【藤原さと氏】 自らが探究者となる

「探究する学び」をつかむためには、まず先生が学び手として経験することが重要――。そう話すのは、自ら探究プロジェクトを生成していく教育者育成プログラム「Learning Creator’s Lab」を主宰する「こたえのない学校」代表理事の藤原さと氏だ。最初に、教員が探究を学ぶ意義や、それによってもたらされる変化について聞いた。(全3回の第1回)

この特集の一覧

自分にフィットする「探究」を捉える
――「Learning Creator’s Lab(以降LCL)」について教えてください。

「探究する学び」を現場で実践できるようになるための、約8カ月間の教育者育成プログラムです。2016年にスタートし、これまで4期行いました。3月末から5期目がスタートするところです。毎回、35人程度を定員としています。

自ら探究プロジェクトを生成していく教育者育成プログラムを主宰する藤原さと氏

参加しているのは、公立私立の幼・小・中・高の先生のほか、民間の教育関係者、民間企業人などです。学校の先生以外の多様なバックグラウンドを持つ人たちも一緒になって協働しながら学ぶことが、LCLの大きな特徴の一つです。

LCLは何かの資格を取るためのプログラムではありません。参加者が「自らが探究者」となり、「一生を通じて学び続けるためのベースがセッティングできた」と思ってくれたら本望です。

また、卒業後もアルムナイ(卒業生)として、それ以降の期のプログラムに参加することができます。期を追うごとにアルムナイも増えてきて、生涯にわたっての仲間ができるコミュニティーとしても育ってきていると感じています。

――プログラムはどのように進んでいくのですか。

まず、国内の第一線で活躍する探究学習の実践者から、国際バカロレアやイエナプラン、こども哲学など、それぞれ成り立ちの違う探究の基本的な理論やフレームワーク、ルーツを学び、いろいろな探究を知ってもらうことから始まります。

一口に探究と言っても、さまざまな思想や手法があるわけで、その人ごとにフィットするものがあると思うんです。そのため、自分にはどのやり方がフィットするのかを体感で捉えていく。そして、フィットすると思うものを自分の実践の中に取り入れてみたらいいと思っています。

その後は、5人程度のチームを編成し、自分たち自身の探究プロジェクトを立ち上げます。ボードゲームを開発するチームがあったり、職員室を良くするためにどうすればいいかを考えるチームがあったり、ある特定の子の変化を丹念に追うチームがあったりと、その内容は本当にさまざまです。

――探究について、特定の手法を学ぶのではなく、いろいろな探究について学んでいくのもLCLの特徴ですね。

LCLを立ち上げようとしていた頃、探究学習は「これが正しい」「あれが正しい」ということが出回っていました。でも、それは例えるならば、「カルボナーラ」と「トマトソース」のどちらのパスタが正しいかを言い合っているようなものではないかと感じていたのです。

しかも、それを言い合っている人たちは、自分で食べたこともなければ、作ったこともない。だったら、とにかくレシピを教えてもらって、一度作ってみたらいいじゃないかと考えました。そうすれば、「自分はトマトソースの方が好きだな」「こういうアレンジを加えた方が良いかもしれない」などと思うはずです。

イエナプランが正しいとか、国際バカロレアが正しいとか、いやいやPBLだとか、そういう対立は良くないし、意味がありません。

だから、LCLでは「唯一の正解はない」ということを徹底しています。「こたえ」はどこかにあるのではなく、一人一人それぞれで、あなたの中にあるのです。8カ月かけて自分らしい実践ができるように、自分なりの探究を定義付けて、言語化できるようにしていくのです。

うまくいかないことも含めて、体感する
――先生たちが学び手となって「探究する」ことで、どのような変化があるのでしょうか。
LCLではいろいろな探究を学び、自分にフィットするものを捉えていく

LCLでは、よく知らない人たち同士がいきなりチームになって、自分たちの探究プロジェクトを行うことになります。やってみると分かるのですが、知らない人と一緒にプロジェクトをやるというのは、大人でも結構大変です。プロジェクトが思ったように進まない時期もあるので、参加者からは毎年「キツい」という声が聞かれます。

でも、よく考えてみたら、学級も同じですよね。異なる個性や特性を持った子供たちが集まっているわけで、それぞれが違うことに興味を持つし、思考や対応、表現の仕方も違う。多様な子供たちが、学級というチームになって何かに取り組むということは、どういうことなのか――。それを先生たちにも体感してもらうのです。

チームだから大変なことも、チームだからこそできることも、その両方を体感として得る。そうすれば、子供たちに対して、「なぜうまくいかないのか」「仲良くやりなさい」とは、安易には言えなくなるはずです。

――もともと企業で働いていた藤原さんにとって、教師とのプロジェクトで感じることはありましたか。
民間企業出身の藤原氏は「最初は先生との感覚の違いに驚くことも多かった」という

初めの頃は感覚の違いに驚くことも多かったですね。私はそれまで医療系のコンサルタントの仕事をしていたため、あらかじめ決まった仕事をやるというより、プロジェクトベースで仕事を進めることの方が多かったんです。ゴールが見えていなくても、取りあえず走りだして、何かをつくっていくということを職にしていました。

私にとってはそれが当たり前でしたが、学校の先生は何も分からないのに走りだすことに慣れていなくて、「まるで暗闇の中を歩いているようです」と言われることもありました。

ビジネスの世界では、プロトタイプを作りながらプロジェクトを進めていくことがほとんどです。でも、先生の世界では、「きちんとしていないもの」「未完成のもの」を出すと怒られるとのことで、その話を聞いて本当に驚きました。

学校の先生と企業人では、さまざまな点でプロジェクトの進め方が違います。どちらが良いということではなく、多様なバックグラウンドを持つ人たちがプロジェクトを共にすることで、お互いのやり方を知るきっかけになります。意見ややり方が違う人と、どう折り合いをつけていくのか。そういったことも、新たな学びにつながっていくのだと思います。

(松井聡美)

【プロフィール】

藤原さと(ふじわら・さと) (一社)こたえのない学校 代表理事。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。コーネル大学大学院修士(公共政策学)。日本政策金融公庫、ソニーなどで海外アライアンス、新規事業立ち上げなどを経験。仕事をしながら子育てをする中で「探究する学び」に出合い、2014年「こたえのない学校」を設立。小学生向けの探究型キャリアプログラムを実施するほか、16年から学校教育に携わる教師と学校外で教育に携わる多様な大人が出会い、チームで探究プロジェクトを実施する「Learning Creator’s Lab」を主宰。18年、経産省「未来の教室」事業の採択を受け、世界屈指のプロジェクト型学習を行う「High Tech High」の教員研修プログラムの日本導入に携わる。著書に『「探究」する学びをつくる』(平凡社)。

この特集の一覧

関連