゃる通り、「この子は伸びる可能性がない」と配慮という名目の排除をしてしまうのは、とても危険なことです。それは私たちがその子の成長を止めているわけで、つまりは私たちが障害をつくりだしているとも言えます。とても恐ろしいことではないでしょうか。

【プロフィール】

木村泰子(きむら・やすこ)大きな反響を呼んだドキュメンタリー映画『みんなの学校』で知られる、大阪市立大空小学校の初代校長。同校では「全ての子供の学習権を保障する」という理念の下、教職員や地域の人たちと共に、障害の有無にかかわらず、全ての子供がいつも一緒に学んでいる。退職後は、全国で講演活動などを行う。著書に『「みんなの学校」が教えてくれたこと』『「みんなの学校」をつくるために』(ともに小学館)など。

宮口幸治(みやぐち・こうじ)立命館大学教授。一般社団法人日本COG-TR学会代表理事。医学博士、日本精神神経学会専門医、子どものこころ専門医、臨床心理士、公認心理師。京都大学工学部卒業、建設コンサルタント会社勤務の後、神戸大学医学部医学科卒業。大阪府立精神医療センターなどを勤務の後、法務省宮川医療少年院、交野女子学院医務課長を経て、2016年より現職。児童精神科医として、困っている子供たちの支援を多職種協働で行う「日本COG-TR学会」を主宰し、全国で教員等向けに研修を行っている。著書に『コグトレ みる・きく・想像するための認知機能強化トレーニング』(三輪書店)、『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮社)など。

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